“工場力強化の達人”に聞く、保全業務のカン・コツ依存をいかに脱却するか?のイメージ

“工場力強化の達人”に聞く、保全業務のカン・コツ依存をいかに脱却するか?(前編)――なぜ保全にIoT活用が重要なのか?

工場設備の故障対応などに関わる保全業務。この分野は人手不足やスキルが属人的になりやすい傾向があり、保全担当者の経験や技能に依存してしまう「カン・コツ依存」に陥りがちです。とはいえ、数年先を見据えた工場の競争力強化や生産力向上を考えると、限られた担当者のカン・コツに頼らず、より幅広い人が保全業務に携われるような“標準化”が重要なキーワードになってきます。そのように説明するのは“工場力強化の達人”と呼ばれるジェムコ日本経営のコンサルタント古谷賢一氏です。同氏に保全業務のカン・コツ依存脱却法、またそのためにIoTをいかに活用していくべきかについてお話を伺いました。

保全業務はなぜ、多くの人が手を出せない“タコツボ化”を招くのか?

――古谷さんは、おもに製造業の分野で多くの企業にコンサルティングをされています。上流の経営課題から現場の業務に至るまで幅広く見ているかと思いますが、そこでの改善を行う上で、設備の点検や修理といった「保全業務」がポイントになることは多いのでしょうか。

かなり多いと感じています。しかし、最初から「保全業務を改善したい」と相談がくるのはレアケースです。むしろ、その工場が競争力や生産性を高めるために何をすべきか、「工場のあるべき姿」を議論し追求していった結果として、保全に行き着くケースが多い。工場の未来や本質を突き詰めて考えたときに、初めて保全業務が抱える課題に気づくわけです。

特に今後は、多品種少量生産やその都度必要な量を生産する個別生産も増えていくと考えられます。モノづくりの工程が複雑になると、それに伴い、設備も複雑かつ高度化していきます。となれば、それら設備を保全し、いかに安定した操業を実現するかが競争力を左右するカギになる。数年先まで見据えた長期スパンで工場のあり方を考えるなら、会社全体として保全の位置づけを再定義する必要があるのです。

一般的に保全の領域は、今まで一番手をつけにくかった領域であり、後回しにされやすい領域でもありました。だからこそ悪い状況のまま放置され、いざ改革となっても、労力を要することが多いのです。

――なぜ保全は手をつけにくかったり、後回しにされたりするのでしょうか。

多くの工場にとっての重要事項は、日々の生産や操業を維持することなので、どうしてもそのための業務に優先的に取り組むことになってしまう。毎日必要な保全業務は行っても、何かあった時の保全業務は、“何かが無ければ”今は必要が無い。そういった事情で、保全業務は後回しになり、十分な人材を確保することなく、その結果、限られた担当者だけで工場全体の保全を担当しているような工場も多いのです。

とはいえ、保全担当者には多くの知識と経験、ノウハウが求められます。あらゆる工場内設備の構造や特性を知り、迅速にトラブルを解決していかなければなりません。しかし、一部の担当者だけで保全業務を回していると、そこで蓄積した知識やノウハウは共有されないままになってしまう。結果、保全担当者の仕事は“タコツボ化”していきます。これがいわゆる、保全業務の「カン・コツ依存」と呼ばれるような状態です。

――具体的にカン・コツ依存はどのような問題を引き起こすのでしょうか。

例えば、工場設備の大がかりな入れ替えはそれほど頻繁には行われないので、かなり古い機械を長年、使い続けている工場も多い。

そういった工場では、設備の図面や説明書が失われていることも珍しくはなく、部品交換の際にも正規の部品が入手できないケースがあります。そのような場合、故障のたびに保全担当者が独自に部品を付け加えたり、修繕を加えたりするわけです。そうなると機械の当初の仕様が保全担当者以外には分からなくなってしまい、稼働させるにも担当者のカン・コツに依存することになるので、タコツボ化がますます深刻化してしまう。これは非常に厄介です。

設備のトラブルで生産がたびたびストップする“チョコ停”などの問題が頻発する場合、設備を一度、初期状態に戻す対応を取ることがあります。そうしたときに、図面もなく、一部の担当者だけが機械本来の姿を知っているような状態だと大変な手間がかかってしまう。保全担当者がすでに退職したり、現場から離れたりしているような場合はなおさらです。

――保全担当者以外は手を出せないブラックボックス化が起こるのですね。

先ほども言ったように、保全に多くの人材・リソースを確保している企業は多くありません。そのような状況で、保全のノウハウが共有されていないと、工場の運営にも弊害が生まれます。保全担当者にしかできない仕事が増えて、常に手一杯の状態になり、故障した機械の事後的な修繕ばかりに追われてしまう。いわば故障というマイナス状態を必死にゼロに戻そうとしているようなもので、生産性という点でプラスに転化することがありません。

