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物流パレット流出問題を解決するIoT技術

物流に欠かせないパレットの“行方不明”が多発

人々の暮らしを支える物流システム。身近なところで言うと、コロナ禍によってEC(電子商取引)利用が定着し、宅配便を利用するシーンが増えたと思います。実際、宅配便取扱個数は増加傾向にあり、2019年時点で40億個超、直近5年間で約20%(約7億個)増で推移しています(国土交通省「最近の物流政策について(2021年1月22日)」)。そうした宅配便から大型貨物、さらには道路運送から鉄道・航空運送、水運・海運まで、あらゆる経済活動、社会生活において物流(ロジスティクス)は欠かせないものです。

そうした中で、近年、物流業界が抱える課題のひとつに「物流パレット流出問題」があります。物流パレットとは、商品を載せて運送を行うための物流機器(荷役台)のこと。フォークリフトなどを用いた仕分け作業に使用され、物流業務の効率化や作業者の負担軽減に不可欠な機器として広く活用されています。現在、日本国内で使用されているパレットの総流通数は年間数億台と推計され、一般社団法人日本パレット協会の統計によると、日本国内での2019年のパレット生産台数は前年比5.2%増の7,134万3,582台となっています。

その一方で、パレットが使用された後、利用会社が空パレットを回収できなくなる「流出」状態が発生するケースが多発し、年間10%程度のパレットが失われているといわれています。利用会社はパレット流出による金銭的な損害を受けながらも、どのような理由で流出が起きているのかを明確に把握できていないのが現状です。

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物流資材管理用トラッキングシステムが課題解決のカギに

パレット流出を解決するIoT技術の活用①LPWA

パレット流出問題を解決するために、近年、IoTの活用が進んでいます。具体的には、LPWA(Low Power Wide Area)などの近距離無線通信技術と、位置情報検知センサを組み合わせた「物流資材管理用トラッキングデバイス」をパレットに装着。個々のパレットの位置情報や移動履歴など、稼働状況のデータを収集する仕組みです。

このシステムを活用することで、想定外の場所に移動していた自社保有の流出パレットを割り出すことが可能になります。そして、流出パレットの利用履歴や移動履歴のデータを収集・分析することで、パレットの流出原因を突き止め、課題解決につなげることが志向されています。

IoTを活用したパレット流出防止の取り組みは、すでに欧州大手の物流サービス企業で実用化されています。同社では、通信技術にLPWAの一種であるIoTネットワークを導入し、位置情報の測定にはWi-Fiアクセスポイントを位置ビーコンとして利用するとともに、1日単位などの少ない頻度で位置情報を計測するシステムを導入しています。通信費用が安く、超低消費電力のIoTネットワークには、管理コストの抑制や長期の無充電連続稼働といったメリットがあります。パレットの位置情報検出では高精度GPSレベルの検出は不要なため、IoTの活用に適している分野だと言えます。

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RFIDタグで無線通信を行う技術の活用も進んでいる

パレット流出を解決するIoT技術の活用②RFID

近年、交通系カード決済や電子マネーなどの分野で活用されている情報読み取り技術、RFIDを物流トラッキングに活用する「RFID搭載型物流パレット」にも期待が集まっています。パレットが国境を越えて移動した場合でも、それぞれの港湾などに設置されたRFIDリーダー搭載ゲートを通過するだけで、パレットの位置情報を確認できます。パレット情報の収集はゲート型リーダーが自動で行うため、運送現場の作業者などには余分な負担がかかりません。

かつて、経済産業省と国土交通省が連携して実施したRFID搭載型パレット実証実験では、タイからラオスを経て、ベトナムまでパレットを運搬する試みを行った結果、パレットの位置や数量、いつどこを通過したのかという正確な情報を捉えることができました。現在では、電池を使用しないパッシブ型RFIDと比較して、電池を使用することで通信範囲を最大300mにまで広げたアクティブ型RFIDを搭載した物流パレットなどが製品化され、日本の大手製造業などでの活用が始まっています。

パレット流出の解決は業務効率化や環境負荷低減にも有効

パレット流出問題の解決は、金銭的な被害を留める以外にも効果を発揮します。例えば、物流業務には繁忙期と閑散期が存在し、繁忙期には物量が大きく増加します。そうした需要のピーク時にパレットが不足すると、納期遅れや失注につながるリスクがあります。自社のパレットが日本中、あるいは世界中のどの場所にあるのかをリアルタイムで把握することができれば、繁忙期に備えてしっかりと準備を行い、効率よくパレットを活用することができるようになり、業務効率化や収益性改善が期待されています。

同時に、輸送業務の安定化や効率化は運送エネルギーの削減、化石燃料の消費削減にもつながります。IoTを活用した新たな物流ソリューションは、我々の暮らしをより便利で快適にするとともに、地球環境保全にも貢献しているのです。

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