企業間アライアンスによって創造する、村田製作所の新しいデータビジネスとは(前編) ──現地パートナーと共創する新事業

村田製作所(以下、ムラタ)がこれまで培ってきたセンサや無線通信の技術を活用して、交通量データを収集する「トラフィックカウンタシステム」。このシステムを活用し、データを販売する事業を東南アジアを中心に現地のスタートアップ企業らとアライアンスを組んで展開しています。従来の主流であった電子部品を製造・販売する事業モデルから、データ販売というサービス事業に挑むにあたって、企業間アライアンスの役割はますます重要性を帯びてきています。今回は、「トラフィックカウンタシステム」を運用しているムラタの津守にスタートアップ企業とのアライアンスについて聞きました。また、ジャカルタ(インドネシア)への事業展開でアライアンスを組んで協業している現地パートナーのアグリシナル・グローバル・インドネシア(Agrisinar Global Indonesia)代表のハルノ・スビヤント(Haruno Subiyanto)氏にも話を伺いました。

アライアンスの決め手は、「本当に信頼しあえるかどうか」

──「トラフィックカウンタシステム」で、ムラタが企業間アライアンスを始めたきっかけについて教えてください。

津守 新規事業に取り組む中で、企業や個人と組んで、外部の得意分野や独自の技術を活かす取り組みを始めたいと思ったことがきっかけです。というのも、以前、シリコンバレーにいた時期に、アクセラレーターの取り組みが本格的に流行り始めたのを目の当たりにしたことが背景にあります。彼らは、単に資金だけを提供するということだけでなく、たとえば起業時にまずはオフィスを無償で提供したり、人的ネットワークの構築を支えたり、多様な手段でスタートアップの事業を支援していました。そのトレンドは、大企業による単なる企業買収、事業買収というかつての手段とはまったく違っていました。企業にあわせたさまざまな支援の方法があることを知り、私が担っている新規事業でも外部企業に一歩踏み込んだ支援をしたいと思いました。そして一方的な支援ではなく、一緒に事業を成長させていくことの可能性も見出しました。すべて自社のリソースでまかなうのではなく、最適なアライアンスを結んで協業したほうが、自前主義よりも効率が良い結果をもたらすことがあり得るということですね。

トラフィックカウンタシステムを担当する、村田製作所の津守

──企業間アライアンスで重要なポイントは、どのようなところにあるのでしょうか。

津守 アライアンスとは、「お互いの価値を見つけ合うこと」だと解釈しています。しかし、企業の文化や規模、仕組みはそれぞれ違っていて、それぞれが考える「常識」に大きなズレがあることも少なくありません。そのような場面では、まず、常識のズレを認識しながら、お互いの立場を深く理解すること。そのうえで協業を前進させるために本当に必要な条件を一緒に考えていくことが、良いアライアンスを築くことにつながると思っています。そして、アライアンスを組むかどうかを最終的に判断する局面では、「本当に信頼しあえる関係になれるかどうか」という観点を重視しています。そうでなければ、苦しい状況になった時に、お互いに相手を疑ってしまうことにつながります。そのような関係では、一緒に事業を成功させることは難しいでしょう。

現地とのパートナーシップが、「現地のベネフィット」を生み出す

──トラフィックカウンタは、東南アジアでの事業をどのようにスタートさせたのでしょうか。またジャカルタの現地企業であるアグリシナル・グローバル・インドネシアとムラタの企業間アライアンスについても教えてください。

津守 実は当初、トラフィックカウンタシステムは欧米向けのシステムとして考えられていました。しかし、交通や環境に関しての多くの問題を抱えている東南アジアのほうが、より有効なデータ活用の道が開けているのではないかという意見が多く寄せられました。そこで2014年秋に、バンコク(タイ)で試用を開始しました。まずはパートナー企業を探してアライアンスを組み、一緒に実証実験やマーケティングをおこなうところから始めました。2016年からはインドネシアでも並行して活動を開始し、それらをもとにビジネスモデルを立案し、現在はそのビジネスモデルを実運用するフェーズに入っています。今日、お越しいただいているアグリシナル・グローバル・インドネシア代表のハルノさんは、ジャカルタでの現地パートナーとしてアライアンスを組んで一緒に事業を進めています。

――ムラタとのアライアンスはどのようなものでしたか?

ハルノ ジャカルタでの実証実験やマーケティングの初期段階から、常にジャカルタの「現地でのニーズ」に気を配っていたことが印象的でした。また戦略立案でも、私たちのさまざまな要望に柔軟に対応してもらえました。時にはリスクを先行してとっていただき、私たちがチャレンジしやすい環境を用意してくださったと思っています。大企業であるムラタが、いわば「寛容さ」を発揮することで、私たちも思い切りチャレンジできる。こうした信頼関係に基づいた協業が、事業の結果に大きく貢献するのだと思います。

――現在はどのようにして協業を進めているのでしょうか。

ハルノ 2020年1月にトラフィックカウンタシステムを本格的に導入し始めました。私たちが設置、運用するムラタのトラフィックカウンタが収集した交通データは、サーバ上に蓄積され、ジャカルタ政府や屋外広告事業社が必要としているデータを、扱いやすい状態にして提供しています。

