サプライチェーンマネジメントから見るDXのメイン画像

DX×Murata:DXによって進化する製造業の未来

サプライチェーンマネジメントから見るDX

製品の材料や部品の調達から、お客様のもとへ製品が届くまでの供給連鎖を意味するサプライチェーン。日々、膨大な数の製品や材料を取り扱う製造業において、サプライチェーンを管理し、効率化などを図るサプライチェーンマネジメントは必要不可欠な取り組みになっています。今回は、Tracking DBやShipment Trackerといったシステムを開発し、ムラタのサプライチェーン改革に取り組む小山、岸野、梅田が、サプライチェーンを取り巻く現状と課題、そしてDXがもたらす効果を解説します。

月間13,000トンに及ぶ膨大な数の物が移動するムラタのサプライチェーン

サプライチェーンマネジメントから見るDXのイメージ画像1

――まずは、ムラタのサプライチェーンの概要について教えてください。

小山「ムラタはグローバルで50の生産拠点、57の販売拠点を有し、グローバルに点在する約50の生産工場から1日あたりトータル25,000件の出荷を行っています。工場から営業倉庫を経てお客様へ出荷するルートはもちろん、原材料の仕入れ先から工場へ、あるいは工場から工場へといったルートもあり、その間には航空輸送・海上輸送・トラック輸送を行う多くの物流業者が介在しています。グローバルでの物量は月間13,000トンに及び、日々、膨大な数の物がさまざまなルートで移動しているのが現状です」

モノづくり統括部 小山の写真
モノづくり統括部 小山

岸野「モノづくり統括部において、小山は輸出入などの物流オペレーションを担い、私はサプライチェーン領域における業務改善、そのために必要なシステムの企画・構築・導入を推進しています」

モノづくり統括部 岸野の写真
モノづくり統括部 岸野

梅田「全社的なDXを推進し、次世代のデジタル基盤を作るための組織づくりや人材育成を担う部署に所属する私は、次世代のサプライチェーン基盤を作るという目的の下、2人と連携しています。今後、事業部門、機能部門、現場のスタッフと議論を重ねながら、サプライチェーン改革を通じた競争価値を高める取り組みに発展させていきたいと考えています」

情報システム統括部 梅田の写真
情報システム統括部 梅田

物流の状況把握が困難なデータの分散・分断という課題

――ムラタのサプライチェーンはどのような課題を抱えていますか?

小山「物流における課題のひとつとして、各プロセスにおいてデータが分散して存在し、データがつながっていない点が挙げられます。プロセスはつながっていても、拠点ごとにデータベースを持っているため、社外に出た荷物の状況は別途物流業者などから情報を入手する必要がありました。さらに、全体を俯瞰した状況把握やトレースでは、複数環境のデータを取得・統合する必要があり、作業に時間を要していました。そんな課題を浮き彫りにしたのが、2018年9月に起きた台風です」

――近畿・東海地方の大規模停電や、関西国際空港の滑走路が浸水した平成30年台風第21号ですね。

小山「関西国際空港はムラタの輸出入の主要経路だったこともあり、代替ルートの確保に追われました。その際、お客様から『荷物はいまどこにあるのか』『いつ届くのか』といった問い合わせがあり、状況を把握して返答するまでに時間を要しました。そこであらためて、分散・分断したデータをつなぎ合わせ、サプライチェーン全体で管理する重要性を認識したのです」

岸野「この台風を機に、荷物がいまどこにあるのか、タイムリーに状況を把握できるシステムを作ることができれば、自然災害やパンデミックなどへの変化対応力を高める意味でも価値があると考えました」

サプライチェーンマネジメントから見るDXのイメージ画像2

お客様への安定供給とニーズの変化にともなう変革の必要性

――有事の際に事業を継続するBCPの観点からも、サプライチェーン改革が必要だったわけですね。

小山「ただし、BCPはひとつのトリガーに過ぎません。近年はパンデミックや地域紛争といった輸出入に影響を与える地政学的リスク、コロナ禍でより顕著となったEC取引増や人員確保難を踏まえ、物流領域における業務改善やフレキシビリティ向上への対応が求められてきています。何より、お客様に安定的に製品を供給するために、物流データマネジメントにおける改革を実行しなければいけないと感じました」

岸野「モノづくりがグローバル化してデータが管理される中、個装(リールなど)単位で製品のトレースを要求されるお客様も増えてきています。そうしたニーズに対応するためにも、工場出荷~輸送~営業出荷までの物流プロセスすべてのデータを蓄積し、スルーでつなげて活用できる仕組みの構築は必要不可欠だったと言えます」

