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『なぜサーミスタが選ばれるのか?』

電波新聞第2部「ハイテクノロジー」2016年7月21日号に掲載された内容を再構築したものです。

掲載誌:電波新聞第2部「ハイテクノロジー」2016年7月21日号

高まる電子機器内部の発熱リスク

電子機器の小型化・高機能化にともない、機器内部の発熱は大きな問題となっている。高機能を実現するために必要なエネルギーがどんどん大きくなるにもかかわらず、そのエネルギーによって発生した熱を小さな機器内部から外部へ排出する排熱手段が限られるからである。

たとえば、排熱のためのファンや開口部を持たないスマートフォンやタブレットのような機器において、内部で発生した熱を外部に排出するには、その筐体の表面を介して外部に熱を伝えるしかない。排熱量を増やす方法は、筐体の単位表面積あたりの排熱量を上げるか、熱の通り道である筐体の表面積を広げるかのどちらかになる。しかし、人が携帯することを前提とした機器である以上、筺体の表面温度が高くなり過ぎてはいけないし、サイズを大きくするにも当然限界がある。

機器内部の発熱に関してもうひとつの大きな問題は、内部の発熱源がたくさんあるということである。高機能を実現するプロセッサはもちろん、高速に大量の情報を送信するトランシーバ、高精細なカメラモジュール、バックライトやフラッシュ&トーチとしてのLEDなどなど。また、これらへ電力を供給する電源部も、大電流による発熱が大きくなってきている。

機器内部にはさまざまな発熱源があり、さらに相互にあおり熱を受ける関係にある。ひとつの発熱源に対して何らかの対策を施すだけでは、複数の機能を同時に使用するような状態には対処できない。

温度を測って「だましだまし」使う!?

では、どうしているのか?

電子機器内部の複数の箇所の温度をモニタリングし、状況に応じて発熱源となっている部品のパフォーマンスを制御しているのである。

たとえば、プロセッサへの負荷が大きいアプリを実行した場合、温度が低い初期段階ではフルパワーでプロセッサを動作させるが、プロセッサの温度が上昇してくれば、そのパフォーマンスを落として閾値温度を越えないように制御する。このとき、プロセッサに給電する電源部の発熱が大きく、そのあおり熱を受けているような状態であれば、プロセッサの温度が急激に上昇してしまうかもしれない。プロセッサまわりや電源ICまわりの温度も考慮し、それぞれのパフォーマンスをさらに細かく制御する必要がある。

制御をしているにもかかわらず、さらに発熱が続くような事態になれば、警告を表示したり、シャットダウンシーケンスに移行したりという最終的な過熱保護を行うことになる。

個々の発熱源、ICやモジュールの内部温度だけでなく、相互のあおり熱の授受や、機器が置かれている周囲環境の温度変化も考慮する必要がある。発熱源のまわりの温度をモニタリングしていないと、上述のような温度管理はできない。

なぜサーミスタが選ばれるのか?

そこで選ばれているのが面実装タイプのチップNTCサーミスタである。【図1】

【図1】 チップNTCサーミスタのサイズと主な用途

EIA準拠の規格化されたサイズであり、同じ規格のチップ抵抗器やコンデンサのように容易に実装できる。サーミスタへの配線が可能な場所であれば、面実装用のランドを用意するだけでサーミスタを実装することができる。測りたい場所にセンサを配置し温度を検知する、温度センサとしての配置の自由度が極めて高い。

さらに、チップNTCサーミスタのようなチップ部品では、特性の異なる多くの品種を多量に生産するためのさまざまな量産技術・工法・管理手法が確立している。生産数量が増えれば、それに対応した量産設備・工法を用いることができ、必ずそのコストは下がる。小型化についても、チップ部品メーカ各社で飽くなき追求が進められている。サーミスタにおいても、0603サイズ(0.6×0.3mm)は既に一般的なサイズになってきている。

他の温度センサと比べて、現時点で、コストメリットがあったり小型であったりするだけでなく、将来に渡って、さらなるコストダウンや小型化が期待できる。

それだけではないサーミスタの魅力

図2は、サーミスタを用いた温度検知回路の例である。サーミスタと抵抗器を直列につなぎ、定電圧を印加する。このときの分圧電位とサーミスタの温度との関係を図3に示す。

【図2】 サーミスタを用いた温度検知回路<例>
【図3】 電圧(Vout) 温度特性と その誤差レベル

広い温度範囲で、非常に大きな電圧変化が得られる。この電圧変化を温度情報として扱うのである。具体的には、直接マイコンのADポートに接続しAD変換すれば、そのAD値をマイコンのロジックで温度情報として扱うことができる。たとえば、ある温度で警告を出す場合、その温度に相当するAD値が検出されたときに警告を発するようにプログラムすれば良い。

