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飛行機エンジンの電動化とオートパイロットの最新技術

自動車は電池・モーター・パワーエレクトロニクスなど、エレクトロニクス技術の進化により、目覚ましいスピードで動力の電動化や自動運転が推し進められています。一方で、飛行機エンジンには厳しい安全要件が課されているため、電動化は技術的にも商業的にも実現不可能であると考えられ、取り組みは見送られてきました。

しかし、航空旅客輸送における旅客数は2001年から2019年の間に約2.7倍になっており*1、今後さらなる便数の増加にともなう排出ガスによる環境への悪影響が懸念されています。また事故件数の増加も予想されており、特に事故率の高い離着陸時の安全性を高めるオートパイロットの開発が求められています。

ここでは、飛行機の排出ガス問題を解決するエンジンの電動化と、飛行機運航の安全性を高めるオートパイロットの最新技術について解説します。

*1 出典:(一財)日本航空機開発協会

飛行機エンジンの電動化

これまで、飛行機エンジンの電動化は油圧ポンプや燃料供給装置といった補機類を中心に、行われてきました。しかし、国際的な脱炭素化の流れの中、従来の取り組みでは排出ガス量の抑制に限界が見えてきました。そこで近年、エンジン自体(推進系)を電動化することで、排出ガスをゼロまたは大幅に低減する試みが始まりました。ここでは、従来の取り組みの限界と飛行エンジンの電動化の必要性、電動エンジンの方式などについて説明します。

これまでの取り組み

飛行機が搭載するさまざまな装置では、すでに電動化が進められてきました。この取り組みは「航空機用エンジンシステムの電動化(MEE:More Electric Engine)」といわれ、機械または油圧・空気圧で駆動させていた装置を電気で駆動するという技術です。たとえば、燃料ポンプや油圧ポンプの駆動に必要な動力はジェットエンジンの動力や抽気(ブリードエア)*2から得ていましたが、これを電動モーターに置き換えることでエンジンにかかる負担の軽減を実現しています。また、航空燃料に「SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)」といわれるバイオ燃料を混合することによる二酸化炭素の排出量の削減や、推進ファンの大型化による燃費の向上なども行ってきました。

しかしこれらの対策はあくまでもジェットエンジン以外の補機や燃料の改良であり、排出ガスをゼロにしたり大幅に削減したりといった効果を得るには限界がありました。

*2 ガスタービンエンジンにおいて、コンプレッサーにより圧縮された空気の一部を取り出したもの。

電動化への流れ

国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organization)や国際航空運送協会(IATA:International Air Transport Association)などは、2050年までに二酸化炭素排出量を2005年に比べて半減させるという目標を掲げています。このような国際的な流れの中、これまでのエンジン補機の電動化や、燃料・燃費の改善では目標の達成は困難であることが明らかになりました。

そこで、将来をみすえた航空需要の増加への対応と、排出ガスの低減を両立する技術として注目されているのが、飛行機エンジンの電動化です。飛行機エンジンをジェットエンジンから電動モーターに置き換えると、エンジンからの排出ガスをゼロまたは大幅に削減することができます。このため、多くの航空関係の研究機関や飛行機製造メーカーにとって、電動エンジンの開発は喫緊の課題になってきました。

電動エンジンの方式

ジェットエンジンに代わる電動エンジンには、電動モーターだけで推力を得る「ピュアエレクトリック方式」と、ジェットエンジンと電動モーターを併用する「ハイブリッド方式」があります。

ピュアエレクトリック方式

「フルエレクトリック方式」ともいわれます。この方式のエンジンは、二次電池・電動モーター・推進ファンで構成されます(図1)。二次電池からの電力で電動モーターを駆動し、推進ファンの回転により推進力を得ます。この方式ではジェット燃料を一切使用しないため、二酸化炭素の排出量はゼロです。ただし、推進力が電動モーターであり電力を二次電池のみが供給するため、現在のリチウムイオン電池のエネルギー密度では中・大型機の飛行は困難であり、この方式で飛行できるのは単座や複座といった小型機のみです。

