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人と技術の融合を深化する「第5次産業革命」とは

第5次産業革命とは

現在各国では、第4次産業革命に続く「第5次産業革命」の議論が盛んに行われています。第5次産業革命は、第4次産業革命で議論されたAIやIoT、ビッグデータなどの活用による産業構造の変革に加え、「持続可能性」や「人間中心」、「環境への配慮」などのコンセプトが盛り込まれています。

以下では、第4次産業革命の課題や各国の取り組み、第5次産業革命において求められるキーテクノロジーなどを中心に第5次産業革命の最新動向について紹介します。

第4次産業革命の課題

第4次産業革命は、IoTが人々の暮らしに利便性をもたらし、従来のコンピューターでは不可能であった複雑な作業も、AIが作業データを学習し予測や推論することで自動化に成功しました。また、インターネットに接続された機器から集めたデータをビッグデータとして分析することで機器の動作・故障や、人の健康・行動を予測することなどにより、マーケティングの精度が向上しました。

たとえば、製造業においてはロボットや自動加工機からの情報を、ネットワークを介して収集。コンピューター制御することで、高速かつ正確な繰り返し作業が可能となり、少品種大量生産の能力を驚異的なレベルにまで高めることに成功しています。また、社会生活においてはマーケティングデータを活用した、無人店舗やオンライン診療、電子決済、公共サービスのオンライン化などが、暮らしに利便性をもたらしました。

しかし、これら第4次産業革命では地球環境に配慮した持続性や、人間の嗜好を取り入れた人間中心的な考え方、資源問題に対する循環型経済への取り組みが取り入れられていません。また、ひとつの産業分野や企業単位といった垂直型の改革が中心となっているため産業や企業・部署を横断的に活動することが困難であり、幅広い社会の需要に応えることに限界がありました。

世界各国の第5次産業革命への取り組み

第5次産業革命では、第4次産業革命における課題を解決するため、より深く幅広いコンセプトが提唱されています。すでに各国からは第4次産業革命に続く第5次産業革命を実現するための新たなコンセプトの発表が相次いでおり、たとえば、欧州委員会は「持続性」「人間中心」「回復力」をコンセプトに産業のあり方を目指す「インダストリー5.0(Industry 5.0)」、ドイツはIndustry 4.0に続く方針として「2030 Vision for Industrie 4.0」を発表しています。また日本は、2016年に経済発展と社会的課題の解決の両立を目指す「Society 5.0」を発表しています。ここでは第5次産業革命の概要と、欧州・ドイツ・日本、その他各国の取り組みを紹介します。

欧州委員会(European Commission)の第5次産業革命(インダストリー5.0)

欧州連合(EU)の主要機関である欧州委員会(European Commission)は、2021年に発表したインダストリー4.0に代わり、インダストリー5.0を発表しています。インダストリー5.0は、人間や社会・環境の観点を補足・拡張したコンセプトとなっており、2019年に発表された欧州成長戦略の優先テーマである「欧州グリーンディール政策」「デジタル時代の欧州戦略」「人々のための経済」の影響を強く受けています。

たとえば、2050年までに気候変動に左右されない社会のための産業の実現、つまり産業のカーボンニュートラルを実現するとともに、全世界における経済面での覇権獲得を目指しています。例としては、安全で持続可能な化学物質の開発やカーボンニュートラルを実現した鉄鋼製造など、気候変動に左右されない循環型製品の新しい市場の創出を目指しています。

ドイツの第5次産業革命

ドイツでは連邦政府が主体となり、民間企業を含めた産官学連携体制でインダストリー4.0を推進してきました。第5次産業革命では、2019年にドイツのIndustry 4.0推進機関であるPlatform Industrie 4.0が今後10年の指針となる「2030 Vision for Industrie 4.0」を、また2020年11月に「Sustainable production: actively shaping the ecological transformation with Industrie 4.0(持続可能な製造 ~Industry 4.0によるエコロジカルな変革~)」と題したレポートを発表しています。

2030 Vision for Industrie 4.0

2030 Vision for Industrie 4.0では「自律性(Autonomy)」「相互運用性(Interoperability)」「持続可能性(Sustainability)」を重要なコンセプトとして提言しています。それぞれについて、具体的には労働条件の改善やスキルシフト対応のための教育といった人間中心の考え方であったり、部門間や企業間を横断した協業による産業や社会の変革、資源効率向上など持続可能なモノづくりの実現などが挙げられています。

Sustainable production: actively shaping the ecological transformation with Industrie 4.0

Sustainable production: actively shaping the ecological transformation with Industrie 4.0では、2030 Vision for Industrie 4.0のキーコンセプトである持続可能性(Sustainability)を具体化するための視点やシナリオが定義されています。たとえば、持続可能な製造に対しては以下の3つの方向性が提唱されています。

・消費を減らしインパクトを増やす
・大量生産から透明性のあるサービスの提供へのシフト
・循環型経済システムにおける連携

これらの方向性には、さらに細かくシナリオが設定されており、具体的なシナリオの定義とユースケースを蓄積し、急速に社会実装を行っていくことを目標としています。

日本の第5次産業革命―Society 5.0

日本政府は、すでに2016年に「人間中心の社会(Society)」を意味するSociety 5.0として、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムによる経済発展と社会的課題の解決を両立」を打ち出しています。