工場の生産性を上げるには、稼働率を上げていくべきです。そしてそのためには設備の故障も未然に防がなければならず、そのための役割として保全業務はあるべきなのです。

――「マイナスを減らす」のではなく、故障を未然に防いで、そもそも「マイナスを作らない」ことが重要なのですね。

はい。保全は大きく3つの種類に分けられます。トラブルが起きてから事後的に対応する「事後保全」。決められた保全業務を定期的に行い、トラブルをあらかじめ防止する「予防保全」。そして、トラブル発生前にそれに気づき、未然に防ぐ「予知保全」です。事後保全ではなく、予防保全や予知保全ができるに越したことはありません。しかし、保全業務のタコツボ化が常態化すると、事後保全に追われやすくなり、そうなると設備の稼働も上がりにくくなるなど悪循環が生まれてしまいます。

カン・コツ依存から脱却するための方法論としてのIoT

――このようなカン・コツ依存を脱却し、多くの人が保全に関われるよう、ノウハウを共有し、保全業務を標準化するにはどうすれば良いのでしょうか。

まずは保全の業務プロセスを徹底的に洗い出すことが必要です。カン・コツは言い換えるなら、個人の知識や経験に依るところが大きい「暗黙知」です。つまり、明確に言語化されてはいないけれど、保全担当者だけが感覚的に分かっているような知識。

そうした暗黙知を、他の人も分かる「形式知」に変換する必要があります。たとえば手順書作成などの文書化、写真やメモ書きで保全工程を逐一記録しておくなど、方法はいろいろあるでしょう。重要なのは、保全業務の工程のどこに暗黙知が発生して、どこにカン・コツ依存が起きているのか。それを把握することです。

――保全業務を言語化して、何か暗黙知化しているかを知ることが、すべての土台になるのですね。

はい。しかし、これも簡単ではありません。保全ノウハウを言語化するのは一筋縄ではいかないのです。保全担当者が「これなら他の人も理解できるだろう」と思って記した内容が、保全の素人には伝わらなかったり、そもそも何が暗黙知なのか担当者自身で分からなかったりするようなケースも多い。

私がコンサルティングを行う際には、手順書などをつくるときに、誰が見ても分かるような基礎的かつ平易な内容で記述することを強くお伝えします。どんな人でも、そこに書いてある通りに実行すれば再現できるように、とにかく細かく、地道に業務プロセスを洗い出していくこと。質の悪いマニュアルや手順書には書かれないような内容こそが「カン・コツ」なのですが、それをいかに文字や写真などで“見える化”していくかがとても重要です。

――非常に根気よく取り組む必要がある作業なのですね。

カン・コツ依存を脱却する上で、私がひとつ注目しているのが、IoT技術の活用です。IoTは、保全のタコツボ化を解消するだけでなく、予知保全を可能にすることで、保全業務のレベルを格段に引き上げる可能性があると考えています。

たとえば、ある機械にセンサを取りつけて、振動データを取得するとします。そして、過去に故障が発生したときのデータと比較し、そのときの振動に近づいたらアラームを鳴らす。もちろん、現実にはデータ解析など単純にはいかないものですが、これはシンプルなIoT化の例で、まさに予知保全のあり方だと言えます。

ただし、故障を未然に防ぐ意味では予防保全も有効ですが、機械の状態に関わらず定期的に点検・チェックを行うため、場合によっては保全担当者の業務がより忙しくなる可能性もあります。保全に割く人材が少ない状況では、ときにマイナスになることも考慮しなければなりません。

――故障を予知し未然に防ぐ「予知保全」がもっとも効率的であり、それをサポートするのがIoTということですね。

IoTは、今まで保全担当者のカン・コツに依存していたものを、データで可視化してくれます。それは保全という業務の品質向上にもつながります。もちろん、高レベルな保全担当者の育成など、人材を育てることも変わらず重要ですが、これからの日本は少子高齢化の影響でますます人手不足になることは明白ですし、育成には時間もかかる。そこを補完するソリューションとしてIoTを活用し、かつ人材の育成も並行してできれば、理想的だと思います。

保全業務のタコツボ化がもたらす、カン・コツ依存。これからの工場が競争力を発揮するために、カン・コツによる暗黙知を形式知に変えて、より高レベルな保全を実現することが重要だと分かりました。そして、そのカギとなるのがIoTの活用。後編では、保全業務における具体的なIoT導入の方法について詳しく聞いていきます。

古谷賢一(ふるたに・けんいち)

株式会社ジェムコ日本経営 本部長コンサルタント。数多くの製造現場へのコンサルティングを筆頭に、経営管理や人材育成、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事。海外工場の支援実績も多い。ものづくりの現場に密着した、きめ細かなコンサルティングは多くのクライアントから高い評価を得ている。セミナーや講演、雑誌への寄稿実績も多数。

村田製作所は、エレクトロニクス技術と製造現場での知見を詰め込んだ、製造業向けソリューションを提供しています。

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