DXによって目指す、建設業界の「新現場力」構築とは(後編) ――データの利活用を通して、生産性や安全性の高度化を目指す。のイメージ画像

DXによって目指す、建設業界の「新現場力」構築とは(後編) ――データの利活用を通して、生産性や安全性の高度化を目指す。

これまで非常に困難だと考えられてきた、建設現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)。その課題に取り組んでいるのが、土木や建設業界のさまざまな情報を管理する日本建設情報総合センター(JACIC)です。同センターでは、クラウドを使い、各種情報を一元的に利用できるプラットフォームの構築を実行中です。一方、建設現場は製造業の工場と異なり現場条件が複雑で、デジタル化しにくい領域とも言えます。その環境でDXはどうあるべきなのか。前編に引き続き、JACICの尾澤卓思氏に伺いました。

DXに求められる「デジタルツイン」。リアルとデジタルの行き来とは

――コロナ禍において、各業界のDXが急加速しています。土木、建設業界はDXの対応が他業界と比べて難しいと思われるのですが、現状はいかがでしょうか。

建設業界はi-Constructionを推進しており、徐々にDXが進んでいます。ただし、コロナ禍の影響も大きく、この状況も長期化していく中で、早急にDXを進める必要があります。ですので、DXを従来の仕事の取り組み方の代替措置として行うだけではなく、仕事のやり方を根本的に変え、DXに合った仕事の取り組み方を取り入れていかなければなりません。

コロナ禍から得た大きな気づきとして、DXはBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)対応を含んでいます。仕事の生産性向上とBCPは別で語られることが一般的でしたが、DXは両方とも実現します。クラウドの即時性、同時性を活かし、リスクの低い環境での業務遂行を可能にします。またICTによる仮想空間を活用した仕事の進め方は、コロナのようなウィルスの流行時には有効です。ICTを取り入れることは、生産性を高めつつ、BCPも強化する。それに気づいた今こそ、DXで根本から仕事のやり方を変革するチャンスです。

――なお、前編でもお話しいただいたように、建設業界はリアルな空間での作業が中心業務となります。天候の影響や現場の制約等も受けやすいとのことですが、その領域にICTやデジタルを導入する上で大切にしていることはありますか。

ポイントになるのが「Digital Twin(デジタルツイン)」という考え方です。フィジカル空間の“実物”と、サイバー空間におけるBIM/CIM(前編参照)の3次元モデル等の “仮想実体”を「ツイン=双子」として捉え、両方を活用してオペレーションやマネジメントを行う手法です。

“仮想実体”は“実物”では見にくい部分を可視化したり、”実物“では試すことができないことができたりと、優秀な面があります。例えば、ある箇所が故障した場合にどんな作用が起きるか、構造を少し変えたらどのような変化が起きるかなど、シミュレーションを行うことができることです。

“仮想実体”において詳細にシミュレーションを行ったうえで、その結果を“実物”に持っていく、または“実物”で検証し、有効性を確認できます。ただし、“実物”と“仮想実体”は「双子」ですから、両方を同じように作り込むとともに、双方のプロセスの整合性を考える必要があります。具体的には“実物”と“仮想実体”それぞれの工程表と手順書を作成し、同時に管理していく。そして、“仮想実体”を利用して、“実物”の建設や管理の課題を解決したり、最適なマネジメントを実施したりしています。モデルとデータを利用したDX時代に適した仕事の仕方です。

フィジカル空間の実物と、サイバー空間の3次元モデルの仮想実体をツイン=双子として、相互に活用する

――“仮想実体”の利用とは、具体的にどのようなことでしょうか。

サイバーフィジカルシステムというものがあります。まずは、センサなどのIoT技術を使い、フィジカル空間でさまざまなデータや数値を「収集」します。そのデータをサイバー空間に持ち込み、クラウドやデータベースに「蓄積」。これらのデータを用い、AIによる分析や3次元モデルによるシミュレーションなどで「分析・見える化」します。この結果を再びフィジカル空間に適用し、“実物”のマネジメントやオペレーションなどに「活用」します。

その後、「活用」した結果のデータを「収集」。このサイクルを繰り返し行い、フィジカルとサイバーの空間を行き来しながら、「収集」→「蓄積」→「分析・見える化」→「活用」→「収集」という業務サイクルを回し続けて改善していくのです。

ただし、災害対応のような緊急時では、「収集」したデータをこれまで「蓄積」してきたデータと併せて「分析・見える化」し、直ちに施設のオペレーションや災害対策として「活用」する必要があります。製造業とは異なり厳しい対応が求められますが、即時性を有するクラウド技術がこれを可能にしています。

ICTの導入は、技術者を適切に「再配分」できる

――リアルとデジタルの関係を聞いたところで、人と機械のバランスについても伺いたいです。ICTを活用することで“省人化”は進みますが、その結果、技術者が不要になるということはないのでしょうか。人(技術者)とICTの付き合い方はどうあるべきでしょうか。

