インダクタ (コイル)

インダクタガイド
スマートフォンをはじめとする携帯無線端末のPower Amplifier (PA) において、不要輻射 (帯域外&スプリアス発射) を抑制するために、PAの電源品位 (PI: Power Integrity) の改善が求められるケースがあります。無線通信における不要輻射は、国際規格 (ITU) をはじめ、3GPP (無線通信規格団体) 、各キャリアにおいても許容値が設けられ厳重に規制されています。
そこで、PAの電源ラインのノイズ対策によるRF信号品位の改善が必要と考えられます。
本記事では、RF信号品位改善 (帯域外の不要輻射改善) を目的とした、チップフェライトビーズやチップインダクタを利用した携帯端末のPAの電源ラインのノイズ対策方法を紹介しています。
有線接続評価でRF信号品位を改善するための対策
有線接続でのRF信号品位評価項目には、ACLR*1 (隣接チャネル漏洩電力比) とSEM*2 (スペクトル・エミッション・マスク) があります。これらは、RF信号近傍のスプリアス (不要輻射) を評価する試験です。
本記事では、PAの電源供給にDC/DCコンバータを使用した場合における、RF信号品位の改善方法について紹介しています。
*1 隣接チャネル漏えい電力比(ACLR):隣のチャネルに信号が漏れ出る度合い。
*2 スペクトル・エミッション・マスク(SEM):帯域外に漏れ出るスプリアスの許容値。
(※正確な定義は専門書を参照ください。)
PAの電源ラインを伝導するノイズがPAの電源を揺らすため、このノイズがPA出力に現れてRF信号に影響します。
電源ラインを伝導するノイズ (F1) が、PAの2次歪特性によってキャリアの両サイド (F2-F1やF2+F1) にスプリアスとして現れます。
RF信号品位に影響を与える電源ノイズの周波数を特定して対策することができます。
例えば、RF信号品位評価で一般的なACLRの評価周波数帯域幅は、キャリア周波数 (F2) を中心としてW-CDMAは25MHz、LTEでは50MHzです。
片側だけを考えると、キャリア周波数 (F2) より、W-CDMAで12.5MHz、LTEでは25MHzの幅を評価することになります。
したがって、ACLRでは、W-CDMAは12.5MHz、LTEでは25MHz以下の周波数のノイズ (F1) が、RF信号品位に影響を与えることになります。低周波帯のノイズはDC-DCコンバータのスイッチングノイズ (一般的なPA用のDC/DCコンバータのスイッチング周波数は、2~10MHz) が主な原因となります。
したがって、PAの電源ラインの対策では、DC/DCコンバータのスイッチングノイズのレベルを抑制しなければなりません。
DC/DCコンバータのスイッチングノイズのレベルを抑制するためには、下記に示す対策が有効です。
DC/DCコンバータの出力LC (パワーインダクタと出力コンデンサ) の直後に、チップインダクタLQW15CNシリーズまたはチップフェライトビーズBLM15PX121SN1を挿入します。
前述の対策結果を、評価基板で確認しました。
フィルタを入れたことにより、この部品のロスがDC/DCコンバータの電力変換効率に悪影響を与えないか調査しました。
LQW15CNシリーズやBLM15PX121SN1は、超低直流抵抗であるので、電力変換効率に与える影響は、問題のないレベルです。
以下に、実機の対策事例を示します。
スマートフォンにおいて、DC/DCコンバータの出力LC (パワーインダクタと出力コンデンサ) の直後にLQW15CN18NJ00を挿入することで、RF信号近傍周波数帯のスプリアスが改善することを確認しました。
携帯無線端末のPAの電源ラインにおいて、有線接続評価でRF信号品位を改善するための対策手法について検討しました。
結論: 有線接続評価でRF信号品位を改善するための対策方法
DC/DCコンバータの出力LC (パワーインダクタと出力コンデンサ) の直後にLQW15CNシリーズやBLM15PX121SN1を挿入することで、DC/DCコンバータの低周波ノイズ (スイッチングノイズ) が抑制でき、その結果、RF信号品位が改善されます。
担当:株式会社村田製作所 EMI事業部商品開発部
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