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現実と仮想の融合によって豊かで継続的な社会を実現――未来ビジョンの実現を支える村田製作所

私たちを取り巻く生活やビジネス、社会の環境は、常に大きく変化しています。10年後、20年後の未来は、何が起きるのか見通せない遠い先の話であるかのように感じます。しかし、生活やビジネス、社会活動においてデジタルデータを活用してさらなる豊かさを追求していくこと、気候変動や少子高齢化といった社会課題を解決して持続可能な社会の実現を目指すこと。この2つの方向に沿った変化が起きることは確実であると思われます。来るべき未来を見据えて、村田製作所は、より豊かで持続的な社会の実現にいかなる貢献ができるのか。技術や社会環境のトレンドと自社の強み・役割からどのように洞察し、未来を迎える準備を進めているのか。村田製作所 代表取締役社長の中島規巨に聞きました。

10年後、20年後の世界を見通す

――スマートフォンのような情報通信機器を誰もが持ち歩き、オフィスや工場、店舗で利用される機器や設備、そしてクルマまでもが、常時、ネットワークにつながれるようになりました。そして、10年後、20年後の未来には、どのような社会が実現すると考えているのでしょうか。

10年後、20年後といった、エレクトロニクス業界の近未来を見通すことは、それほど難しいことではありません。情報技術が発展し、暮らしや社会を取り巻く環境が劇的に変化する中で、「Society 5.0」と呼ばれる新しい社会が到来することでしょう。ここでいうSociety 5.0とは、日本政府が提唱する、私たちの生活・仕事・社会活動の場である現実世界と、デジタル情報を蓄積・加工・価値創出する場である仮想世界を融合し、さらに豊かで持続可能な社会を実現していこうとするコンセプトです。デジタルトランスフォーメーション(DX)の手法を、より具体化した取り組みだと言えます。そして、遠くない将来、あらゆるモノをネット接続するIoTによって、現実世界の中に存在する人・モノ・場所とクラウド上の仮想世界が一体化していくことでしょう。

――Society 5.0の実現にむけて、具体的にはどのような動きが出てきているのでしょうか。

先駆けとなる取り組みが、すでに始まっています。たとえば、Society 5.0の実現に欠かせない、現実世界と仮想世界をつなぐ通信システムは、あらゆるモノのネット接続を見据えて開発され、2020年に市場導入された第5世代移動通信システム(5G)によって実現しつつあります。やがて5Gは、その機能・性能を高めた「5G Advanced」へと進化。2030年には、より高速・大容量の通信を可能にする100GHz〜1THzまでのテラヘルツ波通信が実現し、つなぐ対象と利用シーンをさらに拡大させた第6世代移動通信システム(6G)が実現する見込みです。こうした通信システムの進化にむけた技術開発と標準化の作業は、すでに粛々と進められています。

高度化する通信システムの実現によって、現実世界と仮想世界は、さらに密着度が高まっていくことでしょう。そして、現実で起きた出来事は瞬間的に現実の複製デジタルモデルである「デジタルツイン」に反映され、デジタルツインを基に生み出された新たな価値は通信インフラを通じて豊かで持続可能な現実社会の実現にむけて活用されます(図1)。

デジタルツインの概念図
図1 デジタルツインの概念図

――なるほど、通信システムは、現実世界と仮想世界をつなぐ役割を担うのですね。

仮想世界とつながるのは、モノだけではありません。近未来には、人が意識することなく仮想世界とつながることになるでしょう。

スマートウォッチなどウェアラブルデバイスに続き、聴覚情報を通じて活動中の人にも円滑に情報提供できる「ヒアラブルデバイス」の普及が進みそうです。また、日常的な人の体と心の状態や活動状況をデジタル検知する「バイタルセンシング」や、仮想世界の情報を人が意識することなく活用できるようにする「拡張現実(AR)/仮想現実(VR)」といった技術が急激に進歩しています。これらを活用すれば、体調や精神状態の不調をシステムが自動検知し、五感に訴える体や心を整える処置を施すといったことができそうです。

また、近年では「メタバース」と呼ばれる、仮想世界を現実とは別の価値を持つ新たな生活・仕事・社会活動の場へと変える仕組み作りも進められるようになりました。

――モビリティの領域では、どのような変化が起きるとみていますか。

モビリティの領域では、ガソリン車のほとんどが電気自動車(EV)へと置き換わり、市場投入されるクルマの多くで自律走行が可能になります。すでに、自動車業界をリードする世界中の企業が、「CASE(Connected、Autonomous、Sharing&Service、Electric)トレンド」に沿った、「百年に一度の大変革」と呼ばれるほど大規模な技術革新とビジネス改革に取り組んでいます。

