インダクタガイド

自動運転に不可欠となる無線通信・高周波インダクタ

1.クルマが大きく変わりつつある

皆さんもご存知のように、クルマは自動運転に向けて大きく変わろうとしています。
1980年代に「ナイトライダー」(Knight Rider)という海外ドラマが日本でも放映されていましたが、そこに登場する「夢のクルマ」が2020年(以降)に現実になろうとしています。(若い方にはピンとこないかも知れませんが。。。)

現在は「夢のクルマ」を実現するために技術的な段階を追って各クルマメーカーをはじめとする関連メーカー(Tier1・・・)が技術力を高め競いながら、自動ブレーキ、レーンキープ、自動駐車など先進の安全機能を実車に組み込み実用化されている状況です。また、技術面だけでなく自動運転に対する法的課題(1)、社会的受容性(2)、国際協調(3)の面でも多くの課題があり多くの関連機関で取り組みが進められています。

これからの自動運転は夢の実現だけでなく、交通死亡事故を無くすことが全世界共通の大きな目標になっています。(4)

(1) 走行中の監視義務(現状の交通法規では運転者が常に運転できる状況であることを義務付けている 手離し運転は違反)や事故責任(システム起因の事故原因を被害者側が立証するのは極めて難しい)をクルマ(システム)が負うのか等、明確にすべき課題が多い。
   
(2) 自動運転車の存在が認知され普及が阻害されないこと。自動運転車は法令順守のため車間を保ち法定速度を守る(遅いと感じる)ことの理解、安全優先で徐行や一旦停止などが多くなることも搭乗者や周囲の人は認識する必要がある。また自動運転車にいたずらで故意にちょっかいを出されては困る。
   
(3) 輸出入車もその国のシステムで運用できること、技術の国際標準化等。
   
(4) その他、渋滞の解消による環境対策、高齢者の移動手段と事故防止等。特に高速道路や主要幹線道だけでなく生活道路を含めたドアtoドアの自動運転技術「ラストワンマイル」の解決が重要。

2.完全自動運転までの道のり

完全自動運転の実現に向けては「自動運転レベル」という指標を定義して進められています。昨年までは国や標準化機関によって定義が異なっていましたが、2016年末に米国SAE(Society of Automotive Engineers ,Inc.)が定めた定義(レベル0~5の6段階)に統一する動きになっています。

表1 自動運転レベルの定義(案)※

<※出典>内閣官房IT総合戦略室:平成28年12月7日 
自動運転レベルの定義を巡る動きと今後の対応(案)」資料3を加工して作成

表1-1 自動運転レベルの定義概要(案)

レベル 概   要 安全運転に係る
監視、対応主体
運転者が全てあるいは一部の運転タスクを実施
SAE レベル0
運転自動化なし
運転者が全ての運転タスクを実施 運転者
SAE レベル1
運転支援

システムが前後・左右のいずれかの車両制御に係る

運転タスクのサブタスクを実施

運転者
SAE レベル2
部分運転自動化

システムが前後・左右の両方の車両制御に係る

運転タスクのサブタスクを実施

運転者
自動運転システムが全ての運転タスクを実施
SAE レベル3
条件付運転自動化
・システムが全ての運転タスクを実施(領域 限定的)
・システムの介入要求等に対して、予備対応時利用者は
   適切に応答することを期待

システム

(フォールバック中は運転者)

SAE レベル4
高度運転自動化
・システムが全ての運転タスクを実施(領域 限定的)
・予備対応時において、利用者が応答することは
   期待されない
システム
SAE レベル5
完全運転自動化
・システムが全ての運転タスクを実施
  (領域 限定的ではない)
・予備対応時において、利用者が応答することは
   期待されない
システム

※領域は地理的に限らず環境、交通状況、速度、時間的な条件なども含む。

表1-2
市場化・サービス実現期待時期(案) (官民ITS構想・ロードマップ2016の技術例との対比) 

レベル 実現が見込まれる技術(例) 市場化期待時期
SAE レベル2

自動レーン変更
「準自動パイロット」
無人自動運転移動サービス(遠隔型・地域限定)

