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“○○テック”の進化を支える電子技術

地球を誰もが誇れる星にするための「クリーンテック」

国連が持続可能な社会を実現に向けて掲げた「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」には、環境保全に関わる目標が複数含まれています。

18世紀後半から始まった産業革命以降、人類は自然界の産物を大量収穫し、工業製品に加工して大量消費してきました。そして、生産や消費に伴って、大量の廃棄物も出してきたのです。その結果、自然界の本来あるべきではない場所に、あってはならないモノがばら撒かれ、それが原因で環境を破壊しています。実際、熱帯雨林の伐採による砂漠化や、マイクロプラスチック*1による海の生態系の破壊、さらには将来の宇宙開発を阻む宇宙ゴミなどさまざまな影響が顕在化しています。

*1 マイクロプラスチックとは、破棄されたプラスチック製品が海に流出するまでの過程で、目に見えないほどのサイズまで分解されたプラスチックです。半永久的に海を漂い続け、それを海洋生物が体内に取り込んでしまうことで海の生態系を破壊し、さらにはそれを食べる人間の健康にも害を及ぶことが心配されています。

地球環境の保全というと、とかくエネルギーの脱炭素化に目が行きがちです。しかし、こうした自然環境の破壊も、脱炭素化と同様に早急な対策が求められています。そして、環境に関わる課題を最新テクノロジーの活用で解決しようとする動きが活発化しきました。ここでは、「クリーンテック」と呼ばれる環境保全に向けた技術開発のムーブメントの中から、脱炭素以外の取り組み、特にICT(情報通信技術)を活用した対策に絞って解説します。

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クリーンテックは多分野技術の集合体

クリーンテックとは、自然環境を清浄な状態に戻す (Clean)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語です。クリーンテックの切り口とそこに投入される科学技術の知見はきわめて多様です。

たとえば、代替プラスチックのように、単純に破棄してしまうと環境に悪影響を及ぼす可能性のある物質を、自然に分解される物質に代えるための材料開発もクリーンテックの取り組みのひとつです。そこでは、化学や材料工学といった分野の知見が必要になります。また、有害物質を含む廃棄物を確実に分別して、無害化して自然に返すという方法もあります。それを実践するためには、有害物質を選り分けるセンシング技術、無害化する化学、さらには廃棄物の収集・分別・無害化のプロセスを確実かつ円滑に進めるICTなどが必要です。

これまで私たちは、自然界から生活や社会活動に役立つ産物を集め、工業製品に加工し、上手に利用してきました。しかし、加工時の副産物や廃棄物、さらには利用後の役目を終えた製品は、「燃やす」「埋める」「流す」といった方法で破棄してきました。それは、モノを作ることよりも、上手に破棄することの方がはるかに難しく、「人間が少しゴミを捨てる程度では、大自然は破壊されないだろう」と高をくくっていたからでもあります。しかし実際には、人類が目をそむけていた場所で、確実に自然破壊が進んでいたのです。

クリーンテックに欠かせない「鳥の目」「虫の目」「魚の目」

効果的な環境保全の対策を講じるためには、まず、私たちが生産や消費・使用、破棄の過程で自然界に与える影響を正確に把握する必要があります。ここに、ICTを活用すべき理由があります。

一般に、情報の可視化や最適化を行う際に留意すべき視点として、全体を俯瞰する「鳥の目」、仔細にまで目配りする「虫の目」、時間や状態の変化・流れをつかむ「魚の目」というものがあります。環境対策においても、この3種類の目を駆使した多角的視点からの情報処理が欠かせません。社会全体を見渡し、世の中で使われる莫大な数のモノの状態を知り、それらの出自や動きを追う必要があるからです。

たとえば、廃棄プラスチックに関連した課題に対処するため、ある企業が自社製品のプラスチック容器を紙製の容器に変更したとします。一見、適切な対策のように見えますが、新たな容器の材料として紙を使えば、森林の破壊が進んでしまいます。これは正しい環境対策と言えません。各企業は、鳥の目で自社製品のサプライチェーンを俯瞰し、環境対策を講じる必要があるのです。多角的な視野からの対策を、人間の限られた感覚や認知能力だけで完遂することはできません。だからこそ、莫大な計算能力を持つICTの力を活用する必要があるのです。

