超小型・低消費電力なセルラーLPWAモジュールのイメージ

あらゆるモノのネット接続を可能に 超小型・低消費電力なセルラーLPWAモジュール(前編)

より広い領域からデータ収集可能なIoTデバイスが求められている

データを通じて豊かで健康的な暮らしを営み、データをフル活用して価値あるビジネスを行い、データを基にして円滑で効率的に動く社会を築く・・・。こうした近未来の実現を目指して、世界中の企業や政府が、新たな情報システムの構築と活用に取り組んでいます。ビジネスや生活の中で日々生み出されるデータは、「ヒト」「モノ」「カネ」と並ぶ、暮らしやビジネス、社会を動かす経営資源の一つになりました。

近年では、あらゆるモノをインターネットにつなぐIoT(Internet of Things)を活用することで、仮想世界の中で生まれるデータだけではなく、現実世界の様々な場所で生まれるデータもきめ細かく収集できるようになりました。既に工場の生産ラインやオフィスや家庭の中では、センサと通信機能を搭載したIoTデバイスを様々なところに設置し、稼働中の装置や設備の状況を把握して、故障予知や生産効率の向上に役立てる例が出てきています。

ただし、工場内といった数十m四方の特定の領域内を対象にしたデータ収集に比べて、スマートメータの自動検針や道路や橋脚など社会インフラのモニタリングで求められる、数km四方の広い領域からのデータ収集には課題を残していました。遠距離を無線でつなぐIoTデバイスでの利用に適した無線通信技術がなかったからです。

 

特定領域内でのデータ収集では、Wi-FiやBluetooth®など、パソコンを始めとする情報機器に向けた既存の近距離無線技術が利用できます。さらにこれらの無線技術を活用するための小型で低消費電力の無線通信モジュールも簡単に入手できるため、コンパクトなIoTデバイスを比較的容易に作ることができました。一方、広い領域のデータ収集では、前出のIoTデバイスでの対応が困難であり、消費電力が大きな携帯電話向け移動通信技術を活用するしかありませんでした。ただし、頻繁に充電できないような場所での利用も想定されるため、実用に足る容量の電源確保には大容量バッテリの搭載によるデバイスの大型化が問題になりました。

IoTデバイス向け無線通信として極めて使い勝手が良いセルラーLPWA

適切な無線技術がなく取りこぼしていたIoTデバイスの利用シーンを開拓すべく、IoTデバイス向けの広域無線通信技術、セルラーLPWA(Low Power Wide Area)の商用サービスが2018年から始まりました。

セルラーLPWAは、スマートフォンなどの通信手段である広域カバレッジを特徴とするLTEをベースに、データ転送速度と通信頻度を低く抑えることで劇的な低消費電力化を図った技術です。こうした低いデータ転送速度では、動画データを転送することはできません。しかし、道路の老朽化を知るための振動、稲の生育管理に欠かせない水田の温度、シェアサイクルの位置情報などを転送するのには十分な速度です。むしろ低消費電力化によりバッテリで何年も使用できるなど利便性の向上が際立ちます。

IoTデバイスの利用シーンを広げる潜在能力を秘めたセルラーLPWAですが、その活用を加速するためには、クリアすべきハードルがあります。Wi-FiやBluetooth®などと同様に、あらゆる機器や場所に組み込み・設置できる超小型・低消費電力の無線通信モジュールが必要になることです。村田製作所(以下、ムラタ)は、これまで多くの無線通信モジュールを開発してきた中で培った技術とノウハウを注ぎ、世界最小クラスのセルラーLPWAモジュールを開発しました。同時にプロバイダーやチップメーカと連携し、無線通信に関する専門的な知識がなくても確実にネットにつながるモジュールに仕上げて、提供しています。

価値あるIoTデバイスの開発を後押しするムラタのセルラーLPWAモジュール

簡単にはデータを取得できない環境でも利用できることでIoTデバイスの価値は高まります。このため、IoTデバイスの開発では、設置する場所を選ばないコンパクトな筐体であること、電池の交換や充電の頻度を最小限に抑えることが、とても重要です。ムラタは、こうした要求に応える高品質かつ超小型・低消費電力なセルラーLPWAモジュールを開発・提供しています。セルラーLPWAモジュールの開発に取り組むエンジニアに、開発時に想定したセルラーLPWAの利用シーン、さらにはムラタのモジュールの強みと製品開発をしていく過程での取り組みについて聞きました。

左から、マネージャー 藤原、マネージャー 兵庫、ビジネスデベロップメント 川中、ビジネスデベロップメント 王

既存の携帯電話基地局を活用してIoT向けの遠距離無線通信を実現

⸺IoTデバイスで収集したデータをクラウドに転送する手段として、セルラーLPWAは、どのような用途への応用が想定されているのでしょうか

まず、LPWAの位置づけをお話したいと思います。現在IoTデバイスでは、1kmを超えるような遠距離のデータ転送が求められる用途では、携帯電話サービスを使う必要がありました。しかし、コストが高く、消費電力も大きいため、すべての用途に対して、必ずしも使い勝手の良い通信手段ではなかったのです。こうした課題を解決するために生み出された無線通信技術がLPWAです。

