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“○○テック”の進化を支える電子技術

データを基に快適で持続可能な居住空間を作る「ホームテック」

20世紀、住宅設備や家電製品が急激に進歩し、快適な居住空間が実現するとともに、手間のかかる家事からも解放されるようになりました。そして、安らぎを得る時間や自分磨きや趣味に掛ける余暇が生まれ、文化が花開く素地を生み出しました。さらに21世紀以降、ライフスタイルや社会環境の変化を反映して、居住空間に求めることが大きく変わってきました。

先進国の多くでは、働き方の多様化やライフスタイルの変化から、共働き家庭が増えています。また、少子高齢化が進み、一人暮らしの高齢者も増えています。その結果、住宅には、家事などのさらなる効率化だけでなく、安心・安全の確保、見守り、健康管理などが求められるようになりました。加えて、世界中で加速している脱炭素に向けた取り組みは家庭にも波及し、生活の中で消費するエネルギーや資源の有効活用が求められるようになってきています。エネルギーや資源を大量消費して、豊かな生活を追い求める時代は終わり、サステナブル(持続可能)な住環境を求める時代の潮流が生まれています。

こうした要請に応えて、IoTや人工知能(AI)など最新のテクノロジーを活用し、サステナブルで豊かな住環境の実現を目指す動きが活発化してきています。ここでは、こうした動きを後押しする「ホームテック」と呼ばれる、近未来の居住空間を支える技術開発のムーブメントについて解説します(図1)。

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図1 ホームテックによってサステナブルで豊かな暮らしを実現

個別利用していた住宅設備・家電をネット経由で連携活用

「Home Tech(ホームテック)」とは、住宅などを表す「Home(ホーム)」と「Technology(テクノロジー)」を掛け合わせた造語であり、より快適・便利で、経済的にも、健康的にも、地球環境保全の観点からもサステナブルな住環境を実現するテクノロジー活用のことを指します。ホームテックを適用した住宅は、「スマートハウス」と呼ばれます。また、家事など、居住空間内での人手作業を自動化する技術は、「ホーム・オートメーション」と呼ばれる場合もあります。

冷蔵庫やエアコンなど、これまでの住宅設備や家電製品の多くは、他の機器から独立して機能していました。それぞれ個別に管理・操作する必要があるため、人がいない部屋の照明が煌々と灯っているといった無駄な状態がよく生じます。もちろん、人手でキメ細かく操作すればよいのですが、無駄を最小化するためには、住宅内の多くの機器を、1つひとつ個別に操作しなければならないため、相応の手間と時間を要します。このため多くの場合、無駄は放置されてしまいます。

これに対し、ホームテックでは、設備や機器を家庭内ネットワークにつなげ、他の機器やコンピュータと連携動作させます。これによって、住宅の各所に設置したセンサで部屋や住民の状況を検知し、人がいる部屋だけ照明を灯したり、人が心地よく感じているかを検知して部屋の温度を調整したり、故障しそうな状態を察知したら自律的に修理依頼を出したり、もっと高度な例では洗濯機の洗剤の在庫がなくなりそうなことを察知してネット通販で自動発注するといったことが実現します(図2)。

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図2 ホームテックを使った家電製品の新たな機能

住民のライフスタイルや興味から、住宅の間取りまでデータ収集が可能に

ホームテックでは、住民や住宅の状態や動きをリアルタイムで正確に把握し、いかに効率的で気のきいた設備や家電の制御ができるかが重要になります。その起点となるのが、センサで収集するデータです。いかなるデータを収集し、何に利用するのか、ホームテックの先行事例である「スマートメータ」「スマートスピーカ」「ロボット掃除機」の3つを挙げ紹介します(図3)。

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図3 住民や住宅の状態・動きを知るデータを収集

スマートメータは、電力やガス、水道のなどのメータをネットに接続し、利用用状況をリモート検針するためのものです。計測したデータには、居住者の暮らしぶりやライフスタイルなどが色濃く反映されているため、ホームテックを実践する際の貴重な情報源になります。すでに、電力計の動きから、高齢者の安否を見守るシステムなどが実用化しています。また、欧米では、スマートメータで計測した電力消費の状態と住宅に付設した蓄電池の蓄積電力量を基に、住民間で電力を取り引きする仕組みも実用化しています。安価な深夜電力などを備蓄しておけば、コスト面でのメリットも得られます。

スマートスピーカでは、ユーザが話す自然な言葉の内容をクラウド上のAIで認識し、天気予報を聞いたり、ネットワークに接続している家電を操作したりできます。スマートフォンなどで利用する検索サイトでは、入力した検索ワードを学習したAIがユーザの興味や好みを洞察して、役立ちそうな情報を提示しています。スマートスピーカも同様で、リアルな生活空間での住民との会話から、ホームテックの活用に役立つ情報を得ています。今では、発話者の声の状態から喜怒哀楽など心理状態を読み取ったり、多くの人が集まる部屋で交わされる会話から場の空気を察知したりできるほど賢くなっています。

ロボット掃除機は、家事の手間を省き、常にきれいな居住空間を維持するための手段として、すでに一般消費者にとって馴染み深い存在になりました。現在のロボット掃除機では、部屋の形や家具が置かれている場所をセンサで認識し、デジタルマップを作って、複雑な間取りでも残さず効率よく掃除する賢い機能を備えています。これら家の中の状態を示す情報は、効果的なホームテックを実践する際に役立ちます。

このように、ライフスタイルから好みや興味、さらには家の間取りまで、住民や住居についての多角的なデータが収集できるようになりました。そして、近年では人工知能(AI)など情報処理技術が進歩しており、これらのデータをホームサーバやクラウド上で解析することで、住宅内の設備や家電機器を、快適かつ無駄なく利用できるようになってきました。

APIでメーカの違いを超えた機器の連携が可能に

住宅設備や家電製品などをネットにつなぐ技術には、Ethernetのような有線だけでなく、Wi-Fi®やBluetooth®、さらにより低電力なZigBeeやZ-Waveなどさまざまな特徴を持つ無線技術が使われています。これらに加え、さまざまなメーカの製品を併用しながら、連携動作させるための仕組みが必要になってきます。

住民と家を直接つなぐインタフェースには、スマートスピーカやスマートフォンが使われる場合が多くなっています。このため、異なるメーカの機器を連携動作させる仕組みとして、音声やジェスチャーで操作・コミュニケーションできるバーチャルアシスタントを提供しているIT企業が業界標準の通信プロトコルの規格を定める動きが出てきています。また、日本では、同様のプロトコルに、複数企業が参加するコンソーシアムが普及を促進する「ECHONET Lite」があります。

また、近年では、スマートスピーカやスマホで音声操作できる設備や家電を増やすため、「API連携」を公開するところも増えてきました(図4)。APIとはApplication Programming Interfaceの略であり、ソフトウェアの機能を共有する仕組みのことです。連携動作させる機器を販売するメーカがAPIを公開し、住宅を管理・制御するアプリケーション・ソフトウェアに必要なAPIを組み込むことで、連携動作が可能になります。APIを使えば、インターネットに接続できる機器であれば、連携動作させることができるようになります。

連携動作可能な住宅設備や家電製品の種類が増えれば、ホームテックの活用は、対象が広がり、普及も加速されそうです。快適な居住環境は豊かな生活の礎であり、そこを効率的でサステナブルなものにすることこそが、住民自身にとっても、地球環境にとっても大切だと言えます。

API連携の仕組みのイメージ画像
図4 API連携の仕組み

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