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DX×Murata:DXによって進化する製造業の未来

設計業務改善プロジェクトを通じたECM改革

企画・R&Dから始まり、商品設計・工法開発・設備設計などを経て量産工場に移管する一連の業務プロセスを意味するエンジニアリングチェーン。このエンジニアリングチェーンを最適化し、商品化までのリードタイム短縮や開発力・品質向上を狙っていく活動は、ECM(エンジニアリングチェーンマネジメント)と呼ばれ、製造業におけるDXのキーワードとして注目を集めています。今回は、全社的なECM改革を推進する近藤と、設計業務改善プロジェクトを通じてDXに取り組む村岡が、ECM領域のDXを推進する際のポイントを解説します。

DXを通じたモノづくりの効率化は、中長期的に見て非常に重要

――まずは、プロジェクトにいたった背景を教えてください。

近藤「ムラタではECM軸の抜本的強化を中期方針に掲げ、本格的に取り組みを開始しています。多数の事業部がある中で改革を一気に進めることは難しいため、通信モジュール事業部/高周波デバイス事業部とEMI事業部で先行して着手している段階です。この中期では、まずはしっかりと土台作りを行った上で、他事業部への展開性を検討していく3年にしたいと思っており、私の所属部門は全社的な旗振り役を担っています」

情報システム統括部 近藤の写真
情報システム統括部 近藤

村岡「通信モジュール事業部では、高周波基板製品の設計業務改革を進めてきました。高周波基板製品は複数拠点で製造しており、規模感が大きい上に、スマートフォンの高機能化にともなって求められる品質が向上し、ニーズも高まっています。そうした中で、DXを通じて効率的なモノづくりを実現することは中長期的に見て非常に重要だという意識がありました」

通信モジュール事業部 村岡の写真
通信モジュール事業部 村岡

近藤「昨今、デジタルスレッド、デジタルツインという概念が現れ、製品に関する情報を関連づけ、現実世界に実在しているものをデジタル上(サイバー空間)に再現しようという大きな流れも生まれています。ムラタでは、ECM領域での全社的な取り組みの前例は多くないので、最初の一歩を踏み出せた意味は大きいと思います。私は情報システム部門に所属しているので、当然、デジタルは意識しますが、まずは業務のあり方自体を見直すことに重点的に取り組み、その中でどうデジタルを手段として活用していくかがポイントだと考えています」

――これまでもムラタはデジタル化に取り組んできましたが、課題に感じていたことはありますか?

村岡「さまざまなシステムを導入して改善を行ってきましたが、『データを活用できているか』という点では課題がありました。データは溜まっているけれど、それをどう活用するか、どうつなげていくかという視点が欠けていたのです。これは多くの企業が陥りがちな例だと思います」

近藤「ECM領域は関わる部門も多く、業務も多岐にわたるため、課題解決にどうしても時間を要してしまうと感じています。そのため、腰を据えて取り組むテーマだけでなく、自動化ツールや見える化ツールなどの導入により、小さくてもいいから早く成果を出せるスモールサクセス/クイックサクセスの取り組みも同時並行で進めることを意識しています。スモールサクセスを起点として、大きな流れが始まっていく可能性もあるかもしれません。この二段構えによって、設計者の方にも効果を実感していただきながら取り組みを進めていければと考えています」

エンジニアが考える「こうなったらいいよね」を具現化する

――プロジェクト発足の流れを教えてください。

村岡「まず、事業方針として掲げられている『社会や生活への価値貢献』など具体的に目指したい事業の姿をゴールイメージとして再認識させ、その後、戦略と達成イメージを共有し、コンセプトを作り上げていきました」

――コンセプトはどのように設定されましたか?

