LFアンテナ(アンテナコイル)
村田製作所(以下、ムラタ)は2026年10月13日、国内最大規模のデジタルイノベーションの総合展「CEATEC 2026」(千葉市・幕張メッセ)に出展しました。2026年のCEATEC開催テーマは「Transformation 企業が、産業が、そして社会が変わる」です。ムラタブースでも、これからの社会や暮らしを変える可能性を持つ、さまざまなアイテムを取り上げています。本記事で紹介するのは初お披露目となる3アイテムです。「Physical AIむけハンドトラッキング」「生体の微量成分をキャッチするウェアラブルデバイス」「ニューロモルフィックセンシングシステム」について、どのような技術で、どのような未来につながろうとしているのかを紹介します。
グローブを装着した人が指を動かすと、その動きに合わせて画面上の3Dモデルやロボットハンドが動く――。ムラタブースで紹介するのはMelt Interface Technologies株式会社(東京・千代田区)*1が開発するハンドトラッキンググローブ「ContactGlove3 シリーズ」です。なお、この度「CEATEC AWARD 2026」優秀賞を受賞しました。詳細については、ニュースリリースをご覧ください。
*1 ムラタは、AI時代における新たな入力インターフェースの創出にむけ、Melt Interface Technologies株式会社と事業提携契約を締結しています。詳細はこちらから。
このグローブには、ムラタ独自の小型・高感度な3軸LFアンテナが採用されています。装着者の細かな手指の動きを三次元データとして取得し、画面上の3Dモデルやロボットハンドへリアルタイムに反映できます。
手の動きを捉える方法としては、カメラやIMU*2を使う方式があります。カメラ方式は、物を握ったときなどに指が隠れると動きを捉えにくくなる場合があります。一方、IMU方式は遮蔽の影響を受けにくいものの、時間の経過とともに位置誤差が蓄積しやすいという特性があります。これらの課題に対応するため、このグローブでは「電磁場(EMF)」を利用したトラッキング技術を採用しています。
*2 IMU…Inertial Measurement Unitの略。3軸の加速度センサと3軸のジャイロセンサを中心に構成される、物体の加速度や角速度を計測し、姿勢や運動を推定するセンサユニット。
基準となる送信アンテナがつくる電磁場を、グローブの指先に組み込まれたムラタの小型・高感度な3軸LFアンテナが捉え、その情報から装着者の手の甲や指先が三次元空間のどこにあるのかを推定します。さらに、取得した位置・姿勢情報などをもとに、手全体の動きを推定して、3Dモデルなどで再現できます。
カメラの視界に依存しにくく、時間経過による推定誤差も抑えやすいため、物を握ったり指同士が重なったりする場面でも、手指の動きを長時間安定して捉えられます。
活用用途は、VR(仮想現実)やモーションキャプチャに留まりません。AIがデジタル空間の中だけでなく、ロボットなどを通じて現実世界で動く「Physical(フィジカル)AI」。その発展には、人が実際にどのように手を動かしているのかを、細かな指の動きまで正確なデータとして取得することが重要になります。人が持つ繊細な動きをデータに変換するハンドトラッキンググローブは、こうしたPhysical(フィジカル)AIの基盤を支える技術のひとつとして期待されています。
牛肉の脂肪に小さなパッチを取り付けると、脂肪が分解され、その過程で生まれた成分が電気信号に変換される――。
会場では、そんな一風変わった実演を通じて、ムラタが研究を進める「生体の微量物質をキャッチし、電気信号に変換する技術」を紹介しています。
実は牛肉の脂肪が酵素によって分解されることで生じる「グリセロール」をデバイスがキャッチし、その反応から得られる電気信号によってLEDが点灯しています。目では見ることができない化学的な変化を、「光」として可視化した実演です。
この技術のポイントは、これまで捉えにくかった微量な生体物質をキャッチし、その変化を電気信号として取り出せる可能性にあります。
血糖値センサなど、生体内の物質を捉える従来方式のひとつでは、酵素から電極へ電子を運ぶ「メディエーター」と呼ばれる物質を介します。メディエーターは電子の受け渡しを助ける一方、目的以外の反応も拾いやすく、濃度の低い物質から得られる信号を捉えにくいという課題がありました。
そこでムラタは京都大学との共同研究により、メディエーターを使わず、酵素から電極へ直接電子を渡す「DET(Direct Electron Transfer)型酵素」を開発しました。余分な反応によるノイズを抑えることで、これまで捉えにくかった微量な生体物質からも、電気信号を取り出せる可能性が広がります。
