ブランドプロテクション後編イメージ

テクノロジーが“ブランド”を作り、育て、守る時代。 ――すべての企業にとって必須になる「ブランド戦略」の基本とは?(後編)

ブラックマーケット/グレーマーケット問題を解決するテクノロジーとは?

--ブランド価値を損なわないために、流通チャネルのマネジメントで一般的になっている方法論はあるのでしょうか。

多くの企業が行っているのは、自社の直販サイトを作ることです。直販サイトは、最も利益率の高い販売チャネルであると同時に、生活者に対してブランドの世界観をダイレクトに伝えるのにも効果的なツールです。

米国では販売力のあるeコマースプラットフォームも新規顧客の獲得を目的に利用されていますが、その場合でもブランドにとってプラスになるよう、チャネルが選択されるようになってきています。

日本の場合、eコマースサイトを展開する有力なプラットフォーマーが並び立ち、最終決戦をしている状況です。ブランドを展開する企業は、まずは直販サイトを通じてブランド力を付けつつ、間接販売を行うサイトをうまく選択することで、チャネルマネジメントをしていく戦略が重要です。

 

--直販サイトを構築し、その影響力を高めるには、時間もコストもかかりますよね。その場合、間接販売のチャネル活用が焦点になるかと思います。その際求められるグレーマーケットやブラックマーケットへの対策として、あらためて企業側にできること、活用できるテクノロジーにはどのようなものがあるのでしょうか?

まず、ブラックマーケット対策の一つとして、ブランド側が偽造品を見つけ出しやすくする方向性があるでしょう。そのためにテクノロジーが活用できます。

商品へのホログラムの埋め込みなどは以前から行われていた「正規品を見分ける」ための対策です。最近では、暗号化された表面パターンを商品に印刷することもあります。この方法は画像から正規品かそうでないかが分かるので、企業側にとっては判別や取り締まりが容易になるというメリットがあります。特に、生活者間での商取引(C to C)がメインとなるマーケットプレイスなどで売り買いされる商品を監視したい場合には使いやすいでしょう。

ブランドにとって健全な二次流通市場が成り立つためにも「この商品が100%本物である」ことを証明できる仕組みは、重要な意味を持っています。これまではブランド品の真贋を鑑定できる専門家がその役割を担ってきたわけですが、マーケットで流通する商品が正規品かどうかを、特別なスキルを持った人手を介さず、機械学習で確実に識別できるAIのような新しいテクノロジーの価値が増すのではないでしょうか。

一方で、ID情報を記録した電子タグから情報を読み取る「RFID」(※1)を使い、商品の認証を行う方法が一般的になりました。RFIDは技術的に成熟してきていることもあり、企業が流通戦略を考える上での王道となり得るソリューションだと思っています。改ざんやコピーも難しく、偽造品はすぐに判定することができます。タグが埋め込まれた商品が手元にあれば、生産地や流通経路などの商品情報を正確に読み取ることができ、正しい流通ルートの商品かどうかを判別することができます。

※1  RFID(radio frequency identification)

近距離無線通信を用いた自動認識技術のこと。一般的には、無線通信を用いて、ICタグを取り付けた様々な対象物を識別・管理するシステムやその部品を指す。

RFIDはさまざまな用途で使われ始めています。たとえば、フランスのファッションブランドでは、2016年から製品にRFIDを導入して、模倣品対策を行っています。また、販売後のユーザーサポートにも、このタグを活用しています。同社ではダウンジャケットの購入者に対して、中に入っているダウンの補充サービスを行っているのですが、このサービスの適用時には、商品に正規のRFIDタグが埋め込まれていることを条件としています。

少し変わった使われ方としては、サブスクリプション形式で高級ブランド品をレンタルするサービスでは、商品情報を管理するためにRFIDを使っていますね。このように、物流や在庫管理といった用途だけでなくブランディングの一部として応用範囲が広い技術です。

ラグジュアリーブランドの場合、これまで偽造品や非正規な流通ルートへの対策に膨大なコストをかけてきました。その精度を高めつつ、効率化できるのであれば、RFIDのコストは投資以上のリターンを生む技術になってきているのです。

サプライチェーンの「可視化」が高めるブランド価値

--市場、生活者、流通のすべてが急速に変化し、多様化している今、ブランド戦略に取り組もうとする企業は、それらにできるだけ広く気を配りながら、コントロールしていく意識が必要になっているのですね。「ここは押さえておくべき」というポイントがあれば教えてください。

ブランド戦略と流通の関係に着目するのであれば、基本となるのは「自社の流通戦略が、ブランドの価値を維持、向上できるようなものになっているか」をあらためて見直してみることでしょう。自社製品が、そのブランド価値と合わないようなルートで売られていないかどうかを調べ、そうした実態がもしあれば、それをなくしていく対応を行うべきです。

 

また、自社製品のブランド価値を高めていきたいと考えている企業であれば、自社運営による直販サイトの構築も一つの手段となるでしょう。

これはB to C(企業消費者間取引)だけでなく、B to B(企業間取引)でも言えます。テクノロジーは企業と顧客との関係を、よりダイレクトなものにする方向へと進化しています。顧客と自社との接点を増やし、直接販売できる体制を作ることで、ブランドマネジメントの難易度は大きく下がります。

これからのブランド戦略においては、生活者とダイレクトな関係を築くことで少しずつブランドを作りながら、育てたブランド力を元に流通や販売のチャネルをコントロールして、さらにブランドを守っていくというビジョンが必要になるのではないでしょうか。

--これからの日本発のテクノロジーに、あらためて期待されることはありますか。

今までの日本のテクノロジー系企業は、伝統的に他国企業による特許権、つまり技術の侵害には敏感でしたが、一方で商標権や意匠権、いわばブランドをさほど守ってきませんでした。しかし、これからグローバルで展開する企業には、ぜひ「商標権」に対する日本企業の意識を高めるような活動をしていただきたいです。たとえば先ほどお話ししたようなRFIDによる「ブランドプロテクション」(※2)といったソリューションはそのひとつだと考えます。

※2 ブランドプロテクション

不正規ルートでの流通品(グレーマーケット)や、偽造品(ブラックマーケット)への対策全般を指すことが多い。狭義には、異なる国や地域からの個人輸入などをブランドが制限することを指すこともある。

 

また、RFIDを始めとするトレーサビリティ(※3)に関する技術やソリューションの強化にも期待しています。私はアパレル業界のビジネスをお手伝いすることが多いのですが、アパレルは商品が生活者の手へ届くまでに、非常に多くの工程があります。生地の原料から、染料、製糸、生地、縫製まで、それぞれに別の場所、業者によって行われます。その工程が多ければ多いほど、どこかで製品にとって好ましくない要素が入り込むリスクが高まります。

※3 トレーサビリティ

物品の流通経路を、生産段階から最終消費段階あるいは廃棄段階まで追跡が可能な状態にすること。例えば、食品の場合には、栽培や飼育から加工、製造、流通などの過程を明確にする仕組みを指す。追跡可能性とも言う。

新たな技術で、こうしたサプライチェーンを可視化できれば、それは生活者の安全や安心にもつながります。メーカーの信頼性、ひいては「ブランド価値」を高めるソリューションに十分なり得ると思います。

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