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図1 ピュアエレクトリック方式

ハイブリッド方式

ハイブリッド方式には「パラレルハイブリッド方式」と「シリーズハイブリッド方式」があります。これらはジェットエンジンあるいはガスタービンと電動モーターを組み合わせた方式であり、ピュアエレクトリック方式に比べて大きな推力を長時間得ることができます。このため、中・大型機の飛行も可能です。

パラレルハイブリッド方式

パラレルハイブリッド方式のエンジンは、ジェットエンジンと二次電池、二次電池で駆動する電動モーターで構成されます(図2)。ジェットエンジンと電動モーターの両方を使って推進ファンを回転させることで推進力を得ます。

パラレルハイブリッド方式のイメージ画像
図2 パラレルハイブリッド方式

シリーズハイブリッド方式

シリーズハイブリッド方式のエンジンは、電動モーター以外に発電機と発電機駆動用のジェットエンジンおよび二次電池で構成されます(図3)。ジェットエンジンの回転が発電機へと伝わり発電し、この電力で電動モーターを駆動して推進ファンを回転させます。ジェットエンジンは発電機の駆動用として使用するため機体に設置する場所の自由度は高く、推力を生み出す電動ファンの配置位置やファンの数に対しても制限は少ないという特長があります。また、余剰電力や電動モーターを使用しないときのジェットエンジンの回転エネルギーを回生し、二次電池に充電することもできます。

この方式では、ジェットエンジンが発電した電力で電動モーターを駆動させます。このため発電時にエネルギーロスが生じますが、設計の自由度の高さを活かして推進ファンの配置や数を最適化することで、推進効率を向上させることが可能です。

シリーズハイブリッド方式のイメージ画像
図3 シリーズハイブリッド方式

飛行機のオートパイロット(自動操縦)の最新技術

飛行機のオートパイロットの歴史は古く、離陸後の運航においては安定運航が実現していますが、離陸や条件が悪い中での着陸は危険がともなうためオートパイロットが使用できませんでした。しかし近年ではレーダーや画像認識システム、電波センサの高精度化、モーターやバルブといったアクチュエータの応答速度の高速化などにより、従来困難であった条件でもオートパイロットによる操縦が可能になりつつあります。このような中、近年では離陸から着陸までのすべての操作をオートパイロットによって行うための実験も始まっています。

オートパイロットとは

オートパイロットとは、航空機の操縦を自動化しパイロットの操縦負荷を軽減するシステムのことです。オートパイロットシステムを活用すると、航空管制からの指示や気象情報、位置情報や周辺の航空機の情報などを基に、パイロットが高度・方位・速度・目的地などを設定することによって自動で航空機を操縦することができます。

一般に、旅客機の場合、パイロットは離陸後数分でオートパイロットに操縦を任せます。その後は霧や風が強いなどの場合を除いて、安全に飛行することが可能です。そして危険がともなう着陸は手動で操縦します。もちろん、パイロットはすべての操縦を手動で行う技量を備えています。しかし飛行中は、フライトマネジメントや飛行計画の立案など操縦以外にパイロットが行う作業は多くあるため、操縦をオートパイロットに任せることでより安全な飛行が可能になります。

オートパイロットの仕組み

オートパイロットには機体姿勢制御機能(ピッチ・ロール・ヨー:図4)、高度・速度制御機能、そして目的地への誘導機能があります。

ピッチ・ロール・ヨーのイメージ画像
図4 ピッチ・ロール・ヨー

このうち機体姿勢制御と高度・速度制御は、加速度センサや傾斜センサなどのセンサとFCC*3・ACC*4・アクチュエータ*5で行います。センサで機体の姿勢・方向・高度・速度を検出し、検出した信号をFCCに送信します。FCCはアクチュエータを動作させるためのコマンドをACCに送信し、ACCはアクチュエータの駆動に必要な電力を供給します。これにより、アクチュエータは補助翼・方向舵・昇降舵などの動翼を適切に動作させることで、オートパイロットによる安全な飛行が実現します。

通常、アクチュエータおよび動翼の動きは操縦室のモニターやメーターなどにも伝達・表示されます。パイロットはモニターやメーターの表示により、各装置の動作状況や機体の姿勢を把握することができます。なお、オートパイロットシステムは故障すると重大な事故の原因になるため多重系システムで構成されており、高い信頼性を確保しています。

