疲労ストレス計 MF100
村田製作所(以下、ムラタ)は2025年5月21日、国内最大規模の自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展」(横浜市)に出展しました。今後、中長期的に電気自動車(EV)のさらなる普及が見込まれるなか、ムラタはEVの信頼性向上に貢献する製品や技術を披露しました。また、車に関連したビジネスは広がりを見せており、ムラタは部品以外のソリューション・サービスについても、注力しています。今回はこうした多様化する車およびその周辺領域で活躍するムラタのビジネスについてご紹介します。
EVの普及が進んでいくなか、EVの信頼性向上につながる製品が、車載用NTCサーミスタの「FTIシリーズ」です。EVのインバータなど、パワー半導体が使われる箇所で、温度検知の部品としての活用を想定しています。すでに量産を開始しました。
近年、自動車の電装化や高機能化に伴い、高効率な電力変換技術の重要性が増しています。特にEV向けインバータやDC-DCコンバータでは、小型化・高効率化・高出力密度のニーズが高まっており、パワー半導体の性能向上や信頼性の確保がカギを握っています。
そして、このパワー半導体を熱による故障から防ぐために、一般的にNTCサーミスタが温度検知の用途で使われています。
しかし、従来のサーミスタは絶縁性能がないため、高い電圧のかかるパワー半導体から離れた位置に実装せざるを得ず、その結果として正確かつ迅速な温度検知が困難でした。このような制約によって、パワー半導体の性能を十分に引き出すことに限界が生じていました。
この問題を解決するために、ムラタが新たに製品化したのがFTIシリーズです。サーミスタを樹脂で覆うことで、3.5kVの絶縁性能を実現。パワー半導体が実装されている高電圧の基板ランドにも設置できるようになりました。
使用可能な温度範囲は175°Cまでと高温環境に耐えられます。
内部のチップサーミスタは樹脂に覆われているとともに、ワイヤーボンディングのための外部電極と接合しています。独自の高信頼性接合技術を採用することで、175°Cまでの高い温度範囲での動作保証を実現しました。
「175°Cの高温保証のあるワイヤーボンディング対応の樹脂モールドNTCサーミスタ」という世界初の製品です。
従来よりもパワー半導体に近い場所に設置できるため、基板のコンパクト化に貢献します。ムラタの担当者は「コンパクトになった分を車室空間の拡大や、搭載する電池パックの大型化に活かすことができる」と話します。
また、現在、自動車業界ではSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)という、搭載するソフトウェアをアップデートすることで、機能を更新していく車に注目が集まり始めています。ソフト更新により、車を長く使い続けていくことが期待されるため、車に搭載されるハード部品には、よりいっそうの長寿命化が求められているといいます。
ムラタの担当者は「正確に熱を検知することで、パワー半導体の故障などを減らし、長く使い続けることができるようになる。つまり、車の長寿命化にも貢献していける」と話します。現在の量産品は「半田実装タイプ」ですが、将来的にはより高温に対応した「銀焼結実装タイプ」の商品化を目指しています。
「現在ムラタはNTCサーミスタのグローバルトップメーカーだが、さらにお客様の多様なニーズにお応えできるように車載市場における新商品の創出に取り組み、EV市場の発展に貢献していきたい」(ムラタ担当者)と力を込めています。
EVに搭載される電池の安全利用を支える技術も披露しました。ムラタの「リチウムイオン二次電池の特性解析・劣化診断システム」です。EVに搭載されている電池をこれからも安全に使い続けることができるのか、危険な状態の劣化をしていないのか、独自のシミュレーション解析により、非破壊で性能診断をすることができます。
充電の最中にデータを取得し解析する、独自のアルゴリズムを用います。劣化の要因が正極・負極にあるのかといった詳しい内容まで診断ができます。ムラタの担当者は「膨大な機械学習を要する使用履歴に基づく劣化診断と比べると、低コストで導入できる。様々なメーカーの電池に対応している」と話します。
