医療の未来を考えるのメインイメージ

医療とテクノロジーの未来

第1回 医療の未来を考える

AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、次世代通信規格5Gなどが普及し始めた現代。時代は「第4次産業革命」といわれる大きな転換期に差しかかっています。さらに、昨今のコロナ禍の影響によって、こうしたテクノロジーがより身近なものになりました。

同時に、医療・ヘルスケア領域においても、最新テクノロジーによってさまざまな変化がもたらされています。本連載では、現役の医師であり、AIやIoTなどのデジタルヘルスに精通した加藤浩晃氏の執筆監修の下、2030年に向けた医療の未来に関して、全5回にわたって解説していきます。まずは、医療・ヘルスケア領域におけるテクノロジー活用の背景となる、日本の医療の現状を見てみましょう。

執筆者:加藤浩晃(医師)

診療に従事しながら、手術器具や遠隔医療サービスを開発。2016年には厚生労働省に入省し、医政局室長補佐として法律制定や政策立案に従事。退官後は診察を行う傍ら、AI医療機器開発会社を共同創業するなど、医療領域全般の新規事業開発支援を行っている。「医療4.0」(日経BP社)など著書多数。

地域差が存在する医療需要

これから日本では、高齢化が今まで以上に進むという話は聞いたことがあるだろう。2020年の65歳以上の人口割合(高齢化率)は28.1%で、人口3.3人あたり1人の計算となる(総務省「統計からみた我が国の高齢者―『敬老の日』にちなんで―[2020年9月]」)。これが2030年には31.2%、2040年には36.8%と上昇していく。

実は、65歳以上の人口増加が起こるのは日本全体で均一ではなく、東京都・大阪府・神奈川県・埼玉県・愛知県・千葉県・北海道・兵庫県・福岡県の9都道府県だけで、65歳以上の人口増加の55%を占める。簡単に言うと、大都市圏で65歳以上の人口が増えるため、日本全体として高齢化が進むということだ。2045年には東京都以外では人口減少が起こるとされており、特に秋田県や青森県では現在よりも約40%も人口が減少するとされている(国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口[平成30年推計]」)。

こうした高齢化と人口減少の地域差によって、医療需要のピークにも都道府県ごとに差が生じている。すでに2010〜2015年にピークを迎えた地域もある一方で、2030〜2040年にピークを迎える地域もあるのだ(全日本病院協会「病院のあり方に関する報告書[2015-2016年版]」)。

医療の提供側も高齢化と人材不足が進んでいる

一方、医療の提供側はどうだろうか。医療機関の数としては、クリニック(診療所)は約10万、病院は約8000で、ここ数年ほぼ横ばいだ(厚生労働省「令和元(2019)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」)。しかし、そこに従事する医師数が減少している地域があるうえ、日本全体で医師の高齢化も指摘されている。現在約32万人いる医師の平均年齢は約50歳、その中でもクリニック(診療所)の医師に限定した平均年齢はなんと約60歳にもなる(厚生労働省「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」)。ちなみに、25歳で医師になったとして、その50年後の75歳になった場合でも、約50%が医師として就業しているというデータもある。

医療需要のピークに地域差があり、医療提供側にも高齢化や人材不足などの問題がある現状、医療・ヘルスケア領域には「医療アクセスの向上」「医療にかかるコストの減少(効率化)」「医療の質の向上」の3つが求められている。そして、これらの課題解決の一助として注目されているのが、時間や距離の制限を取り払い、処理速度の向上も期待できるデジタルテクノロジーの活用だ。

実はすでに、医師と患者間のやり取りには「オンライン診療」、医療者間の情報のやり取りには「遠隔医療」などが導入され始めている。さらに、問診や画像診断にAIを利用した「AI医療機器」も日本で10以上の製品が承認されており、医師による疾患の見逃しを防止するために利用されている。身近なところでは、スマートフォンの「治療用アプリ」に加え、最近では、スマートウォッチのアプリにも医療機器として日本で承認されるものも出てきた。

こうしたテクノロジー活用によって、医療・ヘルスケア領域にはどのような変化がもたらされただろうか。次回から、それぞれのテクノロジーについて掘り下げながら、今後の展開を考察していく。

関連リンク

関連記事