2017年
2020年まで
2020年まで
SAE レベル3 「自動パイロット」 2020年目途
SAE レベル4・5

無人自動運転移動サービス(専用空間・限定地域)
完全自動運転システム

2020年まで
2025年目途

「準自動パイロット」
(高速道路での自動走行モード機能 ドライバー責任
  走行状況によりシステムからの通知機能あり) 

「自動パイロット」
(高速道路等一定条件下での自動走行モード システム責任
  システムからの要請に応じドライバーが対応)

ここで示す「レベル1」「レベル2」が現状(2017年2月現在)市場で販売されているクルマのレベルです。

「レベル1」「レベル2」では、クルマに備えられたカメラ、ミリ波レーダー、レーザーレーダー等の単独あるいは複数のセンサーで捉えた周囲の状況や動きを、コンピュータで予め設定された基準で危険かどうかを判定し、自動でブレーキをかける等、一つあるいは複数の動作をさせる仕組みです。

これはクルマに組み込まれたシステムのみで動作(認知・判断・操作)を完結することから「自律型システム」と言われ、ADAS(5)と呼ばれています。

これらのレベルではあくまでも運転者に監視、操作の義務があり、システムは必要な状況になった場合に運転者を支援するというものです。

図1 自動運転車、システムのイメージ図※

<※出典>特許庁:平成26年2月 平成25年度特許出願技術動向調査報告書(概要)
図 1-1 調査対象範囲(イメージ図及び技術俯瞰図)〈自動運転自動車イメージ図〉」 を加工して作成

「レベル3」以上はシステムが運転の主体となるため難易度が大きく異なると言われています。ADASも人工知能AIを使った画像認識精度を向上させ(ディープラーニング)、あらゆる状況の変化にも的確、安全に作動させることや、自動運転からドライバーにハンドオーバー(操作を受け渡すこと)する際の安全確保(6)が求められます。

また、ADASだけでは防ぎきれない危険予測、予防安全を取り入れることも検討されています。例を挙げると、ADASで危険を検知して自動ブレーキが作動したとします。それで衝突が回避できたとしても、後続車に追突されては元も子もありません。

別の例では、カメラやレーダーの死角になる場所からクルマや人が飛び出してくる状況にも安全に対応する必要があります。

それらに対応するには、

  • クルマ同士を通信でつないで情報を共有し安全な間隔を維持すること
  • 信号機など路側機に取り付けたセンサーで、交差点に接近するクルマや人の動きの情報を、カメラやレーダーの検知圏外(死角も含む)にいるクルマに知らせること

など情報の共有、先読みで危険を予測、回避できるような仕組みが必要です。

この仕組みはITS(Intelligent transport [transportation] system)の「協調型システム」、通称ではV2X(V2V、V2Iなど)(7)と言われ、決められた通信方式で運用する検討が進められています。

日本ではARIB STD-T109(760MHz帯)、欧米ではIEEE802.11.P(5.9GHz帯)で交通システム固有の通信方式が定められています。ADASは各クルマメーカーが技術力で競争を繰り広げているのに対し、V2Xは公共の交通インフラとしての役割として開発が進められています。 

さらに、モバイル通信LTEや5Gを利用したTELEMATICSサービス(8)も考えられています。

カーナビゲーションに代わって地図の高精度化や3D化した立体地図(9)を作成しクラウドに常時接続することでタイムリーなマップ更新(ダイナミックマップと呼ばれます)(10)を行い、自動運転を正確、安全に走らせることが検討されています。

他にも様々なデータ情報提供サービスが考えられ始めています。 最近ではConnected CARと言われることが多くなってきましたが、前出の高度なADASと共に統合された自動運転の完成形が「レベル5」完全自動運転のイメージになります。 

上述のように「レベル3」から「レベル5」にかけては無線通信の役割が大変重要になってきます。完全自動運転技術が確立し、広く普及する時代になれば、今の信号機に代わって通信システムでクルマの流れがコントロールされ、事故や渋滞のない交通社会が実現することが想像できます。