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*3 FCC(フライトコントロールコンピュータ):機体の各装置の状態やエンジン推力、気流などの要因を加味し、飛行制御則に従って最適な操舵角を計算し、動翼(補助翼・方向舵・昇降舵など)の動作量を決める信号をACCに出力する。

*4 ACC(アクチュエータコントロールコンピュータ):FCCからのコマンドに従って動翼を駆動するアクチュエータに必要な電力を供給する。

*5 アクチュエータ:電気・圧力(油圧、空気圧など)・熱・磁気などのエネルギーを、回転・伸縮・屈曲など機械的運動に変換する装置。電動モーターや油圧ピストン、電磁ソレノイドなどがある。

飛行機エンジンの電動化とオートパイロットのエレクトロニクス技術

飛行機エンジンの電動化にとって最優先で解決すべき課題は、長い航続距離の実現です。航続距離を伸ばすには、電池を多く積むことでエネルギーの搭載量を増やすという方法があります。しかし、特に飛行機は他の輸送装置と異なり、電池の搭載量増加による機体重量の増加は許容できません。このため、電池のエネルギー密度を向上させることが必要です。すでに電池のエネルギー密度を大幅に向上するための研究開発は世界各国で進んでおり、セルレベルで450Wh/kg以上に達するなどの報告もあり、500Wh/kg程度が実現すると飛行機エンジンのハイブリッド化による旅客機の離陸上昇時のアシスト電力として使用することが期待できます。また、コンバータやインバータなどの冷却においても水冷システムは重量の負担となるため空冷システムの採用が望ましく、半導体には発熱の少ないGaN(窒化ガリウム)やSiC(炭化ケイ素)の使用が必要です。もちろん、周辺の回路に使用される電子部品にも、高温から低温までの広い使用温度範囲と耐振動性が求められます。

一方、オートパイロットシステムは多くのセンサとコンピュータ、アクチュエータによって実現するエレクトロニクス技術の塊です。このため、エレクトロニクス技術の向上はオートパイロットシステムの機能と安全性の向上に直結します。たとえば、動翼を電気信号で作動させるフライバイワイヤシステムでは、FCCが電気信号をACCに伝えます。この信号に電気ノイズが侵入するとアクチュエータが誤作動する原因になるため、電気ノイズの影響を受けない光ファイバーケーブルを用いる対策が必要です。また、離着陸も含めたフルオートパイロット飛行(自律飛行)の実現に対しては、高精度な姿勢指示器や姿勢方位基準装置(AHRS:Attitude Heading Reference System)の搭載は不可欠であり、これらの装置には高い信頼性と高性能を両立したMEMSセンサ*6が必要です。

このように、電動飛行機は飛行に関する多くの要素を電気信号や電気動力が担っているため、電動エンジンの方式に関わらず、実用化にはエレクトロニクス技術の向上が欠かせません。

*6 MEMS技術の基礎知識

まとめ

電動航空機の特長は、従来のジェットエンジンを搭載した飛行機に比べ温室効果ガスの排出量が圧倒的に少なく、優れたオートパイロットによる安全運航に適した飛行システムを搭載した飛行機であるということです。

今後、各国の航空産業が電動飛行機の分野で世界に進出していくには、機体の空力特性*7の改善や動力機の効率向上はもちろん、機体素材・バイオテクノロジーなど幅広い分野との交流による技術や知見の獲得なども必要となるでしょう。その道のりは決して容易ではなく、現在見かける電動飛行機の想像図からは、実現はまだ遠い未来であると思われがちです。しかし、これまでに述べてきたとおり、すでに実用化に向けた研究や実験は始まっています。

特にエレクトロニクスの分野においては、パワーエレクトロニクスや高出力モーター、高エネルギー密度電池など他の分野で実現済みである技術が数多くあり、さらに性能を高めることで電動飛行機への転用は可能です。以上から、環境に優しい電動飛行機が、厳しい安全要件をクリアし技術的にも商業的にも実現する日は、そう遠くない未来であることは間違いありません。

*7 空力特性:飛行機の場合、機体の空気抵抗や機体を押し上げる力と空気抵抗の比(揚抗比)などが挙げられる。これらを改善することで、エンジンへの負荷が減少し、燃料消費量が低減できる。

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