拡大する脱炭素市場のカギを握るエレクトロニクス技術のメイン画像

拡大する脱炭素市場のカギを握るエレクトロニクス技術

世界各国の政府が脱炭素社会の達成を宣言

地球温暖化防止に積極的な米国バイデン政権は、同国で2035年までに発電部門の温室効果ガス(GHG)排出ゼロ、2050年までに国としてのGHG排出の実質ゼロなどを目標に掲げています。また、中国政府は2060年までに脱炭素社会の達成に努めるカーボンニュートラルを宣言。イギリスや日本をはじめとするその他の先進国も、コロナ禍による景気低迷からの回復策の一環として脱炭素分野への政策的支援を表明しています。

上記のような各国政府の動きに倣い、グローバル企業の多くがカーボンニュートラルを表明しています。その背景には、金融機関や投資家が企業のカーボンニュートラルなどの環境対策を重要視し、企業の将来性や業績向上の指針とみなしている傾向があります。これによって、サプライチェーンを含めた企業のカーボンニュートラルの動きが加速しているのです。

こうした世界的な脱炭素の流れの中、再生可能エネルギーへの注目度が急速に高まっています。たとえば、世界の太陽エネルギーの市場規模は、2020年から2025年の間に年平均成長率17%以上で拡大。2030年までに2000ギガワットを超える設備容量となり、総エネルギーの約13%を占めると予測されています(2021/07/01 GII 海外市場調査レポート)。

日本では、再生可能エネルギー発電システムの2020年度の市場は5分野(太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱発電システム)全体で1兆7986億円が見込まれています。太陽光は2014年度に導入ピークを迎え、以降は縮小が続いていますが、風力発電では洋上システムの導入が2030年度以降に本格化し、2035年度には2020年度比4倍以上に拡大すると予測。全体として、2035年度の再生可能エネルギー発電システム市場は、2020年度見込みと比べ微減の1兆7651億円と予測されています(富士経済「FIT・再生可能エネルギー発電関連システム・サービス市場/参入企業実態調査 2021」)。

拡大する脱炭素市場のカギを握るエレクトロニクス技術のイメージ画像1

脱炭素にはエレクトロニクス技術の活用が不可欠

再生可能エネルギーの世界的な市場拡大が予想される中、さらなる効率的な脱炭素化のポイントは、供給・管理が不安定な同エネルギーの欠点を補うシステム、つまり蓄電池の普及・性能向上、電力網による電力供給体制維持のための仕組みの構築などとされ、その分野で強みを発揮すると目されているのが電子部品メーカーです。

電子部品メーカー各社はこれまで、IT・エレクトロニクス技術の高度化がもたらすイノベーションに照準を合わせた研究開発に注力してきました。一方、現在のエレクトロニクス市場は「AI(人工知能)」「ビッグデータ」「IoT」「5G」などの新しい技術潮流による変革期のただ中にあり、これに「コロナ禍でのデジタル変革」「脱炭素」へのニーズも加わることで、各種イノベーションの統合的な有効活用が求められることになります。

電子部品業界で大きな注目を集めているのがパワー半導体です。大きな電圧・電流の電力の制御や変換が可能なことから、電気自動車への活用が進んでいます。電気自動車はカーボンニュートラルを実現するための代表的な解決策であり、欧米や中国は軒並み将来的なガソリン車の販売禁止、電気自動車の普及を掲げています。現在、パワー半導体のシェア上位を占めるのはアメリカやドイツですが、日本でも技術開発が加速し、大きなポテンシャルを占める市場だと言えます。

それ以外にも、脱炭素化に向けた電子部品メーカーの主な活動テーマは「省エネ・省資源、製造プロセスにおけるCO2排出量削減」「環境配慮型製品開発」「再エネ関連機器や蓄電池システム」「高効率型の製造設備機器の導入や生産ライン見直しを通じた生産効率向上化」など多岐にわたり、それぞれのテーマでの市場拡大が期待されています。

拡大する脱炭素市場のカギを握るエレクトロニクス技術のイメージ画像2

CCUSやキャップ・アンド・トレードに注目が集まる

再生可能エネルギー以外では、無尽蔵でクリーンなエネルギーである水素への注目も高まっており、2030年度の国内の水素関連市場は2019年度比34.2倍の3963億円に成長する見通し。特に発電などに使う水素燃料が1771億円と同253倍に拡大すると予想されています(富士経済「2020年版 水素利用市場の将来展望」)。

また、排出量削減にとどまらず、排出されたCO2を回収して他の気体から分離させ、地中などに埋めたり、新たな資源として有効活用したりする「CCUS=Carbon dioxide(二酸化炭素)、Capture(回収)、Utilization(利用)、Storage(貯留)」の技術開発も進んでいます。回収されたCO2は水素などと反応させ、燃料や化学原料、コンクリートなどに利用されます。各国でエレクトロニクス技術を応用した対策が進むCCUSは、環境対策はもちろん、新たなポテンシャルを秘めたビジネス領域としても注目を集めています。

さらに、本格的な脱炭素社会が実現するまでの間は、CO2を中心とするGHGの排出量取引の仕組み=キャップ・アンド・トレードも有効活用されそうです。その名の通り、企業ごとにGHGの排出枠の限度(キャップ)を設け、余った排出量や不足した排出量を企業間で取引(トレード)し、社会全体で脱炭素社会を後押しする仕組みです。

日本政府は2021年、企業がGHGの排出量を取引する新たな市場を創設すると発表。脱炭素の取り組みに積極的な企業500社程度の参加を見込んでいます。これはGHG排出量取引に関して先行するEUなどを日本独自の規制によってけん制し、日本企業が過度に不利益を被ることを避けるねらいがあります。

世界規模で多様な脱炭素市場が拡大する中、それぞれの市場でエレクトロニクス技術などの優位性をどのように発揮していくか。今後、各国の舵取りが注目されます。

関連製品

関連記事