USB 3.2 RFI System-Level Testに対応するノイズ対策ソリューション

外部I/Oコネクタのトレンド

外部I/Oコネクタのトレンドのイメージ画像

ノートPCに代表される電子機器に用いられる外部インターフェースは、USBやHDMI、Displayport等様々な規格が存在しています。また、各インターフェース向けのコネクタもそれぞれ独自の規格となっており、様々な形状のコネクタやケーブルが乱立している状況です。この場合、一つの電子機器に対し用途別に沢山のケーブルが接続されてしまい、非常に煩わしく消費者にとって使い勝手が悪いという課題があります。

そこで近年、乱立するコネクタ規格をType-Cコネクタ1種に統一し、Type-Cケーブル1本で様々なインターフェースに対応させる動きが進んでいます。既にノートPCでは、ケーブル1本で充電・映像伝送・データ転送が実現可能であり、これを皮切りにその他電子機器にも普及が進むと予想されます。
欧州委員会による充電規格のType-C統一義務化法令も後押しし、2024年ごろにはType-Cコネクタがディファクトスタンダードになると予想されます。

USB Type-Cに関する新たなノイズ規格

Type-Cの普及に伴い、USB通信に関する新たなノイズ規格がUSB-IFにより策定されました。
USB3.2 RFI System-Level Test(RFI Test)です。
これはUSB3.2通信時のノイズが、マウスやヘッドセットなど周囲のワイヤレス機器に干渉し、誤動作させる問題を考慮した規格です。この干渉問題は近年顕在化しており、各電子機器メーカーは独自の指標で品質向上に注力しています。これまでの通信品質ケアはあくまで各メーカーの判断によるものでしたが、USB由来のノイズについては一定の水準を設ける必要がある、ということが今回の規格策定の目的になります。

対象機器はノートPCやタブレット、スマートフォン、ドッキングステーション等で、Type-Cコネクタを有し5Gbps以上をサポートするものが対象となります。これにより、Type-CにUSBのロゴ認証を得て機器を出荷するには、必ず本規格水準を満足する必要があります。

※なお、Type-Aなど従来のコネクタ規格使用時にも干渉問題は発生しますが、この規格においては対象となりません。

  • 新ノイズ規格:USB 3.2 RFI System-Level Test(RFI Test)
  • 規格団体:USB-IF
  • 対象機器:ノートPC、タブレット、スマートフォン、ドッキングステーション等  
    (Type-Cコネクタ搭載&5Gbps以上をサポート)

【目的】
無線通信品質水準の標準化、市場へのインパクト

USB Type-Cに関する新たなノイズ規格のイメージ画像

RFI Testの概要

RFI Testは、RFI System-Level Test Fixture(以降Fixture)を用いて評価を行います。
本FixtureはUSB-IFにより定められた公式の治具であり、Type-CコネクタをSMAに変換します。評価系は下図右上のように、EUTのType-CレセプタクルにFixtureを挿入し、同軸ケーブルを介してスペクトラムアナライザに接続します。なお、Fixture及びEUTは電波暗箱内に設置されます。
この時、EUTからテスト信号を伝送し、スペクトラムアナライザで観測されるノイズがリミット値を満たすかどうかを判断します。

これまでノイズ規制が定められていない領域である点、また下図右下に示すように非常に小さいリミット値であるため、各電子機器メーカーの従来設計では規格を満足できず、新たなノイズ問題が発生することが考えられます。そこで、当社は本規格の測定設備を導入し、RFI Testの測定原理とノイズ問題の解明に取り組みました。

RFI Testの概要のイメージ画像

RFI Testの測定原理

RFI Testの測定原理を示します。下図は、RFI Testの測定系のイメージを示しています。
オレンジに示す部分はEUTのGNDであり、これはFixtureのType-Cコネクタ及び芯線に導通しています。
青色に示す部分は測定における基準GNDであり、電波暗箱や同軸ケーブルの外皮シールド、Fixtureの外部筐体が同電位になります。
また、Fixture内部の緑に示す部分は内部基板であり、EUTからTx1±上に出力されたテスト信号を基板上に実装された50Ω抵抗で終端する役割を担います。
なお、テスト信号(CP0)は5Gbpsのランダム高速信号であり、これはUSB3.2 Gen1相当の信号になります。

従って、RFI Testは、Tx1±上においてUSB3.2 Gen1信号を伝送時、EUTのType-CコネクタGNDに伝導するノイズを観測するものということが分かります。

RFI Testの測定原理のイメージ画像

川越光科技有限公司_Advantage of RFI System Level Test Solution

ノイズ発生メカニズム

RFI Testにおけるノイズ発生メカニズムを以下に説明します。ノイズ発生の要因は2つあげられます。

一つは不等長配線やICが持つ信号間Skewによって発生するコモンモード信号、もう一つは基板GNDとコネクタGND間のインピーダンス不整合によるモード変換です。

またノイズ対策としては、CMCC(コモンモードチョークコイル)の搭載、及びType-CのGND強化が有効で、この対策により、Type-CコネクタのGNDへ伝導するノイズを抑制することが可能です。

