産業用機器の電磁ノイズが無線通信に与える影響と最新電磁ノイズ対策
はじめに:スマートファクトリー時代における無線通信とEMCの新たな課題
近年、IoT、AI、ロボティクス、5Gなどの先端技術を活用したスマートファクトリーが製造業界で急速に普及しています。これらの技術革新は、自動化の促進、省人化、生産効率の向上をもたらしています。
しかし、従来の有線制御から無線制御への移行が進む中で、工場内の安定した無線通信の確保が重要な課題となっています。特に、産業用ロボットや制御機器が発生する電磁ノイズが、Wi-Fi、LTE、5Gなどの無線信号に干渉することで、
- 生産設備の誤動作
- 通信エラーによるライン停止
といった深刻な運用上の問題を引き起こす可能性があります。
スマートファクトリーの進化に伴い、こうしたEMC(電磁両立性)*1リスクへの対応は、安定かつ効率的な運用を維持するために不可欠です。
*1 EMC(Electromagnetic Compatibility/電磁環境両立性)とは、電気・電子機器が他の機器に電磁的な干渉を与えず、また外部からの干渉も受けずに正常に動作できる能力を指します。
スマートファクトリーに潜む無線通信への脅威:電磁ノイズの実態
現在の製造現場では、多種多様な産業用ロボットやモータ、制御機器が同時に稼働しており、低周波からGHz帯まで広帯域な電磁ノイズが発生しています(図2、3、4参照)。
測定結果からも、これらのノイズ帯域がWi-Fi(2.4GHz/5GHz)、LTE、5Gなどの無線通信帯域と重複していることが明らかになっています(図4、表1参照)。
その結果、スマートファクトリーでは、無線機器の受信感度低下や通信エラーが頻発し、安定かつ効率的な運用を脅かす環境が広がっています。
| 周波数帯 | |
|---|---|
| Wi-Fi | 2.4GHz帯(2400-2500MHz) |
| 5GHz帯(5150-5850MHz) | |
| 5G | n77(3300-4200MHz) |
| n79(4400-5000MHz) | |
| LTE | Band1(1920-2170MHz) |
| Band3(1710-1880MHz) | |
| Band28(703-803MHz) |
スマートファクトリーに潜むEMCリスク:外部ノイズと自己干渉
スマート製造環境において、電磁ノイズは「外部からの干渉」と「機器自身による自己干渉」という2つの大きなリスクをもたらします。
1. 外部電磁ノイズによる誤動作リスク
工場内での実験では、ノイズのない環境ではLTE信号のみが観測されました。一方、実際の工場環境では、信号と電磁ノイズのレベルが接近し、最大18dBの受信感度低下が確認されました(図5、6、7参照)。
2. 機器自身による自己干渉リスク
産業用ロボットや制御機器は、自身が発生した電磁ノイズによって自身の動作に干渉する「自己干渉*2」を引き起こす可能性があります。特に、DC-DCコンバータ(直流電圧を別の直流電圧に変換する装置)がノイズ源となり、ケーブルや金属筐体がアンテナとして機能することで、最大13dBの受信感度低下が確認されました(図8)。
これらの結果は、スマートファクトリーにおける安定した無線通信と機器の信頼性を確保するために、EMC対策の重要性を示しています。
*2 自己干渉(Self-Interference)とは、機器自身が発する電磁波が、自らの動作に干渉してしまう現象で、特に産業用ロボットや制御機器など複雑なシステムでは、性能低下や予期せぬ動作を引き起こす可能性があります。
産業用ロボットにおける電磁ノイズの発生メカニズムと対策のポイント
産業用ロボットは、駆動部(アーム)、制御部(基板やDC-DCコンバータを含む金属筐体)、そして両者をつなぐケーブルの3つの要素で構成されています。
電磁ノイズ源の調査により、DC-DCコンバータが主なノイズ発生源であることが判明しました。さらに、ケーブルや金属筐体がアンテナのように機能し、周囲にノイズを輻射していることも確認されています(図9、10参照)。
そのため、EMC対策の中心は以下の2点に置くべきです。
- DC-DCコンバータからの電磁ノイズの抑制
- ケーブルや筐体を通じたノイズの伝搬防止
これらの対策は、スマートファクトリーにおける無線通信の品質維持と安定稼働のために不可欠です。
工場現場での受信感度改善:実践事例から学ぶノイズ対策
実際の製造現場では、DC-DCコンバータの出力DCラインにノイズフィルタ(チョークコイル)を挿入することで、無線通信性能が大きく改善されました。具体的には、ロボット動作時のLTE最低受信感度が約11dB改善されました(図11、12、13参照)。
この対策が有効だった理由は、DC-DCコンバータが発生する高周波ノイズが、フィルタのインピーダンス特性によって反射され、コンバータ側に戻されることで、出力側への漏洩が防がれたためです。
フィルタ選定時には、周波数特性やインサーションロス(フィルタ挿入による信号減衰)などを考慮することが重要です。
本事例では、村田製作所製のLQW18CAR16(1.6×0.8×0.8mm、定格電流1.3A)を使用しました。
代替候補としては、村田製作所製のBLMシリーズ(フェライトビーズインダクタ)があり、LQWシリーズとは電流重畳特性が異なるため、必要なノイズ除去性能に応じて選定してください。
スマートファクトリーにおけるEMC対策のまとめと実践ポイント
スマートファクトリーの進化に伴い、製造現場における電磁ノイズの問題は今後ますます顕在化すると予想されます。そのため、より強力なEMC(電磁環境両立性)対策が不可欠です。
効果的に対応するためには、以下の取り組みが重要です。
- 工場内の電磁ノイズ環境の評価
- 産業用機器やロボットにおける電子部品レベルでのノイズ対策の実施(特にDC-DCコンバータ、ケーブル、筐体に対する対策)
これらの中でも、電子部品レベルでのノイズ対策は最も優先すべき事項の一つです。
なぜなら、無線通信の安定性や機器の信頼性に直接影響するためであり、現場での実践的な対応が不可欠です。
EMC規格の最新動向と今後の展望
産業用機器・ロボットに適用されるEMC規格「CISPR11第7版」が2024年2月に発行されました。旧版(第6.2版)と比較して、1~6GHzのエミッション限度値が新たに追加されています。
今後は、より広帯域での電磁ノイズ対策と規格適合が求められるため、現場と設計部門の両方で最新情報の把握と実践的な対策が不可欠です。
本記事では、実践的な電磁ノイズ対策の考え方とEMC規格の最新動向について解説しました。ご質問や具体的な事例のご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。