センサとAIの融合で築く、人と機械の新たな関わり

人を見守り、気遣う目配りセンサ

どのような業種・業界の仕事でも、周りの状態への目配りや臨機応変の機転は必要不可欠な能力だと言えます。例えば、会社で会議する際には、場の空気を敏感に読み取り、タイミングよく場を和ませたり、盛り上げたりできる人がいれば、困難な議題でも円滑に議論が進みます。同様に、チームで進める業務や異業種間でのコラボレーションを行う際にも、目配りと機転が利く人の存在は欠かせません。

キメ細かな目配りできる人、空気を読める人と同じ場所には、そのシーンを共有している人が他にも多くいるはずです。シーンに応じた立ち振舞ができる人は、一体何が違うのでしょうか。おそらく、豊富な経験の中で、感覚が研ぎ澄まされ、所作が洗練されていったのだと推測できるのですが、そのスキルを養うのは簡単ではありません。

近年では、リアルな小売店などで、センサと人工知能(AI)を組み合わせることで、店員の目配りや機転が利いた立ち振る舞いを支援するシステムが登場してきています。来店した客の店内での行動や店舗内の状態に目配りするセンサと、的確な状況判断と店員が行うべき適切な接客を示唆するAIを組み合わせたシステムです。

米国のアパレル企業の中に、自社の直営店で、IoTを顧客体験の強化と改善に活用するところが登場してきています。店舗に在庫している全商品にRFIDタグを取り付け、商品が店内のどこに置かれ、どう動いているのかリアルタイムで目配り。そのデータをAIで自動分析することで、どのような商品が顧客の手に取られ、試着され、最終的に購入されたのか、傾向を探ることができるようにしています。導き出した情報を活用すれば、来店した顧客が手に取った商品の動きを追うことで、その顧客が探している商品を先回りして用意して勧めることなどができるそうです。

同様の機能をカメラと画像認識技術を使って実現することも可能ですが、この企業の方法はモノの動きだけを追っているため、個人情報保護の観点から有用な方法になります。

システムによって、一人ひとりの安全と健康を見守り

こうした、属人的なスキルだった目配りや機転の利いた対応ができる機能をシステムに組み込んで活用する取り組みは、他の分野にも広がっています。

例えば、家庭に設置されている電力メータを、一人暮らしの高齢者の見守りに活用するサービスが日本で実用化しています。通常、電力メータは、電力料金を算定するために1カ月に一度検針しています。電力メータをスマートメータに替えることで、検針頻度を増やし、よりキメ細かく電力の消費状況を把握できるようになります。電力の消費量の推移は、住民の生活状況を如実に反映しており、そこから住民の安否や生活状況を探ることができるというわけです。スマートホームやスマートシティの入口として、極めて簡単に実践でき、社会的意義と効果が大きな応用だと言えます。

また、多様なセンサを搭載するスマートウォッチが普及し、日々の生活の中で健康状態をデータ化し、モニタリングできるようになりました。こうした健康情報を医療機関と共有することで、技術的には「毎日が健康診断」といった状態を実現し、病気の早期発見に役立てられる可能性が出てきています。病気の重篤化は、本人の命に関わる問題であると同時に、社会で保障すべき医療費の増大、ひいては財政の圧迫につながります。もちろん、医療制度の改正などクリアすべき法制度上の課題はありますが、既に多くの国や地域において、センサで取得した日々の健康状態のデータを、病気の予防や治療に役立てる動きが出てきています。

場の空気を読む技術も登場

さらに、キメ細かな目配りによって個人の状態や声に出さない秘めたニーズを察するだけでなく、センサとAIを組み合わせることで、場の空気を読むための技術開発も進んでいます。場の空気を読む技術は、AIの応用開発の中でも注目されている分野のひとつです。

例えば、会議などが「活発に議論されている」「参加者が悩んで考え込んでいる」「注意力散漫な状態になっている」といった場の空気は、参加者が発する声のトーンや会話のスピード、高揚などに如実に現れます。私たちは、耳から入る情報で、こうした場の空気を感じ取っています。これをマイクで収集した音のデータの状態や変動をAIで解析することで、場の空気や参加者間の関係性などを客観的に可視化できるようになりました。

今では、こうしたデータを利用すれば、円滑で効果的かつ効率的な会議を行うことができます。声だけでなく、画像データから抽出した表情や視線、動きの情報も加味して、商談などでの顧客の関心度を洞察することもできるようになってきました。

目的と状況に応じて、室内の照明を調光・調色することで、その場にいる人が集中できる空間やくつろげる空間を意図的に作り出す技術の開発も進んでいます。こうした場の空気をコントロールする技術は、会議の運営だけでなく、来場者を高揚させたいイベントや落ち着いた雰囲気を維持したいレストランやカフェの運営など、さまざまな場面で活用される可能性があります。

社会や地球全体を機械が見守る時代やってくる

これまで私たちは、きめ細かな目配りや機転を利かせたおもてなし、さらには空気を読んだ臨機応変の対応は、極めて人間らしい行動だと思っていました。しかし、ここまで紹介してきたように、IoTやAIの応用で、機械が同等の能力を身に着け始めています。機械は、気分次第で見守りや接客の質を落とすようなことはありません。

また、少し先の未来を想像すると、もっとダイナミックなことが起きる可能性があります。ありとあらゆる場所にセンサを設置すれば、社会全体や地球全体にきめ細かく目配りし、国の状態や時代の気分を俯瞰できるようになることでしょう。いま、世界の中に、お腹を空かせた人はどのくらいいるのか、深刻な悩みを持つ人はどこにどのくらいいるのか。こうしたことがすぐに分かるようになります。こうした技術を、有効かつ正しいことに使えるよう、人間の進化が求められているのかもしれません。

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