サプライチェーンマネジメント後編イメージ

サプライチェーンは管理ツールを超え、企業戦略の要になる。 ――先端技術が実現する次世代SCMで「戦略物流思考」を磨くには?(後編)

前編では、サプライチェーンを「企業戦略」と密接に結びつけて考えることの重要性と、それによって企業がどのように競争力を高められるかについて語った、戦略物流専門家の角井亮一氏。後編では、実際にSCMで大きな成果を生んでいる事例、その「強いSCM」を支えている技術、特にロジスティクス分野における将来的な展望について聞きました。

RFID活用によって蓄積されたデータが、新たな価値を生み出す。

ーーSCMを企業戦略の中核に位置付け、高い成果を挙げている例には、どういったビジネスがありますか。

物流面での取り組みではアパレルメーカーに注目しています。例えば、世界96カ国に2,000店以上の店舗を展開する、ヨーロッパ発のファストファッションブランドでは、出荷指示から48時間以内に、世界中の店舗に商品を納められる仕組みが整っています。

このメーカーは需要予測から材料調達、製造、販売、物流、品質管理までを、経営戦略に則って、ほぼ自社でやり切っており、まさにサプライチェーン、ロジスティクスの力を最大限に活用して、競争力を高めている企業だと感じます。

ーー競争力強化に寄与するサプライチェーンを作っていくにあたって、鍵となるテクノロジーに何が挙げられるでしょうか。

サプライチェーンにおける一部の側面では、RFIDのような技術が現場での効率や生産性を大きく変えたと思います。実際に、先ほど挙げたアパレルメーカーでは、積極的にRFID技術へ投資しています。一部の商品に対して工場での製造段階でRFIDタグを埋め込み、その後の流通や販売経路における商品管理にフル活用しているのです。

 

例えば、RFIDによる情報の一括読み取りによって、店舗での棚卸しにかかる時間が2日から1時間にまで短縮された例もあると言います。また、マーケティングの側面では店舗のフィッティングルームにタグの読み取り装置を装着し、訪れた顧客が「何を試着して、何を買って、何を買わなかったか」をログデータとして記録しています。蓄積されたデータを、その後の商品開発に生かすといった取り組みを目指しているそうです。

ーーSCMの観点から、RFIDが特に高い効果を発揮できる業種、あるいは用途などあるのでしょうか。

サプライチェーンが高度に垂直統合され、製造・販売・物流といったプロセスを、ほぼ自社で一括して管理できるような企業では、特にメリットが大きいだろうと思います。

例えば、特定の工場や物流拠点の内部といった、自社が全体を管理できる範囲であれば、効率や生産性の向上に大きく寄与する技術ではないでしょうか。サプライチェーンの中で「今、何がどこにあるのか」を、現在よりもさらに細かい粒度で知ることができれば、そこから生み出せる価値もビジネスで増していくはずです。

業種では、レンタル業やリース業のような「モノ」がサプライチェーンの中を繰り返し循環するようなところでは、すでにRFIDを活用した業務の効率化に成功しているところが増えてきていますね。

これからは、商品力そのものが「物流」の力で上がることもあり得る時代に。

ーー技術の進歩に合わせて、サプライチェーンやロジスティクスが進化していくうえで、今後重要だと考えておられるテーマはありますか。

個人的には、社会全体のデジタル化が進んでいく中で、業界の垣根を越えたデータやインフラの「オープン化」が、サプライチェーンやロジスティクスの進化のカギになると思っています。

現状、物流企業が持っている配送中の荷物に関する情報は、その企業の中で閉じてしまっています。物流システムの中にある、そうしたクローズドな情報を一部オープンにすることで、他のさまざまなサービスやデータとの連携が考えられます。

一例として、現状は宅配の荷物は、基本的に受け取る人が住んでいる「家」に対して届けられるわけですが、情報がオープンになることで、もしかすると外出中でも「個人」を配送先にできるサービスも実現するでしょう。電子商取引と物流、そのほかの多様なネットサービスが垣根を超えて組み合わされると、市場はまだまだ変わる可能性があると思います。

情報をオープンにする側にとっても、データ自体に課金する新たなビジネスモデルの構築や、利便性の向上によって顧客をより多く自社のサービスに誘導できるといったメリットは考えられるのではないでしょうか。

 

これはデータに限った話ではありません。例えば、現在は宅配事業者によって利用できるサービスが分けられてしまっている「宅配便受取ロッカー」のような物理的なインフラもオープンにして、どこでも、どの業者の荷物でも受け取れるようになれば、きっと利用者の利便性は格段に上がりますし、そこから新たなビジネスの芽も生まれると考えています。ただし、こうしたオープン化については、新たな設備投資も必要ですし、ロジスティクス業界として足並みを揃えるのが、なかなか難しいという課題はあります。

ーーこれから登場する新たな技術や市場の変化も見据えながら、企業が視野に入れていくべき「次世代のSCM」の姿はどのようなものだと考えますか。

やはり、まずは「サプライチェーン」や「ロジスティクス」を「経営戦略」と捉えるマインドセットを企業として持っていただきたいと思います。

これまで、特に日本の企業においては「どんなモノを作るか」「どう売るか」については真剣に考えていたとしても、「モノをどう動かすか」について、あまり考えてこなかったのではないかと感じます。しかし、ネット販売の大手企業が実証したように、「生活者が欲しいときに、それがすぐに手元に届く」という状況は、大きな付加価値になります。商品力そのものが、物流の力で上がることもあり得るのです。

数年前、店舗販売とネット販売の両方を手がける大手アパレルメーカーで、自社の物流倉庫が混乱してオペレーション効率が劇的に悪化し、想定外の損害を出したケースがありました。同社は決算発表で「物流についてはパートナーに業務を丸投げしていて、現場で何が起こっているのか把握できていなかった」と原因を分析していました。その後、この企業では物流に関わる経営管理チームを立ち上げるなど、「戦略物流思考」による新たなSCMへの取り組みを進めています。

SCMを経営戦略と捉えれば、多くの企業で組織体制やビジネスフローに変化が生まれるはずです。「製造」「販売」に対して「物流」を加えて、戦略的にSCM全体を構築し、強化していく。こうした取り組みを進めることで、さらに競争力を高められる企業は多くあるはずだと思います。

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