ノイズ対策部品/EMI除去フィルタ/ESD保護デバイス

製品技術紹介
電波新聞第2部「ハイテクノロジー」2016年10月6日号に掲載された内容を再構成したものです。
掲載誌:電波新聞第2部「ハイテクノロジー」2016年10月6日号
自動車の電装化が加速するなか、安全性を確保するためノイズ対策の重要性がますます高まっている。また、環境規制にともなう低燃費化、運転支援システムなどの進展により、車両1台あたりのElectronic Control Unit(以下ECU) の数は増加し車載ネットワークは高速化が求められている。これらのECUに接続される車載LANのケーブルは妨害電波を発しやすく、また外来ノイズの影響を受けやすいことからノイズ対策が必須となっている。
このような環境に対応するため、ムラタではノイズ抑制効果に優れた高信頼性のコモンモードチョークコイル (以下CMCC) の商品開発に取り組んでいる。CMCCは、モードによる伝搬特性の差を利用しコモンモードノイズのみを抑制する商品である。
ムラタはこれまで民生用CMCCで培った磁性材料技術・磁気回路設計技術に加え、独自の巻線技術を活かして車載用CMCCを展開している。
普通乗用車に加え、ロングトラックやバスへの搭載を考慮せねばならない車載Ethernetでは、伝送ケーブル長を15m程度まで想定する必要がある。また、車載カメラからの非圧縮画像伝送を意識した伝送速度の向上、伝送エラーによる再伝送頻度を極小化することによるレスポンス速度の向上などが求められ、規格化されている。
既に普及しているCMCCではリターンロス(Sdd11)、挿入損失(Sdd21)は規格限度値を満足するものの、バランス(Sds21)では満足せず伝送品位が悪化する可能性がある。
普及している民生Ethernet用CMCCでは、車載Ethernet伝送規格をクリアしない。
(点線:規格限度値、実線:民生用CMCC-DLW21SN491XQ)
Ethernetに限らず、狭い空間に多数のECUや情報機器が詰め込まれる自動車内では、一般機器向け規格(CISPR22)よりはるかに厳しい自動車用ノイズ規格(CISPR25)が適用される。
特に放送波(AM、FM、TV)や通信機器(GPS、4G-LTE等)への電磁波影響が意識されている。
※測定条件が異なるため単純比較はできないが、限度値そのものが厳しい上、測定距離も車載(CISPR25)は1mと民生(CISPR22)の3mより短く厳しくなっている。
この自動車用ノイズ規格を意識して、車載Ethernet用CMCC規格は、ノイズ除去特性(Scc21)の限度値を定めており、既に普及している民生Ethernet用CMCCでは満足できない。
伝送特性、ノイズ除去特性の両面から、より高性能な専用のCMCCを使用してEMC問題を解決する必要がある。
普及している民生Ethernet用CMCCでは、車載Ethernetノイズ除去特性規格をクリアしない。
(点線:規格限度値、実線:民生用CMCC-DLW21SN491XQ)
DLW43MHシリーズは、車載Ethernet規格で最も普及する可能性があるBroadR-Reach®に対応したCMCCである。ムラタ独自のフェライト材料技術による高挿入損失特性と高度な巻線技術による微小なモード変換特性を実現した。
これにより車載Ethernet規格を満足する高いノイズ抑制効果と高イミュニティ性能を発揮できるようになった。
DLW43MHを使用した具体的な回路例を示す。LCフィルタと共に使用される場合もある。
BroadR-Reach®は、故障診断システム (OBD: On-Board Diagnostics) 、車載カメラシステム、インフォテインメント機器から、それらを繋ぐゲートウェイ、更にはパワートレイン、セーフティ機器への展開により、自動運転に欠かせないネットワーク規格へと成長する可能性を秘めている。ムラタでは、小型化、高温対応化、高速伝送対応化、高信頼性化など、さまざまなノイズ対策ニーズに対応する車載Ethernet用CMCCの商品開発を進めると共に、その他の磁性体部品のラインアップ充実にも努めていく予定である。