こうしたモビリティの変化にともなって、家や街角に多くの充電器が設置されたり、クルマの中で過ごす時間をより有意義なものにする車室内設備が求められたり、高齢者も不自由なく暮らせる交通や物流が実現したりといった変化が起きることも予想されます。さらには、ドローンや空飛ぶクルマの利用シーンが広がり、交通や物流のあり方を一変させる可能性もありそうです。

近未来を見据えて、ムラタはいかなる準備を進めるのか

――未来に起きそうなことは、意外とハッキリと予測できているのですね。

そうですね。ただ、見通した近未来の実現を目指して、いかなる準備をしていくのか。私たちムラタの真価は、そこで問われると考えています。

ムラタでは、現実世界と仮想世界をシームレスにつなぐために欠かせない、次世代の通信システムやヒューマン・マシン・インタフェースなどを構成するための電子部品やモジュールを提供する役割を担っています。つまり、来るべき近未来を見据え、進化する技術の開発を先回りして、求められる仕様で技術・部品を開発し、求められる数だけ生産できる体制を整える必要があるわけです。その実現には、高度な想像力と創造力が求められます。

――どのような想像を巡らして、いかなる創造に取り組む必要があるのでしょうか。

一例を挙げましょう。6Gの通信システムで導入される可能性があるテラヘルツ波通信は、従来の携帯電話用の電波とは異なる特徴を持つため、対応端末の利用法が劇的に変わる可能性があります。一般に、無線通信に利用する電波の周波数が高くなると広い周波数帯域を確保できるため、大容量化が可能になります。その一方で、直進性が高まり、通信距離も短くなります。第4世代移動通信システム(4G)で使われていた電波は、1基の基地局の半径数百m~数kmと広範囲の端末との通信が可能でした(図2)。これが、5Gで採用されたミリ波通信では、条件が良い場合でも半径50mの範囲に限定され、しかも電波の送信方向を制御する必要性が出てきました。そして、テラヘルツ波通信になると、半径10mと近距離通信技術の代表であるBluetoothと同等の通信距離になります。

携帯電話の世代ごとの電波特性のイメージ画像
図2 携帯電話の世代ごとの電波特性

ここまで通信距離が短くなると、これまでのような基地局で数多くの端末をつなぐようなユースケースへの適用が困難になってきます。このため、テラヘルツ波の特性を活かしたユースケースやシステム構成が新たに創出されることでしょう。たとえば、各端末が基地局の役割を担い、複数端末で通信を中継しながら通信網を支えるようなユースケース、システム構成で利用される可能性もあります。

ムラタは、6G時代の通信モジュールを先回りして開発し、準備するため、こうしたまだ見ぬユースケースやシステム構成を思い描き、標準化団体に参加して最新情報を収集しながら求められる技術の開発を進めています。

――大変革の中にあるモビリティも想像を巡らして、創造すべきことは多そうです。

モビリティの領域で進められているCASEトレンドに沿った大変革は、クルマの中に、より高度な電気・電子回路がこれまで以上に数多く搭載されることを意味しています。しかも、単に数多くの部品が求められるのではありません。ここでも先回りした準備が欠かせません。

EV内部の電気システムの高電圧化に対応し、なおかつ高温環境下でも高い信頼性を実現する積層セラミックコンデンサ(MLCC)や車室内の人やモノの様子を検知するセンシングデバイス、さらには他車や道路インフラなどとの間で情報をやり取りするV2X向け通信モジュールといった新たなニーズに応える技術・部品が求められます。ムラタは、技術革新を後押しする技術と製品を適切な形で開発し、タイムリーに提供していきます。

時代の要請に応える3層ポートフォリオ

――ムラタが技術や製品を提供している応用市場では、おしなべて大きな変化が起きそうです。

ムラタは将来を⾒据えて、常に多様なイノベーションを先導していく存在でありたいと願っています。そして、「Innovator in Electronics」をスローガンに掲げ、⾰新的技術やソリューションの創出に注力しています。

これまでムラタは、1944年の創業以来、コンデンサやインダクタ、フィルタなど単機能の電子部品を提供し続けてきました。ところが、あらゆるモノがネットに接続され、電気・電子回路を搭載する機器を作る業界・業種が急拡大し、単機能の電子部品では利用できないお客様が増えてきました。その一方で、従来どおりの部品供給を求めるお客様も確実に存在し、ニーズが多様化しています。そこで、技術を進化させるだけでなく、ビジネスモデルを3層ポートフォリオに整理・体系化することで、多様化する時代の要請に応えようとしています(図3)。