(5) ADAS(Advanced Driver Assistance System:先進運転支援システム)
現在市販されているクルマはADASとは言わず、「○○パイロット」や「セーフティ***」「###センシング」など、メーカー固有のネーミングをされています。
   
(6) システムが対応できない難しい状況で、いきなり運転を渡されて人が対応できるのかという問題。
システムの警告から人が反応するには最短4秒必要、という実験結果があるそうですが、警告しても人が対応しない場合は自動停止する機能が盛込まれると言われています。
   
(7) V2V(Vehicle to Vehicle 車車間通信) V2I(Vehicle to Infrastructure 路車間通信)など総称してV2X:Vehicle to X(everything)  将来的には搭載の義務化が実施されるとも言われはじめました。
   
(8) 現在でもテレマティクスサービスは実施されていますが、自動運転には大容量、低遅延の伝送システム 5Gが向いていると言われています。クルマのIoTにもつながりそうです。
   
(9) 自動運転にはセンチメートル単位の詳細な地図データと、立体交差も認識できる3D地図が必要です。生活道路まで含めた高精度地図を作る場合はセンサーを搭載したクルマから道路情報を吸い上げて、クラウドから他のクルマにも共有する方法などが考えられています。合わせて自車の位置精度も重要で、日本では準天頂衛星「みちびき」を使った方法など様々な検討が行なわれています。
   
(10) 道路状況は事故災害や工事などで日々(刻々と)変わることがあるため、常に最新情報に更新するという考え方です。
図2 自動走行システムの発展シナリオ※

<※出典>総務省:平成28年6月3日 電波政策2020懇談会(第3回)
資料3-1:サービスワーキンググループ取りまとめ 概要
Connected Carや自動走行システムの実現に向けた発展シナリオ」掲載画像を加工して作成

3.クルマ向けの高周波インダクタ

前述のように自動運転の実現には無線通信技術がクルマの安全に大きく関わってきます。

少し大袈裟に言えば交通社会全体の安全性の一端を通信技術が担うと言ってもいいかもしれません。その安全性要求に応えるために株式会社 村田製作所では部品個々の信頼性対応を見直し、クルマ向けにはAEC-Q200規格に対応することを基本に、インフォテインメント機器向けから更に高信頼性が求められるパワートレイン/セーフティ機器向けの対応を積極的に進めています。

特に高周波インダクタは、今までは(これからもですが)スマートフォン向けで大きく成長してきた電子部品で、クルマ向けとしてはカーナビ、カーオーディオ等のインフォテインメント機器向けのテレビ、ラジオ受信用など限定的に使われているだけでした。今後は自動運転時代を予測しながらセーフティ機能(図3の青枠の機器)にも使える高信頼性高周波インダクタのラインアップ拡充に力を入れていきます。

LQPシリーズ、LQGシリーズ、LQWシリーズ(図4)と現在スマートフォン、民生機器で広く使われているシリーズを順次高信頼性に対応し、民生機器から車載セーフティ機器への設計展開の場合でも大きな設計変更をせずに適用できる高信頼性高周波インダクタの商品化に取組んでおります。

図3 クルマ用の高周波インダクタはこんなところに!

村田製作所の高周波インダクタ
詳しくはこちら

自動車用ラインアップは只今進化中です!
高周波インダクタに関連する技術コラムもご参考に。

巻線タイプRF(高周波)インダクタLQWシリーズのラインアップ

インダクタの基礎 【第2回】 高周波インダクタとは?

インダクタの基礎 【第4回】 インダクタの構造

インダクタの基礎 【第5回】 インダクタの実装技術

Wire-Wound ( LQW Series )

Film ( LQP Series )

Multilayer ( LQG Series )

※今回ご紹介した情報は自動運転のほんの一部をできるだけ分かりやすくお話ししたつもりです。ただ自動運転に関する技術はまさに開発競争の最中で情報も日進月歩で変わっていますので、この執筆からリリースまでの期間で変わっていることもあるかもしれません。その点は何卒ご理解下さい。

株式会社 村田製作所
EMI事業部 商品技術部 商品技術2課
小寺 貞男

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