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施設管理面積の拡大を目指すビルマネジメントとは-スマートビルへのIoTの導入

1. スマートビルとは

「スマートビル」とは、IoTやAIなどの技術を活用して、照明やエアコン、給湯などを行うさまざまなエネルギーを自動的に制御・管理するビルマネジメントシステムを備えた建物のことです。スマートビルでは省エネと快適な居住性と安全性を実現しつつ、ビルマネジメントに従事する作業員の負担を軽減し、より効率的なビルマネジメントが可能です。

2. ビルマネジメントが抱える問題

パンデミックを契機とした在宅勤務やオフィスのフリーアドレス化の普及などにより、オフィスフロア面積は縮小しつつあります。また、経済成長が著しい新興国では労働者賃金の高騰や人手不足が発生。さらに、テロや紛争の発生に伴い、原油をはじめとする原材料価格の高騰も深刻化しています。
ここでは、上記のような問題がビルマネジメントに与える悪影響について説明します。

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図1

賃金と人手不足-非効率なビルマネジメント

パンデミック以降、世界経済は停滞とインフレによる物価高騰の様相を呈していますが、新興国においては労働者賃金の上昇がみられます。ビルマネジメント業界も同様で、人材確保のためには雇用賃金の上昇は避けることができません。さらに新興国では、ビルマネジメントの専門知識の習得が難しく、技術者不足により最新技術の導入や活用を困難にしています。結果、人力に頼った非効率な業務が多くみられ、賃金上昇と相まってビルマネジメント経営を圧迫する要因になっています。

原材料価格の高騰-管理コストの増大

世界各地で発生するテロ・紛争などにより、先行き不安による原油や天然ガスをはじめとした原材料価格の高止まりが続いています。これに伴い電力価格も高騰しており、空調や照明をはじめとするエネルギーに要するコストは増大の一途をたどっています。原材料価格の高騰は、多くのエネルギーを必要とするビルの維持・管理コスト増大の根本的原因となります。さらに、原材料価格の高騰は国際的な問題であることからほかの問題と異なり一企業による経営的手法での解決が難しく、最新技術の導入などによる抜本的な改革が求められます。

オフィスフロア面積の縮小-受注価格の下落

パンデミックへの対策として導入された在宅勤務は、オフィスの縮小によるフロア賃料の抑制という経済効果を企業にもたらしました。同時に懸念されたコミュニケーションの問題は、ネット会議の普及やフリーアドレス化により一定の解消が実現しつつあります。
このような現象は、フロアの余剰によるビルマネジメント業務の受注価格の下落の原因となっています。

3. スマートビル実現に向けた取り組み-IoT化によるブレークスルー

ビルマネジメントが抱える問題に対し、さまざまなアプローチが試みられています。ここでは、その中から主な取り組みを紹介します。

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図2

効率化-ネットワークの活用

ビル内の各所にセンサを設置し、ネットワークを介してデータを収集します。管理者にはさまざまなデータがリアルタイムで届くため、建物を効率的に一元管理できます。さらにクラウドサービスを活用すると遠隔のビルを監視することも可能です。

エネルギー管理-センシングテクノロジーの導入

温度や湿度、CO2濃度や照度、人流などを測定するセンサやカメラをビル内に設置し、これらセンサやカメラが取得したデータを、ネットワークを介して収集して、エネルギー管理に活用するというセンシングテクノロジーを導入します。センサやカメラから収集したデータを解析することで、エネルギー使用量の最適化が可能になります。

既存ビルやオフィスビル以外の施設でのアプローチ

スマートビル化への取り組みは、新たに建設するビルに限ったことではありません。既存ビルの大規模改修時に、省エネ設備やセキュリティー設備などの限定的な導入だけでも大きな効果を得ることができます。さらに、人の出入りや時間帯による利用者の数など、ビル内のさまざまなデータを収集することも可能であり、これらを分析することにより商業ビルではマーケティング調査も可能になります。

4. スマートビルが生み出すメリット

最新テクノロジーが実現するスマートビルには、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、代表的な四つのメリットについて紹介します。

