無線センサによる見える化で製造業DXを推進
IoTツール導入による施設管理の課題改善
エアコンで快適に空調され、最適な明るさに調整された照明。高層化したビルは、高速エレベーターにより階の移動にもストレスを感じません。
一方で、ビル管理担当者は日々昼夜を問わず設備を巡回点検し、点検結果を点検表に転記、報告書を作成するといった厳しく地道な業務に終始しています。
ここでは、このような設備管理が抱える問題を解消すべく、IoT技術の導入を含め設備管理のDXを推進してビル管理担当者の負担を軽減。さらに省エネを実現した株式会社村田製作所 みなとみらいイノベーションセンターでの実例について、同センターで設備管理を担当する芳賀、東京支社で営業を担当する山本に聞きました。
――設備管理のDXに取り組むきっかけとなった問題や、IoTツールの導入において懸念された問題について、お聞かせください。
芳賀:設備管理の業界では、人手不足が慢性化しています。設備管理における運営維持業務における作業時間分析を行ったところ、日常点検、月次・定期点検整備業務、トラブル・クレーム対応が業務全体の80%を占めます。特に日常点検において87%は人が現場に赴き、目視によりメーターを読んで入力する必要がありました。この負担は、かねてより技術者不足という問題を抱えていたなか、無視できない問題でした。
芳賀:センシングに必要なセンサやネットワークなどは、入居者が確定していないビルを設計する段階では分からないことがほとんどです。分かるのは、ビルが建って入居者が決まってからです。完成したビルにセンサやネットワークを敷設するには追加工事が必要なばかりではなく、その費用は高額です。また、センシングしたい場所やデータの突発的な発生や変更に対しても追加工事が欠かせません。
山本:さらにセンサを設置しネットワークで接続して収集したデータは、解析して管理に役立てなければなりません。データの解析は、PCで解析ツールを使って行います。しかしビル管理担当者には、これまで解析を行った経験がない人が多く、データ活用に通じた人材の育成や採用などが必要になりました。
――さまざまな問題を乗り越えて、設備管理のDXを実行されました。実行後の効果についてお聞かせください。
芳賀:日常点検、月次・定期点検整備業務、トラブル・クレーム対応が業務全体の80%を占めています。この80%のうち、日常点検が全体の40%を占めます。IoTツールの導入により、検針作業などの日常点検に要する時間を大幅に削減することができました。また、日常点検の時間を削減できたことにより、一人当たりの設備管理面積を大きく拡げることが可能になりました。
山本:エリアごとに制御用センサを設置したほか、無線温湿度センサを設置し計測しています。センサのデータは無線ネットワークで収集します。センサから値を得るばかりでなくヒートマップにより温度のムラを見える化し、入居者が求める環境品質の確保を行っています。また、電子部品の研究開発など工場と同じ環境が求められるフロアでもIoTツールを導入し、研究開発に最適な環境を実現しています。これにより環境悪化による研究のロスを抑制し、開発スピードUPに貢献しています。
芳賀:2011年に発生した東日本大震災では、ムラタの各拠点も大きな被害を受けました。その反省を活かし、入居者の安全を確保するためにビル内の各所にネットワークカメラを設置して活用して、万が一の事態にも即座に対応できるシステムを採っています。また、設備を停止や起動をリモートで行う「遠隔起動停止システム」も稼働済みで、大規模災害時には遠隔から設備を停止または起動することも可能です。
芳賀:空調や照明の不調など、入居者からの突然の問い合わせにも15分以内に確認し、30分以内に対応することを目標にしています。初動を早くすることを第一に考え、中央監視の温湿度などの警報発報値を、管理基準値よりも厳しく設定し運用することで、利用者からの問い合わせや対応依頼がある前に対応しています。
――多くのメリットがある設備管理のDXですが、実現するまでにはさまざまな課題があったと思います。どのような課題があり、どのように解決されたのでしょうか。
芳賀:「省力化」には抵抗がなかったわけではありません。しかし、管理面積の拡大は全社を挙げての取り組みであり、我々としても、増大する点検業務の効率化は喫緊の課題でした。
先の質問でお答えしたとおり、日常点検、月次・定期点検整備業務、トラブル・クレーム対応が業務全体の80%です。この80%のうち、日常点検が全体の40%を占めます。この日常点検に要する時間をIoTツールの導入により大幅に削減することには、異論はありませんでした。
山本:一般に、建設が終わった建物へのセンサなどの導入には追加工事が必要で、その費用は小さくありません。しかし、電池駆動の無線センサやメーター類の自動読み取りカメラなどを利用することで、供給電源の追加や中央監視装置へのネットワーク配線工事といった追加工事を最低限に抑えることができました。また、センサは取り付けや取り外しが容易に行える構造になっているため、最適な位置を選んでデータを取ることができました。
芳賀:収集したデータはエネルギー消費の最適化や予知保全といった目的に活用しなければ、意味がありません。しかしそれにはデータの分析や解析といった知識が欠かせず、学習のための時間が必要でした。そこで、IoTツールの導入により大幅に削減された日常点検やデータ入力の時間を、データの解析や分析といったデータを活用するための学習に割り当てました。従来の設備管理業務に慣れた担当者にとって、データの解析や分析は難しい分野です。しかし体力的に厳しく危険をともなう作業から解放されたということは、大きなメリットだと思っています。
芳賀:我々が目指すのは人にやさしい設備管理です。我々が言う「人にやさしい」とは、作業の「安心・安全」という意味です。それは設備管理から「危険」「キツイ」という作業をなくし、データの分析や解析といったより高度な作業にシフトすること。そして労働災害をなくすことです。さらにこの活動をほかの拠点に展開することを目標としています。
山本:たとえばセンサで危険な発熱体を検知し、ヒートマップから断熱箇所を特定し断熱材を施して、高温による危険から作業者を守っています。
芳賀:つまり「人にやさしい」設備管理とは、省エネや一人当たりの管理面積の拡大といった経済的メリットと、作業者を危険から守り、より高度な仕事に取り組むことによって高いモチベーションを得ることを両立する取り組みであると実感しています。