飛躍的に大規模化する電子回路をコンパクトな端末に――ムラタの5Gスマホ向けMLCC(前編)

性能向上で応用が広がる5G、端末内部の回路は飛躍的に大規模化

第5世代移動体通信(5G)の商用サービスがいよいよ始まりました。超高速・大容量、超低遅延、多数同時接続とスマートフォンの性能は大幅に底上げされ、4K画質の映像データを短時間でダウンロード、仮想現実(VR)を駆使したコミュニケーション、遠隔地にあるコンピュータや機械と連携動作など、新たなアプリケーションの広がりが期待されています。さらには、工場や医療現場、社会インフラなどでのデータ活用を後押しし、豊かで無駄のない社会を実現するための通信基盤としてもその活用に期待が集まっています。

5G対応スマートフォンには、これまで以上に多様で複雑な構造の電子回路が搭載されることになりそうです。セルラー通信機能だけを挙げても、3.7GHz帯、4.5GHz帯といったSub6帯とミリ波帯に当たる28GHz帯、加えて既存の4Gへの対応も求められます。さらには、周辺機器とのデータ通信に向けたBluetoothⓇやWi-Fi、近距離無線通信(NFC)、位置を検知するGPSを活用するための回路も必要です。そして、こうした多様で高精度な無線通信機能の活用を前提とし、高性能なカメラやディスプレイ、VRやARなど新たなアプリケーションを活用するために必要なセンサと信号処理回路なども新たに搭載されます(図1)。これによって、端末内部の電子回路の構成は、劇的に大規模化していくことでしょう。

図1 5G対応スマートフォンに搭載する機能の例

魅力的な端末の開発には、内部回路を構成する電子部品の小型化が必須

しかし、電子回路の大規模化にともない、端末自体を大きくしてしまっては商品価値を損ないかねません。ここ数年、ディスプレイサイズの大型化やバッテリ容量の増大を狙ってスマートフォンの大型化が進められてきました。しかし、既に簡単に取り回せるサイズの限界に達し、むしろ筐体の小型化を望む声さえ出てきています。付加価値が高く、使い勝手のよい端末を作るため、端末のサイズを維持しながら大規模な電子回路を組み込むことができる超高密度実装技術が求められています。

電子回路を構成する素子のうち、半導体に関しては、端末の高性能化や多機能化が進んでも、チップへの素子の集積度向上や機能のソフトウェア化などにより、従来どおりの方法で超高密度化に対応できます。しかし、電子回路を技術仕様通りに安定動作させるために欠かせない電子部品である積層セラミックコンデンサ(以下、MLCC)は、素子そのものの小型化が必須になります。

スマートフォンには、1台当たり約800-1000個のMLCCが使われています。しかも、端末に搭載される機能が増えれば、それにほぼ比例して搭載数も増大します。高性能・多機能で使い勝手のよいサイズの5G対応スマートフォンを生み出すための鍵は、MLCCの小型化に掛かっているといえるでしょう。

5G対応スマートフォンへの搭載を見据えて、0201M/0.1μFと0402M/1μFを実現

村田製作所(以下、ムラタ)は、世界最小 の0201M(0.25×0.125mm)サイズでありながら、世界最大 の静電容量を実現した0.1μF のMLCC「GRM011R60J104M」を開発しました。そして、同一容量の当社従来品0402Mサイズ(0.4×0.2mm)に比べて、実装面積で1/2、体積で1/5の小型化を実現しました(図2)。

※ 当社調べ。2020年9月29日時点。

図2 0402Mサイズと0201MサイズのMLCCの外観

これまでムラタは、世界のMLCCの小型化をリードし、電子機器の小型化に貢献してきました。1970年代に投入した3216M(3.2×1.6mm)サイズのMLCCでは小型薄型携帯ラジオの商品化を、1980年代から1990年代には2012M(2.0×1.2mm)/1608M(1.6×0.8mm)サイズの投入でAV機器やパソコンの小型化・携帯化を、2000年代には1005M(1.0×0.5mm)/0603M(0.6×0.3mm)サイズで携帯電話(フィーチャーフォン)の多機能化を後押ししました。こうしたMLCCの小型化への積極的な取り組み実績を背景にして、スマートフォンで多く採用されている0402MサイズのMLCCのうち、50%を超えるシェアを占めています。