村岡「前提として、多くのエンジニアが思っている『無駄な作業を省きたい』『こうなったらいいよね』を具現化したいという想いがありました。そこで、複雑な設計業務のプロセスを簡略化し、ひとつのデータベースから必要な情報を取り出せるようにすべく、“Re-Design(リデザイン)”というコンセプトを導き出しました。そこには、変化・進化していく業務の中で自由度の高い設計プロセスを作り、従業員一人ひとりが成果と成長を実感できること、そして、ムラタ内モデルケースを創るという意図を込めました」

近藤「高周波基板製品におけるECM改革は、全社的に見ても先進的かつ先行しています。高周波基板製品での状況もお聞きしながら、現場を理解した上で、ムラタとして目指すべき姿の議論を活性化させていければと考えています」

設計業務改善プロジェクトを通じたECM改革のイメージ画像1

点在するデータを一元化し、設計業務工数を大幅に減らす

――設計業務改善プロジェクトの内容を教えてください。

村岡「プロジェクト開始前は、膨大なデータは存在するけれど、それらがバラバラなところに保存されている状態でした。そこで、点在するデータをひとつのデータベースに集約し、ひとつのアクションでデータを取り出せるように作り直しましょうという考え方で進めました。設計仕様一括管理や生産工程作成、主部材在庫管理といったデータをWebプラットフォーム上で整理することで、設計に関わる工数を大幅に減らすことが目標です」

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――料理を作る際、バラバラな場所にある食材を1か所にまとめるようなイメージでしょうか?

村岡「イメージとしては近いと思います。もっと言うと、肉じゃがを作るならジャガイモの品種はこれがいいよね、温度はこれくらいで、時間は何分かけてと、工程の指示も自動化/簡略化することができます」

変革への情熱を持ったマネジメント層の重要性

――プロジェクトがローンチした先にはどのような未来が待っていますか?

村岡「圧倒的な業務効率化に加え、品質の向上も見据えています。たとえば、不具合への設計情報の影響度を分析したり、サイバー空間で試作して品質を向上させたりと、夢がどんどん広がってきます。ただし、製造業のプロセスは絶えず進化と変化を遂げていくので、このプロジェクトに完全なゴールはないと考えています」

近藤「設計業務改善プロジェクトでは、モノづくり領域の情報システムメンバーが取り組んでいることもあり、製造との連携が強く意識されている点が特長であり、大きな強みだと考えています。私たちとしては、高周波基板製品での事例から重要なものを全社資産として吸収し、他事業部に展開していく役割を担っていきたいと思っています」

――プロジェクトの推進にあたっては他部門との連携/協業もあったそうですが、組織横断で取り組む難しさはありましたか?

村岡「そこはかなり苦労した部分ですね。DXにおいては、効果を得たい部門が主体的に動くことが最も重要ですが、マネジメント層の理解や直接関与できる推進体制もポイントです。マネジメント層が積極的にドライブさせること、そして、DXに取り組む情熱や覚悟がないと成立しないことを実感しました」

近藤「EMI事業部のECM改革では、デジタルを活用する組織風土の醸成と、DX人材の育成をセットで進めています。こういった取り組みを進める際には、業務を深く理解している方や、情報システム部門のメンバーだけでなく、その両者を橋渡し的につなぐビジネストランスレーターのような役割の方が必要だと思っており、現場でDX推進を牽引する熱い従業員を巻き込んで進めていきたいと思っています」

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ナレッジをどう共有し、活用し、つなげていくか

――最後に、今回の取り組みで得た気づきや、今後の抱負を教えてください。

近藤「ムラタにはさまざまなデータ・情報が蓄積されていますが、それらの開発・設計業務での活用という点ではまだまだ取り組めることがあるのではないかと思います。特にナレッジに関しては、蓄積先行ではなく、具体的な活用シーンをイメージした上で取り組んでいくことが重要であり、ナレッジが本当に有用なのか、検証するサイクルを何度も回しながら精度を上げていきたいと考えています。ナレッジを活用することで、設計者が新たな知見を得るための業務に専念できるようになり、商品開発のリードタイム短縮、品質向上につなげていくことが目標です」

村岡「ムラタのエンジニアにとって、本来なら効率化できる作業に時間を奪われてしまうもったいなさは大きな課題でした。彼らの真価であるクリエイティブな発想を生み出すためにも、今回のプロジェクトは価値あるものだと考えています。そして、やはり、情熱の大切さ。製造業が絶えず変化する中で、新しいものを取り込み、進化していくのだという情熱こそ、DXには必要不可欠だと思います」

集合写真
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