インダクタとコンデンサにおける高周波特性の基礎知識- インピーダンスと共振(1)のメインイメージ

インダクタとコンデンサにおける高周波特性の基礎知識- インピーダンスと共振(1)

現代の生活やビジネス、社会の営みと仕組みは、スマートフォンやパソコンといった精密電子機器の活用の上に築かれていると言っても過言ではありません。このような電子機器の進化は、実は高度なアナログ回路技術、言い換えれば高い周波数を用いた交流回路技術-高周波技術が大きな役割を果たしており、高周波で動作する精密電子機器の開発には、高周波技術が不可欠になります。

しかし、高周波技術の習得には、基礎的な電気回路の知識とともに高周波特有の知識や約束事に慣れる必要があり、ハードルがあることは否めません。これを越えるには、さまざまな側面から解説されたテキスト類に目を通すことが一つのアプローチと思われますが、それらの中に電気回路の基本素子であるインダクタとコンデンサに関する高周波特性の説明はあまり見受けられません。そこで本シリーズでは、この側面に焦点をあて、高周波技術の理解を促せるような解説を目指していきます。高周波技術を大まかに知りたい、理解したいと考えている方々にお役に立てればと思います。

本シリーズの内容

・電気初学者が最初に接する直流回路におけるオームの法則を起点に、交流回路におけるインダクタとコンデンサの理想と実際の電気的特性-インピーダンスの違いを解説します[インピーダンスと共振]

・この違いはとくに高周波領域にみられることから、高周波領域を含むインピーダンスを高周波測定では定番になっているSパラメータから導出します[Sパラメータとインピーダンス]

・実際の素子を理想の素子で構成した当社コンポーネントの等価回路モデルについて解説します[インダクタとコンデンサの等価回路モデル]

1. 理想素子を接続した直流回路と交流回路の電気的動作

身近な電気・電子機器の中身は、電気を使って動作する回路-電気回路(*1)で構成されており、その電気回路の全般的な基礎解説については多くの優れたテキストが存在します。ここでは高周波を視点とし、回路の基本素子である抵抗/インダクタ/コンデンサの高周波特性に関連する内容に絞って解説していきます。

はじめに、電気回路における以下の基本要素の全体関係を把握するため、これらを整理してみましょう(表1)。

  • 直流回路/交流回路:電源が直流/交流である回路
  • 抵抗/インダクタ/コンデンサ:回路に接続する基本の受動素子
  • 電圧/電流/電力:電気の基礎量
  • オームの法則:電気現象の重要関係式
表1 受動素子を接続した直流回路と交流回路におけるオームの法則と消費電力(*2)
受動素子を接続した直流回路と交流回路におけるオームの法則と消費電力の表

表1の個々の内容については1.1項以降で解説し、ここでは先に要点を示します。

  • 抵抗は、直流・交流に関係なく電流の流れを妨げる性質があります。
  • インダクタは、直流に対しては短絡となり、低い周波数の交流電流は通しやすいが、周波数が高くなると通しにくくなる性質があります。
  • コンデンサは、直流に対しては開放(絶縁)となり、高い周波数の交流電流は通しやすいが、周波数が低くなると通しにくくなる性質があります。
  • 電力が消費される(発熱する)素子は抵抗だけで、インダクタとコンデンサでは消費されません。

とくに交流回路に注目すると、抵抗・インダクタ・コンデンサの受動素子は、三者三様の機能・働きがあるといえます。これら受動素子と能動素子を組み合わせることで、電気・電子機器に必要なさまざまな回路特性が生み出されます。

*1 本シリーズにおける電気に関する基本用語のイメージです。
- 電気機器と電子機器の内部の回路をそれぞれ電気回路と電子回路とし、電子回路は電気回路の一部であると考えます。
- 回路に接続された素子を回路素子と呼び、スイッチング・増幅の機能をもつトランジスタやICを能動素子、抵抗/インダクタ/コンデンサを受動素子(またはコンポーネント)と呼びます。
- 電子回路は、能動素子が搭載され、例えば数十ボルトの低電圧で動作する回路と考えます。
- 受動素子(またはコンポーネント)のみ接続された回路を電気回路と呼びます。

*2 表1における抵抗/インダクタ/コンデンサは、理想的な回路素子-理想素子であることを前提にしています。理想的の意味は、大まかにいうと以下になります。
・抵抗は抵抗成分、インダクタはインダクタ成分、コンデンサは静電容量成分のみの特性をもっている
・各素子において流れている電流、印加されている電圧、使用温度などの条件が変化しても、各素子のもつ特性の変動や劣化がない
・各素子を使用するにあたっての条件・限度といった定格は考慮しない