ノイズ発生メカニズムのイメージ画像

【ノイズ発生要因①】
基板GNDとコネクタGND間のインピーダンス不整合によるモード変換
⇒(対策)GND強化により、インピーダンスを整合

【ノイズ発生要因②】
不等長配線やICが持つ信号間Skewによって発生するコモンモード信号
⇒(対策)信号配線上にCMCCを搭載することで、コモンモード信号を減衰

ノイズメカニズム調査

Type-Cコネクタ付き評価基板を用いて、実機評価に近い環境でのノイズメカニズムの検証を行いました。下図がその評価系になります。信号源に任意信号発生器(AWG)を用いて、5Gbps信号を入力しています。

またAWGからの信号は、同軸-Type-C変換治具を介して評価基板に入力されます。この時、AWG上でTx±ライン間に60psのSkewを生じさせ、コモンモード信号を発生させています。
本条件下において評価基板のType-CコネクタGNDへ伝導するノイズを観測しました。
続けて、Type-CコネクタのGND強化、及びTx±ライン上へのコモンモードチョークコイル(CMCC)搭載等のノイズ対策を施した際の結果も確認しました。

評価基板を用いたコネクタGNDへの伝導ノイズ評価
評価基板を用いたコネクタGNDへの伝導ノイズ評価

以下に評価結果を示します。
青のスペクトラムはSkew 60psを印加した初期ノイズ評価結果です。赤のスペクトラムはType-CコネクタのGNDを強化した評価結果、緑のスペクトラムは加えてCMCCをTx±ライン上に搭載した評価結果です。
図に示すように、実機評価に近い条件において、コネクタGNDへの伝導ノイズを観測しました。一方、ノイズ対策を行うことで、Type-CコネクタのGNDに伝導するノイズが低減することを確認しました。

評価結果
評価結果

RFI Testでの確認

評価基板を用いた調査により、ノイズメカニズムと対策手法が明確になりました。
次に実機を使ったRFI Testに適用して、本対策手法が有効か確認しました。
評価系を図に示します。今回は、USB-IFの規格に準拠した評価系を構築し、EUTをノートPCとした時のRFI Testを行いました。ノートPCは2機種選定し、それぞれIntel(Alder Lake)モデルとAMD(Ryzen 5 5500U)モデルを用いています。本ノートPCの選定基準は、Type-Cコネクタを搭載しUSB3.2 Gen1をサポートしていること、RFI Testに必要なテスト信号を出力するのに必要なツール(XHSETT)に対応していることです。

RFI Testでの確認のイメージ画像

RFI Test結果(モデルA)

Intel CPUのノートPC(モデルA)を用いたRFI Test結果を示します。対策前の初期ノイズは、ノイズリミット値を超過することを確認しました。それに対し、GND強化及びCMCCのノイズ対策を施すことで、ノイズリミット値に対して3dB以上のマージンを得る対策効果が得られました。なお、使用したCMCCは、ノイズ周波数帯域に対して抑制効果の大きいNFG0QHB242HS2を使用しています。

RFI Test結果(モデルA)のイメージ画像

RFI Test結果(モデルB)

次に、AMD CPUのノートPC(モデルB)を用いたRFI Test結果を示します。対策前の初期ノイズは、Intel CPUモデル同様ノイズリミット値を超過することを確認しました。GND強化及びCMCCのノイズ対策を施すことで、こちらもノイズリミット値に対して3dB以上のマージンを得る対策効果が得られました。

基板設計の異なる2機種のノートPCにおいて、同様の改善効果が得られました。従って、RFI Testで観測されるノイズに対しては、Type-CコネクタのGND強化とCMCCの搭載が有効であることが実機評価により明確化できました。

RFI Test結果(モデルB)のイメージ画像

RFI Testをクリアするためのノイズ対策ソリューション

RFI Testをクリアするためのノイズ対策ソリューションを以下にまとめます。

【ノイズ対策①】
Type-CコネクタのGND強化により、基板GNDとコネクタGND間のインピーダンス不整合を低減する。
⇒コネクタへの伝導ノイズは、インピーダンスの不整合によるモード変換がノイズ要因の一つ。

【ノイズ対策②】
Tx±ライン上にCMCCを搭載し、Tx±ライン上を流れるコモンモード信号を抑制する。
⇒ICが持つ信号Skewや不等長配線によって発生するコモンモード信号が、コネクタへ伝導するノイズ要因。

RFI Testをクリアするためのノイズ対策ソリューションのイメージ画像

GND強化とCMCCにより、RFI Testにおけるノイズを低減することができます。

まとめ

  • RFI Testの測定では、USB3.2 Gen1(5Gbps)伝送時、Type-Cコネクタの GNDへ流れる伝導ノイズを観測しています。
  • GND強化とCMCCにより、GNDへ流れる伝導ノイズを低減できます。
  • 本対策により、今回用意した機器ではRFI Testのリミット値以下にノイズが低減することができました。

RFI Testをクリアするために推奨するCMCC

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