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5G時代を迎える電子機器の温度監視にチップNTCサーミスタ

電波新聞第2部「ハイテクノロジー」2020年2月20日号に掲載された内容を再構築したものです。

掲載誌:電波新聞第2部「ハイテクノロジー」2020年2月20日号

5Gの普及が発熱リスクを増大させる?

5Gの普及がいよいよ本格的になってきた。通信速度が飛躍的に高速化する5Gでは、関連部品への負荷も大きくなる。個々の部品が単位時間に処理しなければならない情報量も飛躍的に増えるからである。

それだけではない。情報トラフィックの多くを占有するであろう画像・動画は高精細化し、カメラまわりが扱う情報量やその速度も増大する。また、これらの情報処理を支える電源部においては、大容量の電池への急速充電が必須となっている。

これらは、電子機器内部に数多くの発熱源が生じていることを示す。さらに、複数の発熱源が複雑に機能している電子機器内部では、それぞれの発熱源が相互に、あおり熱を受ける関係にある。ひとつの発熱源に対して何らかの対策を施すだけでは、複数の機能を同時に使用するような状態には対処できなくなっているのである。

基板温度を監視することの重要性

以上のような背景から、基板上の複数箇所の温度を監視し、電子機器の複雑な機能に応じて、発熱源となっている部品のパフォーマンスを制御することの重要性が増している。

例えば、プロセッサへの負荷が大きいアプリを実行した場合、温度が低い初期段階ではフルパワーでプロセッサを動作させるが、プロセッサの温度が上昇してくれば、そのパフォーマンスを落として、しきい値温度を超えないように制御する。このとき、プロセッサに給電する電源部の発熱が大きく、そのあおり熱を受けているような状態であれば、プロセッサの温度が急激に上昇してしまうかもしれない。プロセッサまわりや電源ICまわりの温度も考慮し、それぞれのパフォーマンスをさらに細かく制御する必要がある。

制御をしているにもかかわらず、さらに発熱が続くような事態になれば、警告を表示したり、シャットダウン・シーケンスに移行したりという最終的な過熱保護を行うことになる。

個々の発熱源、ICやモジュールの内部温度だけでなく、相互のあおり熱の授受や、電子機器が置かれている周囲環境の温度変化も考慮する必要がある。発熱源のまわりの温度を監視していないと、前述のような温度管理はできない。

基板温度の監視にはチップNTCサーミスタ!

そこで選ばれる温度センサが面実装タイプのチップNTCサーミスタである。

【図1】 チップNTCサーミスタのサイズと主な用途

EIA規格に準拠したサイズであり、同じ規格のチップ抵抗器やコンデンサのように容易に実装できる。サーミスタへの配線が可能な場所であれば、面実装用のランドを用意するだけでサーミスタを実装することができる。測りたい場所にセンサを配置し温度を検知する、温度センサとしての配置の自由度が極めて高い。

さらに、チップNTCサーミスタのようなチップ部品では、特性の異なる多くの品種を多量に生産するためのさまざまな量産技術・工法・管理手法が確立している。生産数量が増えれば、それに対応した量産設備・工法を用いることができ、そのコストは下がる。小型化についても、チップ部品メーカ各社で飽くなき追求がなされている。サーミスタにおいても、0402mmサイズは既に一般的なサイズになってきている。

他の温度センサと比べて、現時点で、コストメリットがあったり小型であったりするだけでなく、将来にわたって、さらなるコストダウンや小型化を期待できるのである。

それだけではないサーミスタの魅力

図2は、サーミスタを用いた温度検知回路の例である。サーミスタと抵抗器を直列につなぎ、定電圧を印加する。このときの分圧電位とサーミスタの温度との関係を図3に示す。

【図2】 サーミスタを用いた温度検知回路<例>
【図3】 分圧電圧(Vout)の温度特性

広い温度範囲で、非常に大きな電圧変化が得られる。この電圧変化を温度情報として扱うのである。具体的には、直接、マイコンのADポートに接続しAD変換すれば、そのAD値をマイコンのロジックで温度情報として扱うことができる。例えば、ある温度で警告を出す場合、その温度に相当するAD値が検出されたときに警告を発するようにプログラミングすれば良い。

