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新型コロナ感染リスク低減のため空気の質を考える(後編)──空気の質を可視化してくれるCO2センサの選び方とは

2020年から始まったコロナ禍は、依然として終息する気配をみせていません。このニューノーマル(withコロナ)時代に、何より求められるのが人の集まる空間での感染リスク低減です。ポイントは3密の回避、なかでもエアロゾル感染(空気感染)を予防するためには密閉を避ける、つまり適切な換気を行う必要があります。全2回シリーズの後編では換気の指標となるCO2センサの選び方や空気の質の可視化などについて、国立大学法人 電気通信大学大学院特任准教授の石垣陽先生と村田製作所の空間可視化ソリューション開発担当者の今川、CO2センサ開発責任者の檀に聞きました。

信頼できるCO2センサとは

――前編ではエアロゾル感染防止のための換気の大切さや換気の重要な指標となるCO2濃度についてお話を伺いました。CO2濃度はセンサで測定するわけですね。

檀 : そのCO2センサについて驚いたのは、これをCO2センサと呼んでよいのだろうかと疑問に思うような製品が、販売されていた事実です。

石垣先生 : 我々が昨年8月にテレビの報道番組で報告した一件ですね。私も調査してみて、結果に唖然としました。

今川 : 先生の調査報告には、私たちも本当にびっくりしました。

石垣先生 : 我々は、通販サイトで販売価格が5000円以下のCO2センサを10数種類買って実験調査したのです。その結果は、約6割がCO2を正確には測定できないような製品でした。この調査結果についてプレスリリースを出して報告*1したところ、テレビで報道され国会議員にも注目されました。これを受けて経済産業省でガイドラインが作成されます。その結果、市中に出回っていた擬似的にCO2濃度を計測する機器は、徐々に姿を見かけなくなりました。こうした擬似的な計測器には、様々な有機化合物(VOC)に反応する安価なガスセンサが用いられており、ガスの濃度からCO2濃度を推測できると主張されていました。なお、今回の経済産業省のガイドライン*2で認められたCO2センサは光学式です。

*1 【ニュースリリース】安価で粗悪なCO2センサの見分け方 ~5千円以下の機種、大半が消毒用アルコールに強く反応~│電気通信大学
*2 【報告】石垣陽特任准教授(情報学専攻)が、経済産業省「二酸化炭素濃度測定器の選定等に関するガイドライン」を監修│電気通信大学

檀 : CO2濃度を正しく測定するためには、光学式すなわち、NDIR(Non Dispersive InfraRed=非分散型赤外)式もしくは光音響式など定められた方式に基づくセンサが必要です。

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電気通信大学大学院特任准教授 石垣 陽先生

CO2センサの正しい見極め方

――購買者からすれば、どのCO2センサを選べばよいのか迷いそうです。まずは検知原理が光学式となっていれば、信頼できると考えてよいのでしょうか。

石垣先生 : 経済産業省のガイドラインに従って、NDIR式もしくは光音響式のセンサを選ぶのが、買う前のチェックポイントです。買った後は、自分で息を吹きかけてみて、数値がきちんと上がるのを確かめたら、次にアルコールを近づけてみて、今度は逆に数値が上がらないのを確認しましょう。さらに校正機能についての説明が、きちんと記載されているかどうかも重要な判断ポイントです。

檀 : 校正機能とは、測定値のズレを自動もしくは手動により修正する機能です。CO2に限らずガスセンサは、使い続けているうちに測定値が少しずつズレていきます。そのズレを校正機能が修正します。実際には半年ぐらい使っているとズレが出始めて、1年経つとかなり大きくなります。そのため一般的には法令点検の際などに校正をかけて、センサの値を修正します。そもそも我々はCO2センサを、農業用途として開発してきました。CO2濃度は植物の生育に直接影響するため、自動校正も正確で、長期の安定性に優れた製品を量産しています。またCO2濃度測定値に誤差をもたらす要因なのに見過ごされがちな、湿度の変動などCO2以外の環境変化による影響も排除した設計になっています。

機能デバイス事業部 檀の写真
機能デバイス事業部 檀

空気の可視化、その決めては“わかりやすさ”

――正確に測定できること、さらに修正可能に加えて、CO2センサを購入する場合、他に注意する点はあるでしょうか。

石垣先生 : 濃度表示について今はほとんど数値表示となっています。たとえば数値が800と1100といわれても、その違いにピンと来る人はいないでしょう。大人を対象とするなら「空気質良好」などの表示がわかりやすいでしょうし、小学生や幼稚園での使用を考えるなら、スマイルマークのようなアニメ表現が、直感的にわかりやすくていいかもしれません。

