超小型・低消費電力なセルラーLPWAモジュールのイメージ

あらゆるモノのネット接続を可能に 超小型・低消費電力なセルラーLPWAモジュール(後編)

前編では、村田製作所(以下、ムラタ)のセルラーLPWAモジュールの強みである超小型であることと、低消費電力であることの意義、さらにはその実現に向けた開発過程での取り組みを紹介しました。ムラタは、スマートフォンなどに搭載する無線通信モジュールの供給で大きなシェアを持っています。超小型・低消費電力なモジュールを開発する際には、こうした開発実績を生かすことができます。しかし、IoTデバイスに搭載するモジュールの開発では、スマホ向けとは異なる留意点があるようです。後編では、IoTデバイスを開発するお客様にとって使い勝手の良いモジュールを提供するための取り組みについて聞きました。

無線技術に詳しくないお客様でも確実・簡単に接続

⸺ムラタは、これまでにも携帯電話向け無線通信モジュールを数多く開発・提供してきました。携帯電話向けとIoTデバイス向けでは、モジュールを開発するうえでどのような違いがあるのでしょうか。

IoTデバイスを開発する企業は、必ずしも無線通信技術を熟知したところばかりではありません。この点が、最大の相違点だと言えます。

携帯電話を開発・生産するお客様は、無線通信機器である携帯電話を長年にわたって作ってきた実績があります。このため、高周波の電波の取り扱い方や様々な場所で端末を利用できるよう仕上げるための留意点などを熟知しています。しかも、通信の品質や信頼性は端末の価値に直結するため、莫大な開発リソースをこの領域に投入しています。

これに対し、IoTデバイスを開発するお客様の多くは、センサなどデータ収集手段にフォーカスして技術開発を進めています。例えば、農業用のIoTデバイスを開発するお客様ならば、水田の温度を検知する場所や方法、頻度などに注目した技術開発をします。データを転送する無線技術は必要不可欠な機能ではあります。しかし、無線技術は差異化に要する技術の難易度が高く、できれば深入りしたくないのです。多くのお客様は、確実にデータ転送できる手段を外部から調達できるのならば、それに越したことはないと考えています。お客様によっては、無線機能についても自社開発してみたものの、難しさに手を余してムラタに相談に来られる場合もあります。

キャリアと戦略的な協力関係を結び、確実につながるモジュールを作る

⸺同じ無線端末でも、ずいぶん事情が違うのですね。では、IoTデバイス向けのセルラーLPWAモジュールを開発する際には、どのような点に留意して開発を進めているのでしょうか。

私たちは無線通信の専門家ですから、私たちが、誰が使っても確実につながる使い勝手のよい無線通信モジュールに仕上げることが重要になると考えています。これによって、お客様によるIoTデバイスの開発が省力化し、最もこだわりたいデータ収集の部分に注力できる余地が生まれるからです*1

*1 お客様のIoTデバイスの開発を後押しする取り組みは、モジュール開発だけにとどまりません。ムラタは、モジュール以外にも多くの製品を保有しており、アンテナ設計の支援やバッテリーのシミュレーション、応用に適したバッテリーの提案などを通じた多面的なお手伝いをしています。

 

私たちは、無線通信モジュールの接続性を検証するためのテストでは、豊富な経験を持っています。例えば、長年にわたって使われているWi-Fiでは、新たな通信規格が次々と登場したことで、市場で複数仕様の規格が併用される複雑な利用状況になり、テスト項目が膨大になっています。ムラタでは、独自の評価項目を作り、効果的かつ効率的な検証を可能にしています。そして、モジュールを採用していただいたお客様にテストサービスを提供しており、多くのお客様が70製品、1000万台の応用機器の開発で私たちのテストサービスを利用しています。こうした知見を、セルラーLPWAモジュールの評価にも生かし、ソフトウェアを磨いて確実に接続できるモジュールへと仕上げています。

また、IoTデバイス単体での完成度が高くても、つなげる先のシステムとの連携を円滑にしないと、確実な接続はできないことに留意する必要があります。実際に、IoTデバイスを完成させた後に、運用の段階でつまずくお客様が多くおられます。

セルラーLPWAモジュールの開発では、キャリアと協力して、システムとモジュールの連携を円滑にするように作り込んでいます。例えば、ソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)とは戦略的な協力関係を結んで、ソフトバンクのIoTプラットフォームに最適化したチューニングや検証を実施しています。これによって、ムラタのモジュールを使えば、何の支障もなくソフトバンクのプラットフォームを活用できます。

こうしたキャリアやパートナーとの協力は、通信品質やセキュリティ・レベルを高める高度な通信プロトコルを容易に利用できるようにするためにも行っています。例えば、キャリアが提供するIoT向けサービスでは、OMA LwM2M*2と呼ばれるプロトコルがよく使われますが、これをモジュールにあらかじめ実装しておけば、お客様は簡単にキャリアのIoTプラットフォームにつなぐことができるようになります。また、セキュリティ機能を高めるために、NIDD*3と呼ばれる技術の利用が求められることがありますが、こうした技術を活用するためのソフトウェアを、キャリアやパートナーと擦り合わせてモジュール内に搭載しておきます。同様の協力は、世界各国のキャリアとの間でも行っています。

