医療とテクノロジーの未来

第3回 AI活用による診断補助

第2回では、医療の裾野を広げるIoTの活用として、ウェアラブルデバイスが果たす役割を紹介しました。今回は、さらに医療の裾野を広げる手段として、AIによって医療者の持つ情報の差(=情報の非対称性)を埋める取り組みについてご紹介します。

執筆者:加藤浩晃(医師)

診療に従事しながら、手術器具や遠隔医療サービスを開発。2016年には厚生労働省に入省し、医政局室長補佐として法律制定や政策立案に従事。退官後は診察を行う傍ら、AI医療機器開発会社を共同創業するなど、医療領域全般の新規事業開発支援を行っている。「医療4.0」(日経BP社)など著書多数。

医師間の課題を解決する、AIによる医療提供の最適化

「医療者」とひとまとめにしても、その中には内科や外科、眼科など、診療科の違いがある。さらに、内科ひとつとっても消化器内科や循環器内科など、専門が異なることも多い。また、研修医と専門医、大学で長年にわたって専門診療を続けている医師では、経験値がまるで違う。つまり、医療者の持つ情報には、厳然たる差(=情報の非対称性)が存在する。

ここで課題となるのは、これらの医師の間で「知の継承」がスムーズに行われているかということだ。そうした「知の継承」や「情報の非対称性」を解決する糸口として、活用が考えられているのがAI技術である。熟練医師の治療選択などを客観的なデータとして収集することで、AIによる医療提供の最適化を行おうというものだ。質の高い医療をどこでも提供できるようにすることで、医療の裾野を広げることができる。

AIによって医療の質を担保し、医師の負担を軽減

医療AIの中で早い段階で実用化されているのは、CTやMRIなどの「画像診断」の領域である。画像のデータベース化とディープラーニングを活用することで、自動で疾患候補を挙げたり、画像中の注目すべきポイントを目立たせたりして、医師による見逃し防止につなげている。近年では、内視鏡検査において、リアルタイムで癌の疑いがある領域を検出できる開発も進んでいる。また、皮膚科領域では、AIの画像診断が皮膚科医による診断と同等の精度だったという成果をアメリカの大学が報告している。あくまで研究レベルではあるが、ほかにもAIによる画像診断は医師と同等かそれ以上であるという報告が見られるようになってきた。

さらに、「問診」もAIに期待されている領域だ。患者自身がタブレット端末などに症状を入力するだけで、疾患候補や鑑別に必要な検査項目、処方薬が列挙される仕組みが開発されてきている。こうしたAIによる画像診断や問診によって、医師の負担が減ると共に、医療の質が担保されることも期待される。医師が専門外の疾患を診断するときや、多数の薬を内服している患者の薬剤禁忌チェックにも役立てられるため、安全性の向上も期待できるだろう。情報の非対称性や経験値の差をAIが埋めてくれるのだ。

現在、AIの医療活用で主に考えられているのは、AIを医療機器に直接組み込んだ「AI搭載医療機器」だ。しかし、診断精度を常に最高の状態に保つためには、医療機器ごとにソフトウェアのアップデートが必要となる。これでは、多忙な医師の負担となりかねない。その解決の糸口となるのが次世代通信システム「5G」だ。大容量のデータのやり取りが可能になることで、医療機器に直接AIを搭載する必要がなくなる。セントラルとして整備するクラウド上のAIに画像などの必要な情報を送り、診断結果を返してもらうだけで済む。クラウド上のAIがアップデートされれば、対応する医療機器を採用しているどの医療機関でも、常に最高の診断精度を保つことができるだろう。

次回は、この「5G」を中心にした遠隔医療を解説していく。

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