コモンモードチョークコイルによる自動車向け機器の高周波帯ノイズ対策
車載電源ラインのノイズ対策の現状
車載市場においてはADAS、自動運転、V2X、テレマティクスといったアプリケーションの拡充が進んでいます。これらのアプリケーションにおいては膨大な情報を扱うため、これを処理するために内部で扱う信号処理速度は高速化しています。一方、部品員数が増加し、実装密度が上がるため、部品の小型化が求められています。
また、高速の情報通信が可能な無線通信の適用が拡大され、より高周波のノイズに対応することが求められています。
電源ラインから放射するノイズを低減するにはコモンモードチョークコイルが有効です。従来の車載機器の電源ラインにおいては、主なノイズ対策のターゲットはAMやFM帯域の周波数で、低周波のノイズに対応するために大型の部品が使われてきました。一方、車載機器の高度化により、AMやFM帯よりも高周波でのノイズ対策が求められています。

村田製作所はこのトレンドに対応した、小型でより高周波のノイズ対策に適した電源ライン用コモンモードチョークコイルDLW32PH122XK2を商品化しました。本記事では、DLW32PH122XK2のノイズ対策効果を紹介します。
コモンモードチョークコイルによる放射ノイズ対策効果
以下のような測定系において、EUTから電源ケーブルをアンテナとして放射するノイズを測定し、コモンモードチョークコイルによってどの程度ノイズが低減できるか確認しました。
【測定系】
・車載の国際ノイズ規格CISPR25をベースとしています。

今回測定したEUTでは200MHz-800MHzでノイズが発生していましたが、DLW32PH122KX2を挿入することにより、この範囲のノイズが大幅に低減されました。

コモンモードチョークコイルによるBCI試験のノイズ対策効果
BCI試験は外部から侵入するノイズに対する耐性を確認する試験です。
外部からノイズが侵入すると、EUTが誤動作する可能性があります。ノイズ耐性が低い場合はより小さいノイズでも誤動作が起きてしまいます。DLW32PH122XK2を挿入することでどの程度改善できるかを調べました。
【測定系】
・車載の国際ノイズ規格ISO11452-4で規定されているBCI試験 置換法に準拠して測定を行いました。

今回測定したEUTでは360~400MHzのノイズを注入するとDC/DCコンバータのスイッチングが停止し、出力電圧が0Vになる誤動作が発生しました。DLW32PH122KX2を挿入することにより、この範囲のノイズが大幅に低減され、誤動作に対するノイズ許容度が向上しました。

まとめ
- 車載機器のノイズ対策において、従来はAM/FM帯の対策で十分でしたが、近年の車載機器の高度化により数百MHzのノイズを除去する必要が生じてきました。
- コモンモードチョークコイルDLW32PH112XK2は、従来の電源ライン用コモンモードチョークコイルより高周波帯の性能に優れ、数百MHzのノイズの対策が可能です。

品番 | サイズ |
定格電圧 |
インピーダンス |
インピーダンス |
定格電流 |
---|---|---|---|---|---|
3.2×2.5×2.5mm |
60Vdc |
900Ω typ. |
1200Ω±20% |
1200mA |
参考:ノイズ経路を考慮した基板設計
コモンモードチョークコイルは電源ラインを経由するノイズを効果的に除去できますが、この性能を発揮するためには基盤の設計が重要です。
基板内層にGND面や電源面があると、表のパターンとの間に寄生容量が発生します。GND/電源面が均一な平面となっているとパターンを通るノイズが寄生容量を経由してGND/電源面を通り、コモンモードチョークコイルを通過したあと再び寄生容量を経由してパターンに戻り、結果的にコモンモードチョークコイルをバイパスしてしまいます。この現象により、コモンモードチョークコイルの効果が低下します。


このような問題を解決するためには、下図のように部品直下のGND/電源面を削除して、GND/電極面のバイパス経路を遮断することが効果的です。