LPWAには、携帯電話の基地局を利用するセルラーLPWAと独自のアクセスポイントを中心に利用するノンセルラーLPWAの2種類があります(表1)。このうち、セルラーLPWAは、大手通信キャリアの通信網を利用することで、容易に世界規模でのネットワークを展開できる利点があります。また、カバーできる領域がノンセルラーよりも広く、しかも通信の安定性やセキュリティが高い点も特長です。このため、スマートシティや物流系、国をまたいだデータ収集などに向いています。

 

セルラーLPWAの中にも、LTE Cat.M1(LTE-M)とNB-IoTという2つの規格があります。このうち、LTE Cat.M1 は、優れたモビリティと低遅延、さらにはデータ転送速度がMax 1Mbps(理論値)とLPWAの中では速いことが特長です。トラッキング、非常用装置、ウェアラブルなどのアプリケーションに適しています。一方、NB-IoTは低コスト、低消費電力、大規模接続が特長です。
スマートメータの自動検針のような少ない情報量を扱うアプリケーションに向いています。

超小型・低消費電力では、どこにも負けない

⸺セルラーLPWA向けにムラタはどのような特長を備えた無線通信モジュールを提供しているのでしょうか。

ムラタでは、各国や地域の電波法に準拠し、さらにキャリア認証も取得した高品質なセルラーLPWAモジュールを提供しています。通信の安定性、信頼性、セキュリティ、モビリティなどあらゆる側面から見て、安心して利用できるモジュールを提供しています。加えて、超小型・低消費電力であることに関しては、どこにも負けない自負があります。

⸺セルラーLPWAモジュールが超小型であることで、どのようなメリットがIoTデバイスにもたらされるのでしょうか。

開発したセルラーLPWAモジュールのうち、樹脂パッケージに封止した「Type 1SC」では11.1mm×11.4mm×1.4mmという超小型化を実現しています。この製品1つでCat.M1とNB-IoTの両方の規格に対応しており、一般的な小型モジュール*1と比べた面積比は半分以下です。ここまで小型化できると、ヘルスケアや医療用に使うリストバンド型のウェアラブル機器や物流のトレーサビリティ確保に用いるトラッキング・デバイス、シェアサイクルに組み込んで動きの追跡などに活用できるようになります。

*1 18.0mm×16.0㎜×2.0㎜のLPWAモジュールとの比較

⸺モジュールを小型化するには、技術的にどのような難しさがあるのでしょうか。

単に小さい部品を搭載したり、微細な配線パターンを引いたりするだけならば、それほど難しくはないかもしれません。しかし、無線通信モジュールでは、小型化すればするほど、ちょっとした特性の違いやパターンのブレがモジュール全体の特性や性能に大きく影響するようになります。しかも、セルラーLPWAは、Wi-FiやBluetooth®よりも出力が大きいため、電波法への準拠やキャリア認証の取得に向けたチューニングの難易度はより高くなる傾向があります。

ムラタは、通信モジュールの小型化とセルラーモジュールの開発で10年以上にわたってノウハウを蓄積してきました。Wi-Fiモジュールでの開発実績のあるサプライヤーは少なくありませんが、セルラーモジュールを小型化できるノウハウを保有するメーカは数えるほどだと思います。

電池交換なしで10年以上動作する低消費電力化を実現

⸺では、モジュールの低消費電力化は、どのようなメリットをIoTデバイスにもたらすのでしょうか。

IoTデバイスが設置される場所は、頻繁に電池を取り換えたり、充電したりできるところばかりではありません。むしろ、人が簡単に踏み込めないような場所からデータを収集できるIoTデバイスが、より価値が高いとさえ言えます。モジュールを低消費電力化できれば、IoTデバイスのバッテリ寿命が伸び、運用が楽になります。

ただし、IoTデバイスで求められる通信の安定性、信頼性、セキュリティ、モビリティを実現しながら消費電力を低減させることは、簡単ではありません。低消費電力化を推し進めるだけならば、シンプルな通信技術を用いればよいのですが、高品質なモジュールにするためには複雑な通信技術の利用が欠かせないからです。ソフトウェアやハードウェアの設計を工夫して、いかに消費電力を低減できるかが、私たちにとっての腕の見せどころになります。

⸺どのような技術を投入して低消費電力化を実現しているのでしょうか。

LTE Cat.M1とNB-IoTには、eDRX*2やPSM*3と呼ばれる消費電力を削減する技術があります。またムラタのセルラーLPWAモジュール自体も、低消費電力を志向した設計となっています。これらにより、待機時の消費電流をTyp 3.5μAまで下げることができ、電池交換なしで10年から15年の動作*4が可能になります。

*2 eDRXとは、extended Discontinuous Receptionの略。待受時に電波を受信する頻度を下げて低消費電力化を図る技術です。
*3 PSMとはPower Saving Modeの略。限定した時間帯だけ電波を受信することで消費電力を削減する技術です。
*4 1日に1度センサデータを送信するアプリケーションを想定

また、利用時の通信品質や消費電力は、モジュール単独の良し悪しだけで決まるわけではありません。通信インフラ側も含めたシステム全体が円滑に動くようにモジュールをチューニングすることが極めて重要になります。ムラタは、セルラーLPWAの接続サービスを提供しているキャリアをパートナー企業として、密に連携しながら、高い通信品質やセキュリティ・レベルの実現と低消費電力化をシステムレベルでバランスさせた通信プラットフォームを共同開発しています。

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