*2 OMA LwM2Mとは、Open Mobile Alliance Lightweight Machine to Machineの略。機械と機械の間をつなぐデータ通信やIoTデバイスを管理するためのプロトコルです。

*3 N IDDとは、Non-IP Data Deliveryの略。IPアドレスを持っているとサイバー攻撃の対象になりやすいので、あえてIP化せずにデータ転送を行う技術です。

電波法の遵守とキャリア認証の取得を徹底支援

⸺各国や地域の電波法の遵守やキャリア認証の取得の作業は、誰が行うのでしょうか。

モジュールレベルで認証の取得ができる場合には、私たちが行います。セルラーLPWAで用いる高周波の規格は3GPP*4が標準化し、それに基づき、各キャリアなどが評価項目を定めています。基本的にLTEに準じた内容なのですが、LPWA固有の評価項目として、低消費電力化に関連したものが追加されています。モジュールの開発では、定められた評価項目を確実に検証する評価環境が欠かせません。ムラタでは、評価用設備には十分な投資を行っており、他社では評価できない項目もカバーできる体制を整えています。

*4 3GPPとは3rd Generation Partnership Projectの略。LTEや5Gなど世界中で用いる移動通信システムの標準化を行っている団体です。もともと、第三世代携帯電話向けの無線通信技術の仕様策定を目的に設立されたのですが、第三世代以降の規格策定も引き続き行っています。

しかし、モジュールを組み込んだ応用機器の形にしないと取得できない場合も多くあります。この場合には、認証の取得に必要なデータの提供や事前検証のお手伝いをして、お客様の応用機器開発を支援します。

セルラーLPWAで利用している電波の周波数は、国や地域ごとに異なりますが、ムラタでは世界中で同じモジュールが利用できるように、設計しています。ただし、利用する国や地域ごとの電波法をクリアする必要があります。お客様であるIoTデバイスのメーカの中には、商品の仕向け地にビジネス拠点を持っていないところも多くありますから、現地のキャリアと連携して仕向け地に合った技術支援をします。ムラタが米国、欧州、アジアなど世界各国に拠点を持っていることは、確実に強みになっています。

 

産業用のIoTデバイスには 長期信頼性と耐環境性能が求められる

⸺普段私たちは、スマホのような通信端末は、ネットにつながって当たり前と考えがちですが、実際には多くのエンジニアの努力の結果でつながっているのですね。

確実につながるように仕上げること以外にも、携帯電話機向けとは異なる、IoTデバイス向けのモジュール固有の要求もあります。

一般に民生機器では、保証期間が過ぎれば壊れてもやむなしと考える消費者がほとんどです。長くても5年、ともすれば2、3年使えれば十分と考える人が多いのではないでしょうか。これに対し、産業用であるIoTデバイスは、10年を超える長期信頼性が求められる場合があります。特に、私たちのモジュールは低消費電力化を推し進めて、10年以上電池交換なしで利用するような利用シーンも想定しているので、長期信頼性の確保が大切です。私たちは、Wi-Fiなどの無線通信モジュールの開発においても、高レベルでの信頼性試験を実施し、民生用でも壊れにくく作り込んでいます。このため、産業用の信頼性の要求も満たせます。

また、セルラーLPWAを搭載するIoTデバイスは、屋外や過酷な環境下で使われる可能性があります。このため、厳しい動作環境下での利用を想定した負荷試験を実施して、温度だけでなく、湿度、衝撃など、様々な側面からテストを繰り返し、より多くのシーンで利用できる信頼性を確認しています。防水性などモジュールの工夫だけではなくセットでの対策が求められる用途もあります。こうした場合には、ムラタが保有する知見を提供して、お客様での設計を支援していきます。

セルラーLPWAの応用は世界中、あらゆる産業に広がる

⸺セルラーLPWAの応用は、これから広がるように思えます。特にどのような応用での広がりに期待しているのでしょうか。

セルラーLPWAの応用適性を考えると、日本や米国、欧州など先進国だけでなく、ブラジルやメキシコ、フィリピンなど途上国にも利用が拡大する可能性があると考えています。例えば、広大な農地や放牧している数多くの家畜の状態をモニタリングするスマート農業は活用が広がる可能性が高い応用の1つです。

また、私たちが開発したモジュールの強みが生きる応用としては、小型化が必須のウェアラブル機器での応用拡大に期待しています。家庭内医療やヘルスケアの分野には、様々な利用シーンがあるのではないでしょうか。お客様からは、ウェアラブル機器にセルラーLPWAを利用しようとすると、モジュールはムラタ製しか選択肢がないという評価をいただいております。

 

IoTの新たな利用シーンを切り拓く尖兵に

ムラタのセルラーLPWAモジュールは、圧倒的な超小型・低消費電力を実現したことで、IoTの新たな利用シーンを開拓する際の尖兵の役割を担うことでしょう。無線技術の専門的な知識がなくても確実にネットに接続できる使い勝手の良さも、応用開拓を後押しします。実際、IoTに関わる様々な応用開拓プロジェクトから多くのお声が掛かり、日々、勉強しながら取り組んでいるムラタが、世の中にある1兆個のセンサで、コストを下げていけば、これまでローカル通信で対応していたものが、すべて広域通信で出来るようなイノベーションが起きるのではないでしょうか。

左から、マネージャー 兵庫、マネージャー 藤原、ビジネスデベロップメント 王、ビジネスデベロップメント 川中

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