劣化診断にかかる時間は4時間ほどで、「電池を正確に診断し安全に長く使い続けることで、EVの航続距離・駆動時間の向上などが図れる」(ムラタ担当者)といいます。
また、地球環境という観点からも期待されるソリューションです。EVの電池にはコバルトやニッケルなどの希少資源が使われています。ムラタ担当者は「劣化の診断を通じて、適切なタイミングでのリサイクルを促していけば、環境にも貢献するソリューションだ」と話します。
車に関連したビジネスからさらに幅を広げて、日本のIoT機器メーカーの東南アジアでのデータビジネス展開を手助けするソリューションも打ち出しています。きっかけとなったのは、もともとムラタがインドネシアで手掛けてきた交通量の見える化システム「トラフィックカウンタシステム」です。
ムラタは2013年に同システムを開発し、インドネシアや東南アジアで交通量や車種情報などのデータを取得してきました。これらのデータを分析し、地元行政などにデータ販売をしています。
そして、この経験が「IoTデータサービス基盤」という今回紹介する新たなビジネスにつながりました。ムラタの担当者は「データビジネスの展開では各国のデータ保護法など、現地の基準に準拠する必要がある。我々はすでにこうした法規制や要件に対応できており、このノウハウを提供することで、日本のIoT機器メーカーが東南アジアに進出する際の橋渡しができるのではないかと考えた」と話します。
これまでの東南アジアでのビジネス展開の実績を活かして、インドネシア・タイ・マレーシア・ベトナムを対象として、現地の法規制に対応したデータビジネスができる体制を立ち上げています。
また、データを集めるためのセンサの提供からデータ活用のためのクラウドサービス、システムの監視・運用までの機能をワンストップで提供できる点も特徴です。クラウドなどではトラフィックカウンタシステムで組んできたインターネットイニシアティブ(IIJ)と協業しています。
今後の展開について、「このIoTプラットフォームを活用する企業が増えていき、それらの企業との連携を積極的に進めれば、ムラタ単体では実現できなかったことも可能になっていく」(ムラタ担当者)と期待を込めます。
例えば、橋などのインフラの劣化診断です。ムラタのトラフィックカウンタシステムなどで取った交通量に関するデータと、橋梁の揺れ具合などの振動データを掛け合わせることで、交通量に応じたインフラの劣化状況判断に活かせるのでは、と考えています。ムラタの担当者は「このようにデータを組み合わせていくことで車社会への新たな価値提供ができるはず」と話します。
これまで主観的に判断するしかなかった「疲労・ストレス度」を客観的に評価する、疲労ストレス計 MF100も展示しました。(※疲労ストレス計 MF100は医療機器ではありません。また疾病の予防、診断、治療を目的とするものではありません)
専用の機器で取得したバイタルデータを解析しビッグデータで補正して、自律神経の状態を可視化します。具体的には光学式のセンサと電気式のセンサを併用して心拍の間隔(心臓の一拍一拍の間隔)の「ゆらぎ」をサーバで分析します。このゆらぎを分析することで、自律神経機能の偏差値(疲労)と、交感神経と副交感神経のバランス(ストレス度)がわかります。測定にかかる時間は約2分です。
これまで健康経営の側面から多くの企業で採用されてきましたが、自動車関連企業などからは「快適性」の観点で声がかかっているといいます。
ムラタの担当者は「自動運転の技術が進展していくなかで、人は車内で運転をしなくてもよくなっていく。それに伴って車の活用方法も変化し始めている」と話します。
具体的には「車で移動しながら映画を見る」、「まるでホテルかのように、くつろいで疲れをいやす」といった使い道が考えられるそうです。
ムラタの担当者は「自動車の内装や乗り心地など、快適性に関わる領域での検証に使っていただきたい」と話します。
人とくるまのテクノロジー展は、横浜市のパシフィコ横浜で5月23日まで開催します。ムラタのブースはNo. 335で、来場には公式サイトを通じた事前登録が必要です。人とくるまのテクノロジー展 2025に関するムラタの展示会サイトはこちらです。
ムラタの担当者は「幅広い側面から車市場を支えるムラタの姿を見に来てもらいたい」と呼びかけています。