NTCサーミスタ
電子部品のチカラで化石燃料からの脱却を支える
カーボンニュートラル達成に向けた取り組みにおいて、再生可能エネルギーの活用と並ぶ大きな柱となるのが水素エネルギーの活用です(図1)。
生活者にとって、水素を活用している様子を目にする機会は、たまに見かけるようになった燃料電池車(FCV)や燃料電池バスくらいかもしれません。しかし、タービン、エンジン、ボイラーなど、これまで高出力の動力源や熱源を活用してきた産業の脱炭素化においては、水素の活用が欠かせない取り組みになっています。モビリティ領域の脱炭素化でも、乗用車では電気自動車(EV)の利用が中心ですが、バスやトラックなど大型で長距離運用が求められる商用車や農機、建機、航空機(ドローンを含む)や船舶などでは水素活用を主軸に検討が進められています。
このため、世界中の多くの国や地域において、水素の活用シーンを拡大していくためのさまざまな政策やプロジェクトが進められています。
水素エネルギーは、大きく2つの方法での活用が想定されています。
ひとつは、水素を燃焼させて発生した熱エネルギーを直接利用する方法です。すでに、水素を燃料として、安全かつ高効率に稼働できるタービン、エンジン、ボイラーなどの技術開発が進められています。この方法は、比較的大きな出力が要求される用途に適用されます。
もうひとつは、燃料電池を用いて電力に変換して利用する方法です。学校の理科の実験で見た水の電気分解とは逆の反応を起こして、水素と大気中の酸素を基に、水と電力を生み出します。この方法は、比較的低出力での用途で利用される傾向があります。1台の燃料電池でカバーできる出力は、バスの動力源として利用するレベルが実用的上限になりそうです。また、電力に変えて利用すれば、水素を燃焼させる場合よりも出力制御が容易なため、精密な稼働制御が求められる用途にも使われます。
水素を効果的かつ効率的、安定的に活用し、さらに多様な利用シーンに適用可能にするためには、水素の活用を適切に管理・制御するための電気電子システムを併用する必要があります。たとえば、水素の製造・貯蔵・輸送・利用に関わる設備には付随して、安定電源や電力変換器、センサ、ノイズ対策回路などが使われています。そして、水素活用の適用先の拡大に向けて、これらの技術にも高度化が求められています。
エネルギー源として利用される水素には、化学的な組成が変わるわけではないのですが、製造方法が異なる3種類の水素があります(図2)。「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」です。そして、それぞれ、脱炭素化への貢献の度合いが異なります。
グレー水素とは、石炭や天然ガスなど化石燃料を原料として作り出す水素です。石油の精製や製鉄所でのコークスの製造過程で、副産物としても得られます。また、化学的な処理や熱処理による改質で、作り出すことも可能です。身近なところでは、家庭用燃料電池(エネファーム)において、都市ガスを原料として作り出したグレー水素を利用しています。ただし、グレー水素は、生成過程でCO2を発生するため、直接、脱炭素化に寄与することができません。一方、ブルー水素とは、グレー水素の生成過程で発生したCO2を大気中に放出しないように、回収・貯留・利用する仕組みを付加した生成システムで作り出したものです。CO2の放出量は減りますが、回収・貯留・利用に相応のコストが掛かります。
一方、グリーン水素とは、太陽光や風力など再生可能エネルギーで作り出した電力を、水を電気分解するために利用して、作り出す水素のことを指します。グリーン水素ならば、CO2の排出をゼロにすることが可能です。また、太陽光発電など発電量が不安定な発電手段において、余剰電力を貯蔵し、不足時に利用する用途にも利用できます。バッテリを利用した大容量エネルギー貯蔵システム(ESS)も同様の用途に利用されていますが、グリーン水素は、より大容量の貯蔵が求められるケースや工場やデータセンターなどの非常用電源としての利用が想定されています。