アグリシナル・グローバル・インドネシア代表 ハルノ・スビヤント氏

それらのデータは、ジャカルタ政府ではインフラ・プランニング部門と交通マネジメント部門が、交通インフラを改善したり交通量のコントロールをしたりする施策に、屋外広告事業社では屋外広告の視聴者数測定に活用されています。

津守 現在、インドネシアの他にもタイ、マレーシアでプロジェクトを進めています。同じ東南アジアの近隣国ですが、それぞれ税制、政府の仕組みや法律、あるいは宗教やカルチャーなどは異なります。ですから、国や地域に合わせてデータを分析し、検証することが非常に重要です。システムを提供するだけの支援にとどまるのではなく、地域にあわせた情報のサプライチェーンを構築することが、現地の人のベネフィットになるものを届けることにつながるのだと思います。

 

トラフィックカウンタシステムの紹介動画

アライアンス型の運用が、事業成功のカギになる

──タイやインドネシアでの取り組みを通して感じたことはどのようなことでしょうか。

津守 大事なのは、「現地の人たちが、現地に必要な情報を使って、現地でオペレーションすること」です。トラフィックカウンタシステムは最初からきっちりとしたビジネスプランが存在していたわけではありません。現地のニーズや環境に合わせてビジネスプランを柔軟に変えていく必要がありました。同じ東南アジアでも、トラフィックカウンタシステムを簡単に現地に適合できないケースがほとんどです。そのため、現地のパートナーとともに現地のニーズを的確に理解して、都度、新しいアイデアに適合させていく。アライアンス型の運用が事業成功のポイントだと感じました。

 

ハルノ まさにそうだと思います。ジャカルタでは交通渋滞が深刻な社会課題です。トラフィックカウンタで収集したデータは質が高く、これまでにはないデータでした。しかし政府がこのデータの利用を決定し、さらに活用できるようにするまでにはいくつものハードルがありました。高度な技術と知見を持つムラタとジャカルタの企業である私たちとのアライアンスなしには乗り越えることは困難だったと思います。

現在では、ジャカルタ州政府はトラフィックカウンタのデータを公共交通機関の交通量を抑え、通勤している人の人数をコントロールする政策などに活用しています。新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるための施策検討にも役立てられています。*1

*1 取材は2021年1月に実施。

ジャカルタの長年の社会課題「交通渋滞」。トラフィックカウンタシステムのデータを活用し、現地パートナーのハルノさんらとともにその緩和・解消に向けて取り組んでいる。

津守 コロナ禍での企業の「ふるまいかた」というのはまさに世界中で考えなければいけない課題です。ジャカルタ州政府は、我々が提供している交通量のデータだけではなく、医療機器の供給量や医療体制のデータなどもふまえて、外出規制などの対応策を日々検討しています。自社のビジネスのことだけを考えるのではなく、インドネシアのローカルパートナーや政府が必要としていることを一緒に考えていけば、「インドネシアの将来のあり方」について我々も一緒に考えることができます。彼らのより良い未来に向けたコラボレーションにしていきたいですね。

データから広がる新たな企業間アライアンス

──このシステムの将来性をどう捉えていますか。

津守 はい。まず、ムラタという電子部品メーカーがこのビジネスを手掛けるという点で将来性を感じています。実際に協業をしてみてわかったことは、私たちが電子部品ビジネスで蓄積してきたデバイスの知見が非常に有効だということです。こうしたシステムは、一般的にはシステムインテグレータが開発し、データを取得するデバイスや、内蔵するセンサの開発は別の会社に委託します。その場合、システムインテグレータはシステム開発が専門ですので、取得したデータの正確さを判断するにはデバイス開発の会社との間で相当の議論が必要になるでしょう。しかし私たちは取得したデータが正しいかどうかすぐにわかります。もしデータに問題があるとしたらデバイスをどう改善したらいいのかもわかります。デバイスを熟知していることはムラタの強みだと思います。この強みを活かせば、有効な「データの活用方法」も提案できると考えています。

こうして、提供するデータの種類や質が、市場のニーズにマッチすればさらに将来性のあるビジネスが生まれる可能性を感じています。現地のニーズに適したデータを、現地を理解している企業と一緒に工夫しながら活用することができれば、あらゆる社会変化に適応できるシステムになるのではないでしょうか。

 

ハルノ そうですね。たとえば、データを観光地の都市計画を立てるときに使うこともできると思います。さらに軌道に乗れば、シェアモビリティといった他の業界でもお互いのベネフィットを見据えた仕事ができるのではないかと思っています。そう考えると、ムラタとのアライアンスはまだ始まりに過ぎないかもしれません。今後はムラタの他の部門ともコラボレーションできたらうれしいですね。

──海外企業とのアライアンスを今後はどのように展開されるのか、その展望をお聞かせください。

津守 すでにデータサービスのベーシックな仕組みが整いつつある地域では、交通情報の分析や、交通情報以外の屋外データの取得と活用の方法を現地パートナーと開発していこうと思います。例えば、屋外看板広告の出稿を検討する際に、時間帯ごとの交通量や車種のデータを生成するといったソリューション(特許申請済み)です。さらにはアジア圏での経験と実績を活かして、コペンハーゲン市(デンマーク)のような、自転車の交通状況をリアルタイムで把握してコントロールしたいといったニーズに対しても取り組みを始めています。欧米でも現地パートナーとアライアンスを組んで新しい価値を生み出していきたいですね。

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