サプライチェーンマネジメントから見るDXのイメージ画像3

システム構築がもたらす迅速なお客様対応や品質・サービスの向上

――Tracking DBとShipment Trackerについて、システムの概要の説明をお願いします。

岸野「今後リリース予定のTracking DBは、工場出荷から営業出荷までの物流プロセスにおけるすべての経歴を個装(リールなど)単位で蓄積し、活用できるツールです。物流業者が輸送している間のデータを管理するShipment Trackerはすでに運用が始まっており、Tracking DBとつなげることでEnd to Endのトレーサビリティが実現します」

サプライチェーンマネジメントから見るDXのイメージ画像4

――実現によってどのようなメリットが得られますか?

岸野「まず、品質不具合やクレーム時の対応の迅速化、得意先サービスの向上を実現することができます。また、同時に外装箱、集合箱、パレットなどの梱包の各階層をデータで結び付け、任意の梱包単位でのデータ活用とトレースを行うことで、営業倉庫や得意先での仕入業務や在庫管理工数の削減による生産性の向上を実現します」

サプライチェーンマネジメントから見るDXのイメージ画像5

デジタル社会だからこそ、コミュニケーション、人と人とのつながりを強化

――システム構築にあたって苦労した点はありますか?

岸野「個装単位でのトレースを実現するため、営業倉庫側に追加作業を行ってもらう必要がありました。その際、トレーサビリティ強化の取り組みの目的や価値を丁寧に説明することで、営業倉庫側の理解を得ることができました。取り組み推進にあたっては、目的を共有し、議論を重ねながら理解や協力を得ていくことが大切だとあらためて実感しました。
また、関係者と議論を重ねる中で、『このデータをつなげるとこんなこともできるのでは?』という、他の課題解決に活かせる気づきを得ることも多く、多くの価値提供の可能性を秘めていると実感しました」

梅田「岸野が言うように、さまざまなデータをつなげることは多くの価値提供の可能性を秘めています。一方で、デジタル化を進める中でプロセスや業務が見えにくくなっていることや、業務の属人化が大きな問題として顕在化しています。これらに対して、まずはプロセスや業務を可視化していくこと、デジタル社会だからこそ、コミュニケーションを強化していくことも大事だと考えています」

小山「今回のプロジェクトを通して、改善は人と人のつながりから生まれるのだと認識しました。新たなサプライチェーンの構築と同時に、人と人とのチェーンを作るために、さまざまな情報発信をしていきたいと思います」

梅田「データをつなげることで実現できることは広がる一方で、より広範囲の領域についての判断が求められるようになります。これに対しては、ガイドラインの設定などで判断基準を明確にしたり、判断できるような人財を育成したりしていくことも重要になると考えています」

サプライチェーン改革は働き方を変革する可能性を秘めている

――最後に、今後の展望について教えてください。

岸野「現在、MLCC事業部・バッテリ事業部と連携して、新生産計画作成システムの構築と導入を進めています。これまではグローバルに点在する各工場がそれぞれ個別のやり方で作成していた生産計画を、新システムによって事業単位で関係工場を連結し、最適な生産計画をタイムリーに作成し、迅速な意思決定ができるようにするためです。
今後、新システムによる生産計画を、製造工程でのモノの流し方や調達活動、物流リソースの手配などにつなげていくことで、ムラタのサプライチェーン全体がより効果的につながり、高い変化対応力をともないながら一体化して活動する進化を目指しています」

サプライチェーンマネジメントから見るDXのイメージ画像6

梅田「バリューチェーンのどこかにボトルネックがあると、製品の企画・開発・設計プロセスに悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、サプライチェーンとエンジニアリングチェーンもしっかり連携することが重要だと考えています。さらには、顧客の商品開発プロセスであるデマンドチェーンも含めて、ムラタのバリューチェーン活動を通じた価値創造・価値提供ができる取り組みにしていきたいと思います」

岸野「お客様のデータ・プロセスとつながることができれば、ムラタ側で製品の消費量、在庫量を把握することができるようになり、お客様の在庫・消費状況などから自動で製品を手配できる世界が訪れるかもしれません。そうなると、現状多くの時間を割いているお客様との納期調整、営業・工場間の調整業務のあり方も変わってくるかもしれません。越えるべきハードルは高いですが、サプライチェーン改革は私たちの働き方を変革する大きな可能性を秘めていると考えています」

集合写真
集合写真

ムラタでは一緒にDXを推進するメンバーを募集しています。

関連リンク

関連記事