ICTによって技術者が不要になることはないでしょう。むしろ適切に技術者や技術者の時間を「再配分」できると考えるべきです。人手が足りない、または技術をさらに磨くべき領域はたくさんあります。ICTで省人化が進めば、本当に技術を要するところに人や時間を配分できるでしょう。技術者が本来の役割を果たせるよう、適した環境を整えることができるのです。

たとえば現場では、地質や天候など不確実性を有する要素が多く、現場力が問われます。新現場力を学び、現場に出て新たな現場経験を積み重ね、技術力を磨く機会を増やすことが必要なのです。仮にどれだけAIが発達しても、総合的な観点から最後に決断するのは人間です。

また、私たちの業界は建設プロセスの各段階において、関係各所と調整したり住民の方々に説明したりと、さまざまな関係者の方とのコミュニケーションが非常に大切になります。これは機械には置き換えられません。このような人間同士のコミュニケーションが発生するところに、もっと人や時間を充てコミュニケーションの能力を向上させたいのです。

――なるほど。現場作業の方々においてもICTの導入は進んでいるのでしょうか。これまでの話は、設計や工事全体の管理のDXだったと思いますが、現場作業者についても伺いたいと思います。

現場作業でのICT導入も進んでいます。近年では、たとえば猛暑に対する作業員の熱中症対策が求められています。熱中症対策として、ウェアラブル端末を作業員に配布し、体温や心拍数などをデータで把握するケースがあります。あわせて、外の気温や湿度を分析しながら、警戒すべき結果が出たら作業員や管理者にアラートを出すことが可能です。

さらに、GPSや加速度センサを搭載したウェアラブル端末の導入もあります。端末を作業員が装着することで、転落などの事故をいち早く察知できます。加速度センサによって異常な動きが検知できるため、アラートを発して異変に気づくことができます。

これらは危険防止の観点ですが、今後は生産性向上においてもウェアラブル端末やIoTの活用が進んでいくでしょう。

 

――ウェアラブル端末やIoTの活用が進むと、どのようなことが可能になるのでしょうか。

GPSのデータから作業員の動きを分析できれば、全体の工事を効率化できます。時間軸を交えて分析することで、ある時間帯に作業員の滞留しているエリアや、人員が足りないエリアを見つけることができるでしょう。それにより工程を適切に改善できます。

重要なのは、こういったICTによる改善が一石二鳥にも三鳥にもなることです。仮にGPSで作業員の動きを分析し、作業時間を短縮できれば、作業コストも下がる可能性が高い。また、作業時間が減り余裕が生まれれば、ミスや事故の削減にもなる。作業のクオリティや安全性が必然的に高まり、結果として品質の向上につながります。

さらに今後、期待しているのは、画像技術や映像技術の導入です。建設分野では、まだ画像データを記録や確認用としての利用が多い状況です。しかし、今後は画像や映像のデータを、判別や診断等に活かせる“インテリジェンス”な情報にしていきたいと考えています。たとえば、ドローンで上空から撮影した画像データを3次元モデルにし、地形の変化量の算出や危険性の判断に活用していくというようなことが挙げられます。実際にそういった技術の開発は進められています。

――最後に、建設現場のDXについて、今後の展望をお聞かせください。

現場におけるIoTやAIなど、さまざまな技術の活用が進むと思います。そこで、一番重要なのは、ICTで得られる多種多様なデータを利活用できるように、根幹となるプラットフォームを構築することです。そのようにして、さまざまなデータやモデル、他のシステムの情報を紐付けたり、連携したりできるようにしなければ、真の意味でのDXは実現しにくいと思います。

私たちは建設現場においてそのプラットフォームの構築・普及を進めていきたいと考えています。発注・契約から成果品の利活用まで、また測量・調査から完成後の維持管理まで、さまざまな情報をシームレスに見られる。また、いろいろな工事や業務の情報が紐づいて一元管理される。この環境こそが真の「データ利活用」を生むはずです。それがDXの最重要事項ではないでしょうか。

日本建設情報総合センター理事 尾澤卓思(おざわ・たかし)氏の写真
 

尾澤卓思(おざわ・たかし)

日本建設情報総合センター理事。1984年、京都大学大学院工学研究科を卒業し、同年に建設省に入省。2002年に九州地方整備局武雄河川事務所長となる。2011年には東日本大震災復興対策本部事務局参事官、2013年に内閣府沖縄総合事務局次長、2015年に内閣府大臣官房審議官を歴任。2019年に日本建設情報総合センター審議役となる。2020年より現職。現場のDX化、現場力向上のため、さまざまな手法を提案、実施している。

村田製作所では、労働災害や夏期の酷暑化などから作業者を守るための「作業者安全モニタリング」を提供し、安全な労働環境の実現に貢献していきます。

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