欧州委員会のIndustry 5.0のレポートでは、日本のSociety 5.0を先行するコンセプトとして紹介しており高い評価を得ています。事実日本は、古くから社会や環境との共生に取り組んでおり、人間中心のコンセプトにより自発的な気づきや行動を尊重してきました。また、災害時における圧倒的な復旧の早さは産業や企業、行政の連携によって実現したものであり、世界の驚愕するところとなりました。

しかし、現在では世界各国が第5次産業革命を進めると同時に、グローバルでの標準化に向けた連携や主導権の争いが繰り広げられています。第5次産業革命の時代に日本のSociety 5.0が世界の標準として普及するには、積極的なグローバルにおける連携と標準化の活動が必要であると予想されます。

その他の国の第5次産業革命

第5次産業革命の動きは欧州やドイツ、日本だけでなく、米国や中国でも広がっています。

米国では環境に配慮した政策への転向を図っており、2021年にはドイツのPlatform Industry 4.0と、米国CESMII(the Clean Energy Smart Manufacturing Innovation Institute)が環境や気候変動に対応した持続可能な製造といった領域での連携を発表。中国でも国家スマート製造政策ビジョンである「中国製造2025」のレポートでサステナビリティ領域において世界をリードしていく姿勢を表明するとともに、製造業のグリーンイニシアチブが発表されています。

第5次産業革命のキーテクノロジー

第5次産業革命の重要なコンセプトに「人間中心」と「持続可能性」があります。第4次産業革命までは、たとえば機械は人にとって危険な存在であるため、人と機械は安全柵などで隔てられた別の流れや空間に設置する必要がありました。また、工業製品の製造には人体や環境への悪影響といった問題が付きまといました。しかし、人間中心をコンセプトとする第5次産業革命では、人と機械は同じループで働くことになります。そして、持続可能性を高めるためには人体や環境に優しいテクノロジーが必要であり、個々のテクノロジーの融合が欠かせません。ここでは、「協働ロボット」と「スマートセルインダストリー」を例に、第5次産業革命における新たなテクノロジーについて解説します。

人とロボットテクノロジーの融合:協働ロボット

ロボットは第4次産業革命において最も多く導入された機械で、なかでも工場の組み立てや加工、運搬や流通工程などで働くロボットである産業用ロボットは、生産性の向上に大きく貢献しました。第4次産業革命における産業用ロボットは安全柵の中で作業をしていましたが、第5次産業革命ではロボットと作業を行う人間が同じ空間で働くことになります。

柵のない環境で人間と同じ空間で作業する産業用ロボットを「協働ロボット(Collaborative Robot、コボット=Cobot)」といいます。協働ロボットは人に対する安全性を保証するためにロボットアームに人の接近を検知する超音波センサや動作速度を検知する加速度センサ、正確な動作を行うために傾斜を高精度に測定するジャイロセンサを搭載しています。また、ワークの色や形状を正確に把握する必要がある場合は、マシンビジョンを搭載しています。さらに、安全制御ソフトウェアなどを活用することで、人とロボットとの協業を可能にしています。また、機器間の連携・通信による複数の品目への同時対応や需要の変動に応じた生産量の増減への対応、生産品目の変更が行えるフレキシブル生産システムの構築を可能にします。

このように人に優しい「人間中心」をコンセプトに持った協働ロボットは安全で人に近い動作が可能であるため、工場だけでなくサービス分野においても活用が可能であり、マシンビジョンやAIの深化にともない医療や教育、飲食や小売りといった領域への応用も増えています。

デジタル技術とバイオテクノロジーの融合:スマートセルインダストリー

「スマートセル」とは、バイオテクノロジーと情報解析などのデジタル技術によって生物細胞が持つ物質生産能力を高度にデザインし、最適な形で制御して最大限に引き出した細胞のことです。そして「スマートセルインダストリー」とはスマートセルをひとつの物質生産工場のように機能させる、第5次産業革命におけるキーテクノロジーです。

バイオテクノロジーは、第4次産業革命におけるITやAIなどの最先端デジタル技術との融合により、目覚ましい進化・発展を遂げています。スマートセルインダストリーではこれをさらに推し進め、たとえば有害な顔料を使わず自然界に存在する生物の発色技術を人工的に再現することで、人体や環境に優しく色あせることがない工業製品の着色を実現する技術が研究されています。すでに熱や衝撃に強い植物由来の樹脂は開発されており、家電製品の筐体や自動車の外装衣装部品として活用されています。また、バイオ燃料や遺伝子治療もスマートセルインダストリーに含まれます。

このようなスマートセルインダストリーには、AIによる膨大な情報の解析と製造工程ごとにモジュール化された装置の組み合わせやヒト型実験ロボット、これらをネットワーク化するなどといったデジタル技術が必要です。第5次産業革命における人と環境に優しい「持続可能」な経済活動の実現には、これらデジタル技術のさらなる進化とバイオテクノロジーの高いレベルでの融合が鍵を握っているといっても過言ではありません。

まとめ

第5次産業革命では、各国がさまざまなコンセプトを打ち出していますが、要約すると「IoTあるいはAIを活用して」何かを行うといった技術ありきの第4次産業革命に対し、第5次産業革命ではそれらに加え「人間中心・持続可能性・エコシステムも含めた回復力」の実現を目指すことになります。その実現は単独の技術では不可能であり、ITとAIがロボット技術やバイオテクノロジー、さらにサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させることで新たなインフラを整備し、「超スマート社会」の実現を目指すことになります。このように複雑化する第5次産業革命の時代においては、これらを議論し技術革新をやり抜いた企業が生き残ることは、間違いありません。

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