今川 : 誰が見るのかは重要な視点ですね。お店などでは、よくカウンターの端やお会計のあたりに置かれていますが、あれだとお店を出るとき初めて「大丈夫だったんだ」と安心できるわけです。お客様としては本当ならもう少し早く知りたいと思いますが。

石垣先生 : 飲食店などでの可視化は、慎重を期すために3段階でやりましょうとお話しています。最初からいきなりお客さんに見せるのではなく、まずは管理者がしっかりとトレンドを把握する必要があります。これには1週間ほどじっくり時間をかけて、たとえばどの時間帯に濃度が高まるのかなど傾向を確かめた上で換気対策を考えるのです。常に1000ppm以下なら基本的に大丈夫ですが、混んできたりすると1000ppmを超える場合がある。そこで第2段階としては混雑時にはスタッフに、必ず数値チェックするよう指示します。1000ppmを超えていれば、機械換気では不十分なわけですから、窓を開けて自然換気するよう教育しておく必要があります。そこまで徹底して、空気をきれいに保っている自信を持てたら、最後にお客さんに見せてアピールすればよいのです。

檀 : お客様にセンサを見せて換気アピールしておきながら、1000ppmを超えていたりすると、逆にクレームになりかねませんね。

石垣先生 : スタッフも十分に教育されていないと、あわててしまいますね。それでトラブルでも起こしたりしたら、元も子もありませんから。逆に各店がセンサをきちんと導入すれば、街のお店全体の換気状況が可視化されます。電通大のある調布市では「調布セーフエアプロジェクト」を実施していて、空気のきれいなレストランを紹介しています*3

*3 【ニュースリリース】換気良好店を地図上に可視化してアピール ~調布駅前商店街と市役所も参加~│電気通信大学

事業インキュベーションセンター 今川の写真
事業インキュベーションセンター 今川

――学校などでは、どのようにCO2センサを使いこなせばよいのでしょうか。

石垣先生 : 先生方が生徒に測定値を見せて、自主的な行動変容を促すのがオーソドックスな考え方です。とはいえ教育の場なのだから、生徒たちに考えてもらうのも一案です。たとえば、理科の実験のひとつとしてCO2濃度の変化を計測して理由を考えてもらう、あるいは濃度上昇に伴うアラート表示を美術の時間に考えてもらうなど、環境教育のひとつの手段としても活用できます。村田製作所のAIRSualなら各種センサを追加できるので、たとえば教室のドアが開閉を検知して音を鳴らすIoTシステムを考えてみる。これなどは、最近熱心に進められているGIGAスクールや環境STEAM教育の教材としても使えそうです。拡張性に富んでいるのがAIRSualのよいところでしょう。

空気を見える化し、空気の質にこだわってほしい

――AIRSualの予測機能は、使い勝手がよさそうですがいかがでしょうか。

今川 : CO2センサで予測機能を備えているのは、当社のAIRSualだけです。現在、特許申請中ですが、5分後でも1時間後でも正確に予測できるアルゴリズムを開発しました。CO2濃度の予測には、たとえば空間の体積やその場にいる人の数、換気能力など様々なパラメーターを総合的に勘案しなければなりません。我々はまず1週間分のデータを採取した上で、さらに機械学習なども組み合わせて高精度な予測を実現しています。

檀 : 当たり前の話ですが、採集するデータが不正確だと、予測精度に大きく影響します。だからデータを採取するセンサに関しても徹底して高精度にこだわっています。

空間可視化ソリューション「AIRSual」について詳しくはこちら

――最後に石垣先生から、空気の見える化が実現される近未来への期待をお聞かせください。

石垣先生 : 空気の質をデジタル表示できるようになれば、まずエアロゾル感染の抑制につながると期待できます。さらにニューノーマル(withコロナ)時代における観光DXの一貫としてCO2センサ導入を進めていけば、観光業への貢献にもつながるでしょう。また環境教育への貢献も期待でき、さらにSDGs達成に向けた国際支援も視野に入ってきます。村田製作所にはぜひ、世界に向けて「空気の質を可視化」する重要性を積極的に発信してもらいたいですね。

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石垣 陽(いしがき よう)

専門はリスク情報学。市民がリスクを正しく認知するための測定・可視化方法を研究している。博士(工学、電気通信大学)、修士(芸術、多摩美術大学)。セコムIS研究所にて10年間、セキュリティシステムの研究開発に従事。その後、世界初のスマホ接続型放射線センサ「ポケットガイガー」や、大気汚染を可視化する「ポケットPM2.5センサ」、3密を可視化する「ポケットCO2センサ」を実用化した他、医療・衛生機器の開発も多数行う。地方発明表彰 文部科学大臣賞受賞、日本国際賞平成記念研究助成授与、グッドデザイン賞、RedDotデザイン賞など受賞歴多数。メディアにも多数出演し、エアロゾル感染防止のためのリスク回避行動を呼びかけている。
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