グリセロールのほか、ケトン体などのさまざまな微量物質をキャッチするだけではなく、アルコールなどの物質も微量な濃度段階からキャッチし、電気信号に変換する技術としての展開を目指しています。将来、これまで簡単には捉えられなかった微量成分の変化を把握できれば、一人ひとりの状態に応じた健康管理や、行動を見直すためのデータとして活用できる可能性があります。
※なお、本技術は研究段階であり、現時点で疾病の診断、治療、予防を目的とする医療機器ではありません。
ヒトは、温度や接触など、皮膚を通じて感じ取る周囲の状態や変化を、瞬時に効率よく認識しています。一方で、皮膚から得られる膨大な情報を、すべて細かな数値として認識しているわけではありません。
ムラタと九州大学が共同研究を進める「ニューロモルフィックセンシングシステム」は、こうした生物の感覚・情報処理の仕組みに着想を得た、新しいセンシング技術です。
ロボットの電子皮膚や設備モニタリングなど、広い面を高密度にセンシングする用途では、多数のセンサから得られる膨大なデータを読み出し、変換・処理する必要があります。従来のセンシングシステムでは、センシングする面積やセンサ数が増えるほど、配線が長く複雑になり、ノイズの影響を受けやすくなります。また、多数のセンサから得た情報をデジタルデータに変換するため、処理にかかる時間と消費電力が増大することが課題となっていました。
そこで本システムでは、センサが捉えた情報をすべて高精度な数値として取得するのではなく、センシングとデジタル変換をセンサ側で一体化し、「必要な変化や状態」だけをデジタル情報として直接読み出すというアプローチを採用しています。これにより、従来必要だった複雑な信号処理回路を簡素化し、大面積・高密度なセンシングにおいても、低遅延かつ省電力なセンシングを実現しました。
今回の展示では、その一例として温度センサシートを用いたデモンストレーションを紹介します。試作したセンサシートでは、あらかじめ設定した温度を境に、各センサからの信号を「0」または「1」のデジタル情報として出力します。温度を細かな数値として読み取るのではなく、必要な温度情報だけを選択して捉えることで、読み出しや信号変換にともなう処理を大幅に削減します。
実証実験では先行研究との比較で約2500倍の高速化を実現しました。また、1024個のセンサで毎秒1000回センシングした場合でも、平均消費電力はわずか12µWに抑えられます。これは、センサ読み出しに必要なエネルギーだけで換算すると、単3電池1本で約30年分に相当します。さらに、ノイズに強く、センサ数が増えても高速・低消費電力な読み出しが可能な、高い拡張性も特長です。
本技術の考え方は、温度センシングに限定されるものではありません。今後は、圧力・光・化学量など、さまざまな対象を検知するセンサへの展開を検討し、ロボットの電子皮膚をはじめ、製造設備や社会インフラの状態監視など、広い面から必要な情報を素早く効率的に捉えるセンシングシステムへの適用を目指します。
このほか、温度・湿度・ひずみに関する情報を取得し、ボルトの緩みやコンクリートの状態などを検知する、バッテリーレスかつ無線技術が特長のRFIDセンサタグに加え、残響の少ない超音波発生デバイス「サーモホン」を活用し、AMR(自律走行搬送ロボット)が周囲の人や壁、他のAGV(無人搬送車)などを近距離で検知するシステムも展示しています。
ここまで紹介した技術が、将来の暮らしをどう変えていくのか。ムラタのブースコンセプト「ムラタのみらいシアター」。技術の先にある未来を来場者とともに想像するための場です。
劇場を思わせるブースの中心となるのが、「まだ名前のない未来会議」。今日の自分と、モニターに映し出された未来の自分が対話しながら、技術の進化によって生まれるかもしれない未来の暮らしをひも解いていきます。
新しい技術の使い道は、最初から決まっているとは限りません。ムラタはCEATECで、開発中の技術やオープンイノベーションの取り組みも紹介し、来場者やパートナーとの対話を通じて、新たな可能性を探ります。
技術と新しいアイデアが出会うことで、まだ形のない未来に少しずつ輪郭が生まれていく。「まだ名前のない未来」に名前がつき、その幕が上がる――。ムラタブースは、そんな未来を来場者とともに考える場を目指しています。
※CEATEC 2026は、千葉市の幕張メッセで10月16日まで開催します。ムラタのブースは7H340で、来場には公式サイトを通じた事前登録が必要です。CEATEC 2026に関するムラタの展示会サイトはこちらです。