ノイズ対策ガイド

信号ライン用コモンモードチョークコイルの特性と選び方

株式会社村田製作所のコモンモードチョークコイルは、多くのラインアップを揃えており、信号ライン用コモンモードチョークコイルでは、特性やサイズにより多くの選択肢があります。そこで、特性の観点でどのようにコモンモードチョークコイルを選べばよいか以下に紹介します。

本記事内で紹介している一部の製品(DLP0QSA150HL2)は、生産中止となっています。

1.差動伝送とコモンモードチョークコイルの使い方

コモンモードチョークコイルの特性に入る前に、まずはコモンモード信号とディファレンシャルモード信号の概念について紹介します。

これらの概念は、「ノイズ対策の基礎 【第6回】 コモンモードチョークコイル」において既に紹介しましたが、2本の信号ラインを用いてデータ伝送を行う差動伝送を例にとって、改めて紹介します。

差動伝送は、「高速の伝送が、なぜ差動伝送になっているのか?」で紹介したように、高速データ伝送に使われている方式です。たとえばスマートフォンのカメラやディスプレイ等で使用されるMIPI®、パソコンのHDMI®やDisplayPort、USBなどが差動伝送方式です。

図1に示すように、差動伝送では2本のラインに互いの位相(電圧波形と電流波形のズレを表わすもの)が逆の信号で流れています。

この信号をディファレンシャルモード信号と呼び、これでデータ伝送が行われます。(ディファレンシャルモードはノーマルモードと呼ばれることもあります)一方、ディファレンシャルモード信号に対して、コモンモード信号と呼ばれる信号があり、2本のラインに同相で流れる信号のことを意味します。

コモンモード信号は、差動伝送にとっては不要な信号、つまりノイズであり、コモンモードノイズと呼ばれています。

図1 差動伝送におけるディファレンシャルモード信号とコモンモード信号

現実の高速差動伝送の信号は、図1のようにディファレンシャルモード信号にはコモンモードノイズが混ざっています。1対のラインに流れている信号の差分をとると、ディファレンシャルモード信号は強め合う一方、コモンモードノイズは打ち消されます。このように差動伝送方式は、コモンモードノイズの影響を受けにくくなっています。

一方図2のように、差動伝送から放射された信号を遠方から観測すると、信号が重なって見えます。この場合、ディファレンシャルモード信号は互いに打ち消しあって見え、コモンモードノイズは強めあって見えます。つまり遠方界では、コモンモードノイズの影響を受けやすくなっています。

このようなノイズが問題になる場合には、コモンモードチョークコイルを差動伝送ラインに挿入して、コモンモードノイズを取り除くことが有効になります。

図2 差動伝送から放射されるノイズ

コモンモードチョークコイルは、図3に示すように、差動伝送の1対のラインにまたがって挿入されます。挿入されたコモンモードチョークコイルは、データ伝送に必要なディファレンシャルモード信号は通しつつ、コモンモードノイズを通さないよう減衰させることができます。

図3 差動伝送ラインに挿入されたコモンモードチョークコイル

2.コモンモードチョークコイルの特性の見方

現実にはコモンモードチョークコイルによってディファレンシャルモード信号も多少なりとも減衰します。また、ディファレンシャルモード信号もコモンモードノイズ信号も周波数によって減衰量が異なります。このようなコモンモードチョークコイルの特性を、ディファレンシャルモード挿入損失Sdd21とコモンモード挿入損失Scc21で表しています。(Sdd21やScc21はミックスモード4ポートSパラメータの一部です)

図4はディファレンシャルモード挿入損失Sdd21の周波数特性を、図5はコモンモード挿入損失Scc21の周波数特性を示しています。図4と図5の挿入損失は、深いほど損失が大きいことを示します。図4に示すように、ディファレンシャルモード信号は高周波ほど損失が大きくなります。一方図5に示すように、コモンモード挿入損失Scc21はピークを持ったカーブであり、周波数によってコモンモードノイズの除去効果が異なります。