5G対応スマートフォンへの搭載を想定し開発した0201Mサイズ、0.1μFのMLCCは、既に福井村田製作所にて、量産体制を整えました。これからも、ムラタはMLCCの小型化をリードし、電子機器の小型化と多機能・高性能化を後押しすることでしょう。

端末内に数多く搭載されるMLCCのサイズを1/5に小型化

5G対応スマートフォンには、1台の端末に数多くのMLCCが搭載されています。端末の小型化に与える影響が大きな部品のうちのひとつだと言えます。使い勝手のよいサイズを維持しながら端末を多機能化していくためには、MLCCの小型化は欠かせないポイントです。過去半世紀近くにわたって、ムラタは、MLCCの小型化をリードし続けてきました。そして、その実績を生かして開発したのが、5G対応スマートフォンへの搭載を想定した新世代の小型MLCCです。5G対応スマートフォン向けMLCCの商品企画担当者と、より小型・大容量のMLCCの開発に取り組んできたエンジニアに、開発したMLCCの詳細と端末開発に与えるインパクトについて聞きました。

左から、マーケティング マネージャー 水流園、商品開発 マネージャー 若島

1台当たり1000個以上も利用されるMLCC、その小型化のインパクトは大きい

――5G対応スマートフォンには、どのような用途で、どのくらいの数のMLCCが使用されているのでしょうか。

現在のスマートフォンは、急激に多機能化が進んでいます。無線通信関連の電子回路だけでなく、様々な処理を実行するプロセッサや、カメラ、ディスプレイなど多くの電子回路が搭載されています。そして、それら電子回路を安定動作させるため、電源供給やノイズ除去を目的としたコンデンサが数多く使われています。

スマートフォンでは、小さな筐体の中に多くの電子機能を詰め込む必要があり、コンデンサにもできる限りの小型化が求められます。このため、スマートフォンに搭載されるコンデンサのほとんどが小型化に優れたMLCCであり、今ではハイエンドの最新スマートフォン1台当たり1000個以上のMLCCが搭載されるようになりました。

――随分、多くのMLCCが使われているのですね。スマートフォンの中で、最も多く使われている部品なのかもしれません。では、5G対応スマートフォン向けには、どのような特徴を持つMLCCが求められているのでしょうか。

より小型で大容量なMLCCが求められています。5G対応端末では、1台に搭載する機能が4Gよりも増え、そのぶん筐体に組み込む電子回路も大規模化することが見込まれています。すると、端末内のMLCCの数や総容量もさらに増えることになります(図3)。

図3 民生向けMLCCの市場予測とスマートフォンのMLCC静電容量の推移

例えば、5G端末では4G端末よりも、対応すべき周波数帯が増えます。1台の端末の中で様々な周波数帯を使い分けながら高品質な通信をするためには、利用する周波数帯だけをキッチリとフィルタリングして、利用しない周波数帯から混入するノイズを取り除く必要があります。ここには、静電容量は小さいのですが、容量バラツキの少ないMLCCを数多く利用することになります。

ところが、スマートフォンの筐体サイズは、現状を維持するだけでも難しくなりつつあるのに、むしろ小さくして欲しいというニーズが高まっています。こうした要求に応えるためには、MLCCのさらなる小型化が欠かせません。

また、端末に搭載する機能が増えたことで、バッテリ容量も大きくなっています。大容量バッテリを安定的かつ迅速に充電するためには、より大容量で高品質なMLCCが必要になります。さらに、大容量品を使用することで、MLCCの搭載数を減らせる電子回路もありますから、根強い大容量化の要求があります。