注目すべきは、この大きな電圧変化である。図2の回路図で、ADコンバータ(ADC)の前段にアンプがないことにお気づきだろうか?温度センサに限らず、一般に、電子機器で用いられるセンサからの信号は非常に微弱であり、何らかのアンプ(信号増幅回路)が必要になる。サーミスタは、アンプを必要としない数少ないセンサなのである。

ここで、ADCの分解能について考えてみる。図2のように、サーミスタに印加されている電圧と、マイコン内のADCへ供給されている電圧とが同じで、ADCの入力レンジが0V~3Vであると仮定する。ADCの分解能が10ビットであれば、量子化単位(LSB:Least Significant Bit)は約3mVになる。

一方、図3と同じ温度範囲:-20℃~+85℃で得られる単位温度あたりの電圧変化(ゲイン)を図4に示す。ゲインが最も小さくなる温度範囲の上下限でも、約10mV/℃のゲインが得られる。このとき、1・LSBは約0.3℃に相当する。マイコンに搭載されている10ビットのADCでも、約0.3℃の温度分解能が期待できる。もちろん、室温付近であれば30mV/℃以上のゲインがあるので、1・LSBは0.1℃以下となる。

【図4】 単位温度あたりの電圧変化(ゲイン)

マイコン搭載の標準的なADCを用い、シンプルな回路で簡単に温度検知回路を組むことができる。これが、サーミスタが電子機器の温度検知に広く用いられる大きな理由なのである。

シンプルな回路で高精度な温度測定

では、一般的なサーミスタや抵抗器で、どのくらいの温度測定精度を得られるのであろうか?

改めて、図3をご覧いただきたい。このグラフは、抵抗値許容差:±1%のサーミスタと抵抗器とを用いた場合の電圧温度特性である。得られる電圧のセンタ値と、細線が部品の最大許容差等から算出される電圧の上下限値とをプロットしている。ほとんど差が見えないので、センタ値をゼロとしたときの上下限値を温度換算したグラフを図5に示す。

【図5】 図3のVout誤差の温度換算

+60℃では約±1℃、+85℃で約±1.5℃の誤差が生じることがわかる。基板温度など、電子機器内部の温度を監視するには、十分信頼に足る温度測定精度が期待できる。

使用している部品や回路のシンプルさを思い出していただきたい。そのコストパフォーマンスの高さをご理解いただけるかと思う。

村田製作所の設計支援ツール

以上の計算やグラフ作成には、村田製作所の設計支援ツール:SimSurfingを用いた。

【図6】 村田製作所の設計支援ソフト: SimSurfing

温度検知回路を設計するに際に、「温度によってどのような電圧変化が得られるのか?」はイメージし難いところがある。

SimSurfingは、直感的な操作で、サーミスタや抵抗器の定数、およびそれらを使用した回路を選択し、得られる電圧の変化や予想される温度誤差レベルなどをグラフで確認できる。また、すべての計算結果を1℃ステップのテキストデータで保存できるので、その結果を設計者ご自身の回路シミュレータや表計算ソフトで継続して検討いただくことができる。さらに、得られた電圧温度特性や、逆に、電圧から温度を求める温度電圧特性の近似式を算出する機能も搭載している。電圧から温度への変換をプログラム内で計算により求める際に、ぜひお使いいただきたい。

なぜサーミスタが選ばれるのか?

配置の自由度、将来にわたってのコストダウンと小型化。さらに、シンプルな回路と期待できる精度について述べた。

実際には、サーミスタからの温度情報と電子機器の状態との検証や、ADCまわりを含めた最適化など、使いこなしていただくには相応の手間が必要である。しかし、一度採用いただければ、今回述べたメリットを将来にわたって享受いただける。

村田製作所は、優れたサーミスタの提供のみならず、紹介した設計支援ツールや、センサまわりの熱設計サポートなどを通して、5G時代を迎える電子機器設計者の温度検知をお手伝いしてゆく。

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