注目すべきは、この大きな電圧変化である。図2の回路図で、ADコンバータ(以下ADC)の前段にアンプがないことにお気づきだろうか?温度センサに限らず、一般に、電子機器で用いられるセンサからの信号は非常に微弱であり、何らかの信号増幅回路が必要になる。サーミスタは、数少ないアンプを必要としないセンサなのである。

ここで、ADCの分解能について考えてみる。図2のように、サーミスタに印加されている電圧と、マイコン内のADCへ供給されている電圧とが同じで、ADCの入力レンジが0V~3Vであると仮定する。ADCの分解能が10ビットであれば、量子化単位(LSB:Least Significant Bit)は約3mVになる。

一方、図3と同じ温度範囲:-20℃~+85℃で得られる単位温度あたりの電圧変化(以下ゲイン)を図4に示す。ゲインが最も小さくなる温度範囲の上下限でも、約10mV/℃程度のゲインが得られる。このとき、1LSBは約0.3℃に相当する。マイコンに搭載されている10ビットのADCでも、約0.3℃の温度分解能が期待できる。もちろん、室温付近であれば30mV/℃以上のゲインがあるので、1LSBは0.1℃以下となる。

【図4】 単位温度あたりの電圧変化(ゲイン)

マイコン搭載の標準的なADCを用い、シンプルな回路で簡単に温度検知回路を組むことができる。これが、サーミスタが電子機器の温度検知に広く用いられる大きな理由なのである。

シンプルな回路だが、精度は「そこそこ」

では、一般的なサーミスタや抵抗器で、どのくらいの温度測定精度を得られるのであろうか?

あらためて、図3をご覧いただきたい。このグラフは、抵抗値許容差:±1%のサーミスタと抵抗器を用いた場合の電圧温度特性である。太線が電圧のセンタ値を、細線が部品の最大許容差等から算出される電圧の上下限値を示している。ほとんど差が見えないので、センタ値をゼロとしたときの上下限値を温度換算したグラフを図5に示す。

【図5】 図3のVoutバラツキを温度換算してみると

+85℃で約±1.5℃程度、+60℃では約±1℃程度の誤差が生じることがわかる。

「高精度」とまでは言えないが、電子機器内部の温度をモニタリングする上では、「そこそこ」信頼に足る精度ではある。使っている部品や回路のシンプルさを思い出していただきたい。そのコストパフォーマンスの高さをご理解いただけるかと思う。

村田製作所の設計支援ツール

以上の計算やグラフ作成には、当社の設計支援ツール:SimSurfingを用いた。【図6】

【図6】 村田製作所の設計支援ソフト: SimSurfing

温度検知回路を設計するに際に、温度によってどのような電圧変化が得られるのか?はイメージし難いところがある。

SimSurfingは、直感的な操作で、サーミスタや抵抗器の定数・その回路を選択し、得られる電圧の変化・予想される温度誤差レベルなどをグラフで確認できる。また、すべての計算結果を1℃ステップのテキストデータで保存できるので、その結果を設計者ご自身の回路シミュレータや表計算ソフトで継続して検討いただくことができる。さらに、得られた電圧温度特性や、逆に、電圧から温度を求める温度電圧特性の近似式を算出する機能も搭載している。電圧→温度の変換をプログラム中で計算により求める場合に、是非お使いいただきたい。

ふたたび、なぜサーミスタが選ばれるのか?

配置の自由度、将来に渡ってのコストダウンと小型化。さらに、シンプルな回路と期待できる精度について述べた。

実際には、サーミスタからの温度情報と機器の状態との検証や、ADCまわりを含めた最適化など、使いこなしていただくには相応の手間が必要である。しかし、一度採用いただければ、今回述べたメリットを将来に渡って享受いただける。

当社は、優れたサーミスタの開発・提供のみならず、今回紹介した設計支援ツールや、センサまわりの熱設計サポートなどを通して、機器設計者の温度検知をお手伝いしていく。

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