3D空間における新たなトラッキング技術―超音波を用いたトラッキング
1. 空間コンピューティングやユーザーインターフェースの発展
空間コンピューティングは、現実世界と仮想空間のインタラクションを創り出し、現実世界の物体が仮想空間とシームレスに融合する没入型体験を生み出しています。この技術は拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(MR)にわたり、デザイン、教育、医療、エンターテイメントなど多岐にわたる分野での活用が期待されています。空間コンピューティングはハードウェアやソフトウェア、人工知能の継続的な進歩によって普及します。それにより、一層インタラクティブな没入体験が可能になります。
ユーザーの手やコントローラーの位置トラッキングは、仮想空間への没入感を高めるためにとても重要です。この位置トラッキング技術は空間コンピューティング以外にもさまざまなアプリケーションで利用することができます。
アプリケーションの事例
- 入力式ディスプレイ(3Dディスプレイ、ノートPC、タブレット)
- AR関連の入力機器(ブレスレット、指輪、時計)
- コンピュータ関連の入力機器(マウス、トラックパッド)
- シミュレーション用ツール(手術用メス、スタイラスペン)
- モーションキャプチャ
- その他
2. 3D空間における位置トラッキングの必要性
位置トラッキングは仮想空間とのインタラクションには不可欠であり、対象とするオブジェクトの位置や移動方向をセンシングします。正確なセンシングにより、ユーザーの動作がデバイス上で正しく認識されます。これにより、現実世界の物体と仮想空間が正しく融合され、シームレスで信頼できるユーザーエクスペリエンスを生み出します。位置や移動方向の正確なセンシングなしでは、現実世界の物体やユーザーの認識は仮想空間と適切に合致せず、没入感や魅力的な体験が損なわれます。
2-1 従来の位置トラッキング技術
3D空間におけるインタラクションを実現するための位置トラッキングにはさまざまな技術が存在します。
| 位置トラッキング技術 | 長所 | 短所 |
|---|---|---|
| 1. 光学式ハンドトラッキング | カメラ単体で実現可能 | 奥行方向と位置方向の精度が悪い 光学環境に影響を受けやすい |
| 2. 光学式マーカートラッキング | 従来の一般的な技術 比較的良い精度を持つ | LEDなどの多くのマーカーが必要 光学環境に影響を受けやすい |
| 3. 慣性力方式トラッキング | 小型 低消費電力 | 初期位置のキャリブレーションが必要 ドリフトとオフセットの影響で精度が悪い |
光学式ハンドトラッキングはカメラを用いて、手の位置や形を認識します。これはデバイスのカメラによって行われ、その他の追加のセンサが不要です。しかし、カメラから得られる情報は平面画像であるため、奥行方向の距離や位置の推定精度が劣ります。加えて、日光などの環境光、背景の色、コントラストなど、光学環境からの影響を受けやすく、精度が環境によって左右されます。
光学式マーカートラッキングではカメラを利用して、LEDなどのマーカーの位置や配置を捕捉します。位置トラッキングでは一般的な技術であり、上述の光学式ハンドトラッキングに比べ良い精度を実現できます。しかし、トラッキングには多くのマーカーが必要であり、ハードウェア設計に制約が生じます。また、光学式ハンドトラッキングと同様に、光学環境からの影響を受けやすくなります。
慣性力方式トラッキングでは加速度センサや角速度センサ(場合によっては磁気センサ)を使用して、動きを推定します。この技術では、デバイスを小型で低消費電力にすることが可能です。しかし、これらのセンサは自身で位置を推定することができず、初期の位置を校正する必要があります。さらに、センサのドリフトやオフセットの影響で精度が低下します。
上述の位置トラッキング技術以外にも、外側にベースステーションを必要とする光学方式トラッキングや磁気方式トラッキングなどの技術があります。しかし、これらの技術では、大型で比較的高価な手法となるため、一般に普及しにくいのが現状です。
2-2 新たな位置トラッキング技術
光学センサ、慣性力センサそして超音波センサを組み合わせることで、精度、実用性を兼ね備えた位置トラッキング技術です。この技術は、カメラ、マイクロフォン、通信を備えた既存のHMDなどのデバイスと互換性があります。また、従来のコントローラーやさらなる小型化が必要なデバイスまで、幅広くサポートでき、空間コンピューティングやユーザーインターフェースに最適な技術となります。
