ロボットのエミッション対策手法のメイン画像

ロボットのエミッション対策手法-2(2/4)

これまで、市販の多軸関節ロボットを用いた放射ノイズ対策事例を紹介してきましたが、その他にもいろいろノイズが問題となる事例が想定されます。
ここでは、想定されるロボットのノイズ問題を3つの事例でご紹介します。

ノイズ規格(エミッション)
伝導ノイズ

3. 模擬ロボットのエミッション対策(伝導ノイズ)

3-1.(事例)市販DCーDCコンバータ評価基板の伝導ノイズ評価

CISPR11で規制される伝導ノイズは、AC電源線に漏れ出すコモンモード電圧で測定されます。
ここで、AC電源線に伝導するノイズは、DCーDCコンバータのスイッチングに起因することが多いようです。
DC-DCコンバータの評価基板を使用して、ノイズ評価を行いました。

測定環境
測定環境のイメージ画像
DCーDCコンバータ仕様のイメージ画像

以下が測定された伝導ノイズです。スイッチング周波数500kHzの逓倍となる周波数でノイズスペクトラムが観測されました。CISPR11 class A group1(工業環境)のノイズ許容値を上回るノイズがあります。この結果は特別なものではなく、DCーDCコンバータのスイッチングに起因したノイズ(スイッチングノイズ)を対策していない機器は、たいていの場合、AC電線線にスイッチングノイズが伝導してしまい問題となるケースが多くあります。
これより、ロボットに公的なノイズ規格が適用になった場合、ロボットにはAC電源線に伝導するノイズを対策する必要が生じてきます。

ノイズ対策前の伝導ノイズ
ノイズ対策前の伝導ノイズのグラフ
  • スイッチング周波数500kHzの逓倍となる周波数でノイズスペクトラムが発生。
  • ノイズ源:DCーDCコンバータ(スイッチングノイズ)
  • 経路:入力DC電源ライン(DCプラス、マイナス)にノイズが伝導

3-2. 伝導ノイズのモード分離(ディファレンシャル/コモンモードに分離)

伝導ノイズを対策する必要性(ノイズ仕様に適合させるには対策が必要)があることを確認したため、ノイズの傾向を確認するために伝導ノイズのモード分離を行いました。ここでいうモード分離とは、ディファレンシャルモード電圧とコンモード電圧に分離することです。このモード分離は、デルタ型LISN(デルタ型の擬似電源回路網)を用いて行います。

※CISPRのノイズ仕様を見てみると、V型LISNの使用が定められており、デルタ型LISNでの評価結果ではノイズ仕様の適合性を判断することはできません。ロボットのノイズ仕様は策定中ですが、おそらくV型LISNが使用されると思われます。ここでは、ノイズの傾向を知るために、規格で用いられるV型ではなくデルタ型のLISNを使用しています。

モード分離を行った結果、全周波数帯において、ディファレンシャルモードノイズが大きいことが分かります。このため、ディファレンシャルモードを抑制できるフィルタにて対策する必要があります。

※本事例の場合、ディファレンシャルモードのノイズが支配的であるため、コモンモードチョークコイルのような、コンモードのみを抑制できるフィルタを使用しても、伝導ノイズは抑制できません。

ディファレンシャルモードとコモンモードのグラフ
  • 全周波数帯において、ディファレンシャルモード電圧の影響を受けている。
  • ディファレンシャルモードのノイズ対策が必要だと分かる。

本事例の電源回路の伝導ノイズは、全周波数帯において、ディファレンシャルモードが支配的でした。このディファレンシャルモード電圧を抑制できるフィルタ構成として、ブロックタイプエミフィル BNX029-01を使用します。

(BNXシリーズの選定理由)
150kHz~30MHzの周波数帯において、ディファレンシャルモード電圧を抑制するフィルタ構成として、LCのπ型フィルタが代表的です。このLCπ型フィルタを構成する場合、たとえば、電解コンデンサ470uFとインダクタ1mHで構成することが考えられます。一方でロボットなどの電源では、省スペース、部品点数削減、高信頼性の観点から、電解コンデンサなどの部品は好まれません。そこで、上記要求事項を満たせるフィルタとして、ブロックタイプエミフィル BNX029-01を選定しました。

BNXをDCラインに挿入することで、全周波数帯において、ディファレンシャルモード電圧を大幅に抑制することができました。

ノイズ対策フィルタ構成(ディファレンシャルモード対策)
ノイズ対策フィルタ構成(ディファレンシャルモード対策)のイメージ画像
ディファレンシャルモードとコモンモードのグラフ
  • 全周波数帯において、ディファレンシャルモード電圧が大幅に抑制できる。

ノイズ対策前後の伝導ノイズをノイズ規制で使用されると思われるV型LISNで測定しました。
BNXをDCラインに挿入することで、全周波数帯において、CISPR11のノイズ許容値を満足することができました。このように、伝導ノイズをモード分離し、原因となっているモードを重点的に対策することで、効果的なノイズ対策が可能です。
このような対策手法を利用することにより、対策にかかる時間を短縮できることに加え、後戻りのないフィルタ構成を選定できます。また、経験や勘といった不確かな情報ではなくデータに基づいた対策ができるため、どのような電源回路であっても、最小限の手間でノイズ対策が可能になります。

ノイズ対策前後の伝導ノイズ
ノイズ対策前後の伝導ノイズのグラフ
  • ディファレンシャルモードを抑制することで、ノイズ許容値を満足。

3-3. DC-DCコンバータのノイズ対策のまとめ

伝導ノイズ対策例
伝導ノイズ対策例のイメージ画像
挿入損失のグラフ

BNX029-01

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