同一容量品に比べて、実装面積を1/2、体積を1/5に

――ムラタでは、5G対応スマートフォンの回路規模の増大と端末サイズの維持・小型化に向けて、どのような特長を持つMLCCを開発したのでしょうか。

新たな世代の製造技術を投入することで、現時点で最小のMLCCのサイズである0201Mサイズで、世界最大の静電容量となる0.1μFのMLCCを開発しました。0201MサイズのMLCCはこれまでにもあったのですが、0.01μFと小容量であり、スマートフォン内での利用先は限定されていました。さらに、定格電圧6.3Vの製品で静電容量許容差も±20%とスマートフォン向けに適した仕様で実現しました。

これまでスマートフォンに数多く搭載されていた同容量のMLCCは、0402Mサイズでした。これが0201Mサイズになったことで、実装面積では1/2、体積では1/5と大幅に小型化できました。さらに、このMLCCに投入した新しい製造技術を使って、0402Mサイズの1.0μFのMLCCも開発しました。こちらも、同一サイズのMLCCの中では世界最大の静電容量を持ちます。

――開発したMLCCは、5G対応スマートフォンの開発にどのようなインパクトを及ぼすのでしょうか。

先ほど、最先端のスマートフォンには1000個以上のMLCCが使われているとお話しました。そのうち200個以上が、今回開発した0.1μF品と1.0μF品に該当します。その一つひとつが飛躍的に小型化したのですから、端末の小型化に及ぼすインパクトはとても大きなものになります。

開発したMLCCを使えば、基板面積が小さくなった分のスペースをさらなる多機能化やバッテリ容量の拡大に振り向けて、より付加価値の高い端末を開発できるようになるのではないでしょうか。また、ウェアラブル機器やIoT端末では、小型であることで付加価値が高まります。小型のウェアラブル機器は、装着時の違和感を軽減できますから、利用シーンが広がります。また、小型のIoT機器は、設置場所の条件が緩和されるため、貴重なデータを収集しやすくなります。このため、今回開発したMLCCはこれらの応用でも利用が広がるとみています。

――定格電圧が6.3Vとのことですが、それにはどのような意味があるのでしょうか。

スマートフォンに搭載されているバッテリは3V-4Vで電力を供給します。したがって、定格6.3VのMLCCは、そのバッテリで直接駆動する電子回路で使いやすい仕様になります。スマートフォンでは、約1Vで駆動するプロセッサのような部品もあり、そこでは定格4VのMLCCがよく使われています。ただし、お客様によっては部材管理の煩雑さを軽減するため、プロセッサ周りの回路にも定格6.3VのMLCCを利用することがあります。このため、最小サイズの製品を定格6.3Vで用意することには重要な意味があります。

量産に向けて準備万端

――5G向けに開発したMLCCはいつ、どこで量産を開始するのでしょうか。

既に量産体制は整っており、2020年中に福井村田製作所で量産を開始する予定です。ムラタグループの中では、福井村田製作所は、技術開発と量産の両面でMLCCの小型化・大容量化をリードするフラッグシップ工場です(図4)。最先端の小型化・大容量化に向けた新技術を真っ先に投入し、技術が成熟したら他の生産拠点へと技術を移管する役割を担っています。

図4 ムラタの主なMLCC生産拠点

小型のMLCCが広く普及するためには、お客様の企業の側にも小さな電子部品の実装に対応可能な最先端の 実装機(マウンタ)が必要になります。0201Mサイズはとても小さいのですが、2014年4月から量産を始めています。その際に、対応するマウンタの開発もマウンタメーカ様と完了させており、お客様にはこのサイズのMLCCを利用する準備が整っています。5G対応スマートフォンの生産が本格化することで0201Mサイズの需要が急激に高まってきており、今後の需要の伸びを確信しております。

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