この技術は、小型、低消費電力、高精度を一度に実現することで、従来の位置トラッキング技術の課題を解消できます。これにより、3D空間上でのシミュレーション、トレーニング、デザイン、ゲーミング、バーチャルプロダクションなどの多彩な分野に貢献します。
2-3 Sensoryx社による位置トラッキング技術の実現
Sensoryx社の“Maliang Magic Pencil”は光学、慣性力そして超音波を組み合わせたセンサフュージョンを体現し、位置トラッキングとしての新たな可能性を示しています。センサフュージョンによって、良い精度と操作性が実現され、誰もが空間コンピューティングに没入することができます。
3. 超音波方式によるトラッキングの利点
超音波による位置トラッキングはTime of Flight(ToF)の技術によって、物体の位置や、物体との奥行方向の距離を推定します。この技術には多くの利点があります。
- 高精度
物体との距離や位置を正確に測定可能です。 - 小型サイズ
センササイズが小さく、必要員数も少ないため、デバイスの小型化に貢献します。 - 低消費電力
必要電力が小さく、電池駆動のデバイスにも最適です。 - 堅牢性
直射日光を含むすべての光学環境下で一貫して優れた性能を発揮します。 - 低負荷
位置推定のために必要となる情報量が少なく、軽い演算処理での対応が可能となります。 - 広指向性
広い指向性を有し、より広い範囲のトラッキングを実現します。
複数の超音波センサとそれらから得られる距離情報を活用することで、物体の位置を推定できます。
この超音波技術は多くの利点により、より良いユーザーエクスペリエンスを実現できます。
例えば、将来の空間コンピューティングやインターフェースに関わるデバイスはさらなる小型化が求められます。従来の光学式技術ではトラッキングのためのレシーバーの設計や最適化を追加で行う必要があります。一方で、超音波では、既存のマイクロフォンを用いて低周波の超音波を受信できるため、追加のレシーバーが不要でありさらなる小型化が可能です。
また、従来の光学式技術では、精度を担保するために多くのマーカーを必要とするため、ユーザーや設計者が望むサイズの周辺機器やコントローラーの実現が難しいです。超音波は、1つのセンサで測距ができるため、ペン、指輪、時計などの小さなデバイスに適用できると同時に、高い位置精度を実現できます。
さらに、従来の光学技術では、計算処理性能や消費電流が課題となり、バッテリーで駆動する小型のデバイスへの適用は難しいです。計算処理性能に制約があるデバイスにおいても、超音波は、精度を担保しつつ、低負荷、低消費電力で動くことができる唯一の技術と考えられます。
4. 超音波を用いたトラッキングデバイスの例
超音波技術を活用する空間コンピューティングやユーザーインターフェースの将来のアプリケーションの一例はスマートグラスです。これらのデバイスには、正確なオーディオおよび周囲環境をセンシングするための複数のマイクロフォンが搭載されます。超音波はこれらのマイクロフォンを活用して、さまざまな光学環境下でも光学リファレンスを必要とせず、高精度のトラッキングが実現可能です。
将来のデバイスは屋外での使用も想定して設計されます。超音波技術はスマートグラスに限らず、さまざまなトラッキングデバイスの開発に貢献します。このように、超音波は、より優れた空間コンピューティングとユーザーインターフェースの実現の可能性を広げます。
5. 村田製作所にて開発中の超小型の超音波センサ
村田製作所では、MEMS技術と超音波技術を組み合わせたpMUT(piezoelectric MEMS ultrasonic transducer)を開発しています。
村田製作所のpMUTは以下のようなさまざまな特長を有し、多くの利点をもたらします。
- 高音圧を維持した小型サイズ
さらなる小型化により、意匠性を備えた小型デバイスの実現に貢献します。 - 低消費電力
バッテリー駆動のデバイスの長寿命化に適しています。 - 低周波超音波
低周波超音波は市販のMEMSマイクロフォンにて受信でき、デバイス側の受信部品の削減が可能です。 - 広指向性
センシングの死角を減らし、トランスミッターの数を減らすことができます。
上記の特長を有する村田製作所のpMUTは超音波トラッキング技術に適した超音波センサとなり、将来のより革新的な空間コンピューティングやユーザーインターフェースに係るデバイスの実現に貢献します。
Sensoryx社について
光学、慣性力そして超音波を組み合わせたセンサフュージョンによる次世代のトラッキング技術と、関連リンクでご確認いただける“Maliang Magic Pencil”はSensoryx社によって実現されています。
Sensoryx社は超音波技術を活用し、革新的なトラッキングソリューションを生み出します。
