医療とテクノロジーの未来

第4回 遠隔医療の期待が集まる5G

前回は、AI医療機器による精度の高い画像診断、AI問診の可能性について解説し、次世代通信システム「5G」がもたらす恩恵についても触れました。今回は、5Gの活用をより掘り下げて解説します。5G の大容量、低遅延、多数同時接続という特長は、オンライン診療をはじめとする遠隔医療にどのような進化をもたらすのでしょうか?

執筆者:加藤浩晃(医師)

診療に従事しながら、手術器具や遠隔医療サービスを開発。2016年には厚生労働省に入省し、医政局室長補佐として法律制定や政策立案に従事。退官後は診察を行う傍ら、AI医療機器開発会社を共同創業するなど、医療領域全般の新規事業開発支援を行っている。「医療4.0」(日経BP社)など著書多数。

増加が見込まれるオンライン診療とその課題

現在、新型コロナウイルス感染症による時限措置として、初診・再診を問わず、あらゆる患者に対してオンライン診療が行えるようになっている。この時限措置によって、通信機器(テレビ電話や電話なども含む)を用いた診療を採用している医療機関は日本全国で約15%にのぼる(厚生労働省「第14回オンライン診療の適切な実施に関する検討会資料」[2020年11月])。ただ、これは恒常的な措置ではないため、今後、オンライン診療の制度がさらに整備されることになる。

ちなみに現在、医療機関向けのオンライン診療用ビデオ通信システムは、日本国内において10社以上から提供されている。今後も社会のデジタル化が進むにつれて、医療領域でもデジタル化は避けられないため、導入施設の増加が見込まれている。一方で、現在のオンライン診療では、画面を通した2次元的な情報しか伝達できず、対面診療と比べると医療の質は低くなるのが実情だ。今後、在宅検査キットや家庭用医療機器でのデータを活用することによって、診療の質も向上するだろう。先進的なクリニックではすでに、患者が身につけたIoTデバイスのデータを共有しながらオンライン診察を行っているところもある。

そして、オンライン診療で期待が寄せられているのが次世代通信システム「5G」だ。大容量のデータのやり取りがスムーズに行えるため、診断用の画像も高解像度のものが用いられるようになり、医療の質の向上が見込まれる。

5Gに期待される遠隔手術の可能性

5Gは、オンラインでは難しいとされていた「触診」も可能にするかもしれない。現在、物を触ったときの感覚を再現できるデバイスを指に装着し、映像と一致させることで触覚を疑似体験できるプロダクトが日本の大学から発表されている。これに5Gによる大容量かつ低遅延の通信が合わされば、遠隔からの触診も夢ではない。

触覚のような微細な感覚も遅延なく送れるとなれば、遠隔からの手術にも実現の可能性がある。現在のロボット手術では、患者がいる手術室内で術野から離れたところで操作をしているが、操作に遅延があってはいけないため、有線で繋がれている。しかし、5Gによって通信遅延の可能性がなくなれば、すべて無線にすることも可能だろう。将来的に、東京にいながら、北海道や沖縄の患者を手術することもできるかもしれない。

通信障害が発生するリスクもあるが、これは前号で紹介したようなAIによって危険を回避できると考えられる。たとえ通信障害などで不適切な動きが発生しても、AIによる自動制御で最低限の処置を行えれば、大事を避けることができるだろう。

今号までに紹介したIoTやAI、5Gなどの技術は、いずれも第4次産業革命を代表するものだ。本連載の最終回となる次回では、まだ紹介していないVRやロボットなどの活用例に触れつつ、医療現場の技術開発の根底にある課題を考察する。

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