1.1 直流電源に接続した抵抗・インダクタ・コンデンサの電圧と電流

本項では、表1の直流回路の項目、すなわち直流回路における理想的な回路素子としての抵抗、インダクタ、コンデンサの動作について簡単に解説します。

1.1.1 直流回路における理想的な抵抗の特性

電気の初学者がはじめて学習する、直流電源に理想的な抵抗を接続した直流回路の動作についてです。

直流電源の電圧Vdcの値をV0(V)、回路に流れる電流Idcの値をI0(A)、抵抗成分のみの理想的な抵抗の抵抗値をR(Ω)とすると、以下の関係(オームの法則)があります(図1-1)。

V0=I0・R

直流電源が、時間に関係なく常に一定の電圧V0を供給する理想的な電源とすると、電流I0も常に一定の値になります(図1-2)。また

I0=V0/R

であるので、抵抗Rの値を大きくすると電流I0の値は小さくなり、逆に小さくすると大きくなります。

電力をPdc(W)すると、

Pdc=V0・I0

と電圧と電流の積で得られます。またオームの法則を適用すると

Pdc=𝑉02/R

Pdc=I02R

という関係も導けます。

この回路の電力は抵抗で消費(熱に変換)されます。抵抗に印加する電圧あるいは流れる電流を、例えば3倍に増やすと、熱となる電力は2乗で増えるため、3×3の9倍に増えることになります。

[付記]

携帯電話などに搭載されている高周波回路では、高周波特有の現象により、電圧と電流を正確に測定することが困難です。そのためこのような高周波回路では、安定して正確な測定がのぞめる電力で測定するのが一般的になっています。この点については、別途解説するSパラメータの項で触れていきます。

理想的な抵抗を接続した直流回路の説明図
図1-1 理想的な抵抗を接続した直流回路
左の直流回路における時間軸でみた電圧と電流の説明図
図1-2 左の直流回路における時間軸でみた電圧と電流

1.1.2 直流回路における理想的なインダクタ/コンデンサの特性

インダクタを直流電源に、同様にコンデンサを直流電源に接続すると何が起きるのでしょうか(図1-3)。
まず理想的なインダクタを接続した直流回路を考えます。
直流回路の中でのインダクタは、単なる導線になります。しかもインダクタンス以外の成分を有していないため、抵抗値がゼロです。このため、回路は短絡状態(ショート)となり、電圧を一定に保とうとする電源の場合では、回路に流れる電流(IL)は無限に大きくなってしまいます。(実際に、何の配慮もなく、この回路を組むことは危険といえます。)

次に、理想的なコンデンサを接続した直流回路を考えます。
直流回路の中でのコンデンサは、内部の電極間に絶縁体である誘電体が挟まっているため、配線が寸断された絶縁状態になります。回路は開放状態(オープン)となり、常に電流を一定に保とうとする電源の場合では、流れる電流(IC)はゼロなため、印加電圧が無限に大きくなってしまいます。
(上と同様、何の配慮もなく、この回路を組むことは危険といえます。)

理想的なインダクタ/コンデンサを接続した直流回路の動作の説明図
図1-3 理想的なインダクタ/コンデンサを接続した直流回路の動作

コラム- 高周波とは

本ページの冒頭文で「高周波」を多用していますので、ここで触れておきたいと思います。
「高周波」とは、文字どおり高い周波数という意味ですが、漠然としています。実際、どのくらいの周波数から「高周波」と呼ばれるのか明確な定義はありません。ただ、一般的には以下のように考えられているようです。

(1)単純に、高い周波数のことを示している場合があります。例えば、携帯電話の電波の周波数であるサブGHz(1GHz未満の周波数)や、ミリ波レーダー(60GHz)などを高周波と呼ぶことがよくあります。

(2)用途分野によっては、上記(1)より低い周波数でも、相対的な意味で「高周波」という言葉が使われる場合があります。例えば、電力関係の分野では、商用周波数50Hz/60Hzを低周波、数kHzから数十MHzを高周波と呼ばれています。

一方、高周波を意味する用語としてRF(Radio Frequency)もよく使われています。このRFについても明確な定義はありません。RFが使われている例として、無線工学系では上記の携帯電話、美容・医学分野では電気メス(300kHz - 5MHz)、工業向けではRFスパッタ成膜装置(13.56MHz) があり、上記(1)と(2)の合わせたような広い周波数範囲にわたり使われています(当社のコンポーネント・モジュールである、RFID/RFインダクタ/ミリ波RFモジュール/RFスイッチもRFの使用例になります)。
冒頭文は(1)を意識していますが、本シリーズでの「高周波」は、RFと同様に周波数範囲を広くとらえた内容になります。

<次回> 交流回路における抵抗、インダクタ、コンデンサの各電気的特性について略説します。

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