3層ポートフォリオのイメージ画像
図3 村田製作所の成長戦略のコンセプト、3層ポートフォリオ

――3層ポートフォリオとは、どのような経営体系なのでしょうか。

3層ポートフォリオのうちの1層目は、ムラタの基幹事業であるコンデンサやインダクタなどの商品群に適用する標準品型ビジネスです。これらの商品群では、限界を超える技術革新を継続的に起こし、さらに「小さく」「薄く」「大容量」で、「使いやすく」を追求し、なおかつ供給責任を確実に果たせる生産能力を準備していきます。

2層目は、特定のお客様が求める要求を満たすカスタム製品をタイムリーに開発・提供する用途特化型ビジネスです。通信モジュールなどが該当します。製品は、保有している技術を起点として、お客様との間で擦り合わせながら開発。さらに、生産ラインの標準化を徹底し、無駄を削ることで効率の良いマスカスタマイゼーションを実現します。開発した製品は、一定期間を経過した後に、他社・他業界にむけた商品として横展開します。

3層目は、1層目と2層目で培った技術を組み合わせ、さらに技術を活用するためのソフトウェアも用意して行う、新たなビジネスモデル創出です。2030年以降の事業の柱となることを目指して、コトづくり、データソリューション、ブランド戦略など、これまでにないビジネスを、ムラタらしさを盛り込みながら創出に取り組みます。

ESGでの責務をビジネスの成長に転化

――10年、20年後の未来を見通す際、デジタル化と並んで忘れることができないのが、国際連合が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成にむけた取り組みです。なかでも、脱炭素化の取り組みは、2021年10月から11月に掛けて開催された第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)において、国際社会が平均気温の上昇幅を産業革命以前比1.5℃以下に抑える目標を追求することで合意するなど、逼迫感が増しています。ムラタは、どのように対応していくのでしょうか。

民間企業にも、脱炭素化をはじめとするSDGsの達成にむけた取り組みが強く求められるようになりました。ただし、資本主義社会の中で生き抜くことを宿命付けられた企業は、利益を上げながらの取り組みが欠かせません。たとえ大きな社会貢献ができたとしても、上げた利益を将来にむけて再投資してより高い価値を生み出さない限りビジネスが持続可能ではなくなり、ひいては社会貢献も継続できなくなるためです。

そこで、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」のいわゆるESGへの取り組みをいかにビジネスの成長に転化させていくのか。知恵を絞っていく必要があると考えています。ただし、その文脈の中でムラタができることはたくさんあると考えています。

――具体的にはどのような取り組みがありますか。

従来ビジネスの延長線上でも、より小さな部品を開発・提供することで、廃棄されるゴミを最小限まで減らしていくという社会貢献の形があります。また、再生可能エネルギーの活用に欠かせない蓄電用電池や電源を高性能化し、より効率的なエネルギー活用を支援するという方法もあります。

さらに一歩踏み込んで、ムラタは工場を再生可能エネルギー100%で操業するという取り組みも業界に先駆けて開始しました。2020年12月には、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指す国際的なイニシアティブ「RE100」に加盟。2050年までに事業活動で消費する電力を100%再生可能エネルギーにする目標を掲げて、活動しています。

その先駆けとなる取り組みとして、2021年11月には、生産子会社である金津村田製作所(福井県あわら市)の使用電力を、オンサイトソーラーパネルと大規模蓄電池システムの導入などによって100%再生可能エネルギーとしました(図4)。その後も、2022年4月には仙台村田製作所(宮城県仙台市)と取り組みを拡大させます。現在は中小規模の工場を中心にした取り組みではありますが、グループ全体の事業活動における使用電力の再生可能エネルギー化に向けさまざまな方策を検討しています。

金津村田製作所の写真
図4 金津村田製作所

――ムラタは、ESGをビジネスに転化する取り組みでも、エレクトロニクス業界をリードしようとしているのですね。

カーボンプライシングの導入など、脱炭素化の取り組みは製造業の財務諸表に反映される方向へと向かっています。これから、工場の脱炭素化に求められる企業が世界中に出てくることでしょう。ムラタは、先駆的取り組みで得た知見と蓄積した技術を基に、製造業の脱炭素化を支援するソリューションを提供していきたいと考えています。10年後、20年後の未来を見据えて、ムラタは着実に準備を進めています。

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