再生可能エネルギーと水素エネルギーは、補完関係にあると言えます。こうした背景から、各国や地域の政府は、グリーン水素活用を促進する政策やプロジェクトを推進しています。たとえば、欧州委員会とEU域内の水素関連事業者で構成された組織欧州クリーン水素同盟では、2022年5月5日、域内の電気分解事業者によるグリーン水素の生産能力を2025年までに現状の10倍まで拡大する計画を発表しています。
水素活用を後押しするために、電気電子技術で貢献できることは多くあります。
まず、グリーン水素を製造する際の効率を高めるために、電力効率の高い直流電源が求められています。水の電気分解に必要な電力は、1.23V以上と低いものです。ただし、メガソーラーなど大出力の再生可能エネルギー設備から得た電力を使ってグリーン水素を大量生産する場合には、電気分解用電極を直列および並列に数多く並べ、高電圧・大電流の直流電力を、脈動することなく供給できる直流電源が必要になってきます。
こうした技術は、めっきなどの表面処理や苛性ソーダのような化学品の製造に向けた、既存の工業用・産業用直流電源技術をベースに開発されています。現状の水素製造施設では、電圧が数V~数百V、電流が10A~数千Aの直流電源が主に使われています。
施設の規模は多様であり、オンサイト型小型水素ステーション用の小容量からメガワット級水素製造プラント用の大容量まで、さまざまな容量の直流電源の需要が高まっています。このうち、大容量対応のものは、交流の系統電力網につないで利用するケースが多いため、系統に対する高調波の影響を最小化するための対策も求められてきます。また、安定した直流電力をより高効率に作り出すため、高性能なパワー半導体であるIGBTやSiCベースのMOSFETを活用した電源回路の構成も検討されるようになりました。
一方、水素エネルギーを燃料電池で電力に変えて利用する場合には、出力を利用目的に合った直流電力や交流電力に変換して安定供給するための電力変換器が必要になります。その他にも、燃料電池での電力生成からモータなどで電力を消費するまでの一連の過程を監視し、水素ガスの漏れや短絡、熱暴走などが起こらないように安全制御するための管理・制御システムが必要になります。そこでは、数多くのガス、圧力、電流などを検知するセンサなどが使われます。
水素活用は、比較的高い出力が求められる用途を起点として応用が広がっています。しかし、グリーン水素の生成や燃料電池の効率向上、低コスト化に向けた技術が成熟してくれば、活用システムをダウンサイジングして、より低出力の機器のエネルギー源としても利用していく可能性もあります。
一般に、水素を郊外の発電所の側で大量生産して、消費地まで運んで利用しようとすると、運搬時する過程で大きなエネルギーを損失することになります。生成した水素ガスを圧縮したり、冷却して液化したりする必要があるからです。より運びやすい化学物質に変換して輸送する方法もありますが、その適用にも相応量のエネルギーを消費することになります。このため、できれば水素は地産地消できるようにした方が利用効率を向上できます。
すでに現状のガソリンスタンドのようにさまざまな場所に水素ステーションを分散配置し、その場で水素を生成して、各種モビリティの燃料として供給するといった構想が実用化を目指して進められています。さらに進んだ試みとして、スマートフォンなどを充電するためのモバイルバッテリとして利用可能な携帯型燃料電池が商品化された例や、太陽光で水を光分解する光触媒技術によって水素生成施設の小型化と分散配置を推し進める検討も進んでいます。
水素は、再生可能エネルギーを補完するカーボンニュートラル達成に欠かせないエネルギーです。ただし、水素ガスは、身近な場所で安全に利用するためには相応の対策が必要になります。安全かつ高効率に利用するためには、安全基準や法整備と共に、多様なセンサを活用した管理・制御システムや高効率な直流電源、電力変換回路など、電気電子技術の活用とさらなる高度化が必須になります。そこでは、エレクトロニクス関連企業による新技術の開発・提案が大いに期待されています。