図4 ディファレンシャルモード挿入損失(伝送特性)
図5 コモンモード挿入損失(伝送特性)

差動伝送の信号周波数は各インターフェースの方式によって異なり、それに応じて適用できるコモンモードチョークコイルも変わってきます。

コモンモードチョークコイルが適用できるかどうかは、伝送信号波形を見て判断することができます。

大まかな見方として、コモンモードチョークコイルのカットオフ周波数が、差動伝送規格の信号周波数の3倍以上という目安が用いられることがあります。カットオフ周波数とは、ディファレンシャルモード挿入損失が3dBになるときの周波数です。ただし、3倍以下でも信号波形上問題ないことも多く、あくまで参考目安です。(各インターフェースでアイパターンなど信号品位の基準が定められているので、最終的にはこの基準と照らし合わせて適合性を判断します)

一方、問題となるノイズおよびその周波数は端末によって異なり、それに応じて適したコモンモード挿入損失の周波数特性も変わってきます。

たとえば、不要輻射規制の規格で定められた限度値を超えるノイズが発生している場合、そのノイズの周波数帯でコモンモード挿入損失の大きいものを選ぶことが有効です。

また、差動伝送から放射されたコモンモードノイズが、自身のLTEやWi-Fiなどの無線通信性能を悪化させることがあります(図6)。これは、無線通信と同じ周波数のコモンモードノイズが放射され、アンテナがこれを受信することで発生することが考えられます。これを受信感度抑圧と言います。この場合もコモンモードチョークコイルを挿入することで、コモンモードノイズの放射を抑制し、受信感度を改善させることができます。

図6 通信性能が悪化(受信感度抑圧)する例

3.コモンモードチョークコイルの選び方

DLP0QSA150HL2は生産中止となりました。

ディスプレイのMIPI®ラインから放射されたノイズによって700MHz帯から900MHz帯にあるLTEのbandで受信感度抑圧している場合を例に、コモンモードチョークコイルの選び方について紹介します。

ここでは、MIPI®の信号周波数を500MHzとします。この例では、コモンモードチョークコイルとして、図7と図8に示された特性を持つ2種類のコモンモードチョークコイルA(DLP0QSA150HL2)、B(NFP0QSN112HL2)のどちらの方が適しているかを考えてみます。

まず図7のディファレンシャルモード挿入損失を見ます。信号周波数500MHzの3倍は1.5GHzです。どちらのコモンモードチョークコイルのカットオフ周波数も1.5GHzよりも高いので、問題なく適用できそうです。次に、図8のコモンモード挿入損失の700MHz帯~900MHz帯を見ると、コモンモードチョークコイルB(NFP0QSN112HL2)の方が、挿入損失が大きくなっています。 
つまり、コモンモードチョークコイルB(NFP0QSN112HL2)の方が、700MHz帯~900MHz帯のコモンモードノイズを減らし、LTEの受信感度をより改善させる効果が期待できます。

図7 ディファレンシャルモード挿入損失 (伝送特性)
図8 コモンモードチョークコイル挿入損失 (伝送特性)

*コモンモードチョークコイルA:DLP0QSA150HL2 / B:NFP0QSN112HL2)

別のケースとして、Wi-Fiの受信感度抑圧での対策事例を「ノイズ対策でWLANの受信感度を改善するには?」に掲載しているので、是非参考にしてください。

以上のように、差動伝送の信号周波数および問題となっているノイズの周波数を特定したうえで、ディファレンシャルモード挿入損失Sdd21およびコモンモード挿入損失Scc21を見ることで、適したコモンモードチョークコイルを選んでいくことができます。
村田製作所では、差動伝送の規格毎に推奨コモンモードチョークコイルを紹介しています。コモンモードチョークコイルを選ぶ際には、本稿と合わせて、以下のリンクにある推奨リストを参照ください。

一般用途向けの推奨リストはこちら
自動車用途向けの推奨リストはこちら

 

株式会社村田製作所 
EMI事業部 商品技術部 商品技術1課

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