モノの最終処分を最小限に抑える循環型社会

豊かな生活を営む上で、自然から得た産物やそれを加工して作る工業製品は欠かせません。ただし、豊かさをサステナブル(持続可能)なものにするためには、身勝手なモノの破棄や無駄な消費を減らす必要があります。

環境保全に向けて理想的な社会システムの姿として、世界中の政府が「循環型社会」の実現を目指すようになりました。循環型社会とは、限りある資源を効率的に利用し、リサイクルなどで循環させながら、将来にわたって無駄なく、最終処分するモノを最小限にとどめながら、効果的に資源を使い続けていく社会のことです。環境対策と天然資源の枯渇の両方の課題に対する抜本的対策となると考えられています。日本でも2000年に「循環型社会形成推進基本法」が公布され、国や地方公共団体、事業者の責務などを定義するなど取り組みが進められています。

循環型社会のコンセプトは、廃棄物の発生を抑制する「リデュース」、再使用する「リユース」、加工を加えて再生利用する「リサイクル」の3Rを推進することです(図1)。すでにEUでは、使い捨てプラスチック製品の流通を2021年までに禁止する法令が採択され、プラスチックボトルの回収率を2029年までに90%にするなど具体的施策が実施されるようになりました。また、過去の市場需要の動きをビッグデータやAIを活用して解析し、予測精度を高めることで製品の生産に伴う原料の過調達や廃棄ロスを防ぎ、資源消費量の抑制に取り組む企業も出てきています。

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図1 循環型社会でのモノの流れ

動脈物流と静脈物流で扱うモノの情報を共有

また、「ライフサイクルアセスメント(LCA: Life Cycle Assessment)」と呼ぶ、製品やサービスのライフサイクル全体(資源の採取から、原料の生産、製品の生産、流通・消費、廃棄・リサイクルまでの流れ)を通じた環境への影響評価を、企業に義務化する動きも出てきています。LCAに準じた環境対策を講じるためには、オゾン層の破壊、酸性化、陸・海や河川・大気の汚染、人間への毒性、生態系への影響など、さまざまな観点から環境への影響を最小化する必要があります。評価手法は、ISO(国際標準化機構)による環境マネジメントの国際規格「ISO14040」や「ISO14044」として標準化されています。

さらに、リユースやリサイクルを円滑に進めるための、通常のサプライチェーンとは逆向きにモノを流す、市場に出回った製品や廃棄物を回収・分別する「静脈物流」の仕組みを作る取り組みも進められています。静脈物流を効果的かつ効率的に行うためには、市場に出回って使われている製品の素性や状態を正確に把握し、その情報を社会で共有して、適切な3Rを推し進めることが何より大切になります(図2)。このため、製品個々の生産、物流、利用の過程を追跡して可視化するトレーサビリティが重要になります。

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図2 通常の物流(動脈物流)と静脈物流の間で扱うモノの情報を共有

トレーサビリティを確保するためには、バーコードやQRコード、製品に取り付けた半導体チップに製品・流通情報を無線で書き込むRFID、さらに将来的には個々に製品をインターネットにつなぐIoT(Internet of Things)などの技術の活用が欠かせません。さらに、ブロックチェーン*2など最新のICTを活用して、破棄した製品がサプライチェーンを経て新たな製品にリサイクルされるまでのプロセスや企業の連携業務を追跡する試みも、すでに進められています。

*2 ブロックチェーンとは、取り引きの内容と過程を記したデジタル情報を暗号化し、これを多くの人がネット上で供給することで、情報の信頼性を担保する技術です。暗号資産の価値を担保する技術として使われるほか、機械を使った自動取り引きなどにも応用されています。

環境に関わる課題は日常生活の中で実感しにくい社会課題ですが、保全を目指す取り組みなしでは、明るい未来を描けないほど深刻な状況にあります。私たちの明るい未来は、クリーンテックの進化と活用に掛かっていると言えます。

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