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図3

IoT技術の導入による一人当たりの施設管理面積の拡大

クラウドコンピューティングの技術を活用することで、遠隔地のエネルギー消費量や空間環境を把握し、一元管理することができます。
消費電力や空間環境の可視化だけでなく、クラウドサービスを利用することで、たとえば複数のビルの管理を一か所で行うことができます。リモートで監視することができるため、各ビルに担当者を配置する必要がなく、異常が発生した場合にのみ担当者を派遣することでトラブルに対応することができます。
このようにIoT技術を導入することは、技術者不足や人手不足という課題を解消し、さらに一人当たりの施設管理面積の拡大の実現に役立つアプローチであるといえます。

省エネと予知保全の実現

電気やガス、水道などの使用量を示すデータを分析し、分析結果とエネルギー機器の稼働を連動させることで、効率的にビル内のエネルギー消費を最適化できます。
スマートビルでは、常時エネルギー消費量を測定することでエネルギー消費量のみならず、機器の稼働状態なども把握することができます。またこのデータと連動しエネルギー機器を制御することで、最適な省エネ効果を得ることもできます。さらに機器の故障や異常などのトラブルを早期に発見し対応する予知保全の実現も可能です。

空間環境改善

CO2濃度や温度などの空間環境を示すデータの可視化や分析により、適切な空調管理や換気が行われることで、施設利用者や入居者の快適性が向上します。スマートビルでは、たとえば室内のCO2濃度をセンサで取得し濃度分布を確認することで、CO2濃度から外気の取り入れ量を調整することができます。これにより、過大な外気量の取り入れを抑制することができると同時に、空調に要するエネルギーを削減することができます。

セキュリティーと安全性の強化

ビル内に設置したカメラやセンサで侵入者を検知することができます。また、社員証や静脈の読み取りによる従業員の出社状況や座席の管理も可能です。さらに、温度センサを使用して、火災を検知することもできます。
スマートビルでは、侵入者や火災を検知するばかりでなく、警報機と同期させたり通報システムと同期させたりすることで、非常事態に対するすばやい対応が可能です。

5. BASとBEMS

スマートビルのマネジメントでは、BASやBEMSといった言葉が頻繁に用いられます。この二つの用語はビルマネジメントでは欠かせない技術用語であり、ここではこの両者の意味と関係について説明します。

BASとは

「BAS」はBuilding Automation Systemの頭文字を取った略称で、「ビル内のさまざまな設備を自動化し、一元管理するシステム」のことです。BASは中央監視装置で空調・照明・セキュリティーなどの設備の運転やエネルギー消費量などをすべて監視し制御するシステムです。

BASの構成例のイメージ画像
図4:BASの構成例

BEMSとは

「BEMS」はBuilding Energy Management Systemの頭文字を取った略称です。BEMSは、フロアや部屋、装置に設置したセンサから得たデータに基づいて、ガスや電力など「エネルギーの消費量を見える化し管理するシステム」です。BASに似ていますが、BEMSはBASをさらに発展させて、すべての設備の運転やエネルギー消費量などの見える化に特化したシステムであるといえます。さらにエネルギーの消費量の見える化だけでなく、センサから得たデータを分析することでエネルギーの供給を統合的かつ効率的に制御することが可能となり、省エネや快適性の向上を実現します。

BEMSの構成例のイメージ画像
図5:BEMSの構成例

BASとBEMSの関係

効果的な省エネを行うには、現在のエネルギー使用状況の把握が欠かせません。エネルギー使用状況を示すデータの収集は、BASのセンサやネットワークを利用することで行えます。BEMSでは、収集したデータをグラフや表という形で見える化します。これにより、余計なエネルギー使用を顕在化することができます。つまり、BEMSはBASのエネルギー管理機能を、より強化するためのシステムであるといえます。
そして省エネと快適な居住性、ビルマネジメントに従事する作業員の負担軽減を目指すスマートビルにとって、BASを基盤としたBEMSの導入は欠かせない取り組みとなっています。

6. まとめ-スマートビル化が生み出すものとは

スマートビルは、IoT技術を基盤とした最新のビルマネジメントテクノロジーによって実現されます。そして、省エネや一人当たりの施設管理面積の拡大、セキュリティーの強化など、多くのメリットをもたらします。同時に、パンデミックや国際的な原材料問題に対しても、強靭なビルマネジメントを実現します。これらのメリットは、ビルマネジメント業界に業務の安定化と、より高度な作業に従事するための「ゆとり」へと繋がる生きた技術であるといえるでしょう。

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