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製造業DXをかたちにする、スマートファクトリー

フィールドネットワークからTSNへ、工場の通信基盤の進化

スマートファクトリーでは、工場内の様々な装置や設備、さらには企業の基幹情報システム、クラウドなどの間でデータをやり取りしながら、効果的で効率的なものづくりを行います。そして、工場の内外でのデータをやり取りする際には、「産業ネットワーク」と呼ぶ、一般的なオフィスや家庭で利用するものとは異なるネットワーク技術を使います。産業ネットワークとは、扱うデータの量、内容、工場での利用目的や利用環境に合わせて、データ通信の品質や信頼性、リアルタイム性、セキュリティなどを高めた通信技術のことです。

近年、EthernetやWi-Fi®などのネットワークは、高精細な動画データをリアルタイムで伝送できるほど高速になりました。それでも、通信の品質や信頼性、リアルタイム性といった視点から見ると、工場では使いにくい面が残っています。

例えば、動画サイトで見たい動画のサムネイルをクリックしたのになかなか映像が表示されないと、イライラしてしまいます。しかし、工場ではもっと深刻な問題に繋がる可能性があります。例えば、装置に不具合があり、緊急停止信号を送ったのに、信号の到着が遅れるような事態が発生したらどうでしょうか。現場では不良品を作り続け、莫大な損害を被ることになるかもしれません。産業ネットワークでは、こうした事態を発生させない機能をネットワーク技術に盛り込んでいます。そして現在、産業ネットワークの技術は、スマートファクトリーの進化を見据えて、「フィールドネットワーク」と呼ぶ従来の制御用通信技術から、より高速で使い勝手に優れたEthernetベースの「TSN (Time-Sensitive Networking)」へと進化しています。

装置の制御から、ラインの管理、企業全体の操業最適化まで

工場内で利用する産業ネットワークには、大きく2つの種類があります(図1)。一つは、PLC(Programmable Logic Controller)でライン上の装置・設備の制御データや仕掛品の状態などを検知するセンサのデータをやり取りするフィールドネットワーク。もう一つは、複数のPLC間やラインの監視するシステムをつなぐ「コントローラ間ネットワーク」です。

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図1 産業ネットワークの構成

近年では、工場内の産業ネットワークだけでなく、複数工場の運営状況や会社全体の部品・材料の仕入れ、在庫の情報などを管理する基幹システムとも連携を取るようになりました。基幹システムを構築する情報系ネットワークと工場内の産業ネットワークは離れた場所にあるため、双方の間は公衆網でつなぐ場合も多くあります。このため、機密性の高い生産情報をサイバー攻撃などから守るため、ファイヤウォールを介してつないでいます。

産業ネットワークには、特徴が異なる多様な規格がある

産業ネットワークのプロトコルには、特徴や利用シーン、対応機器の異なる様々な規格が存在します。

フィールドバスには、ファクトリーオートメーションの発達が始まった当初には、車載ネットワークの規格「CAN(Controller Area Network)」やシリアル通信規格「RS-485」などが使われていました。その後、より高度なFAへの適用が可能な、高速で信頼性の高い規格へと発展させるため、FA機器メーカや製造業の業界団体によって、独自の規格が複数提案されました。世界的にはドイツの業界団体であるPROFIBUS & PROFINET Internationalが規格を策定した「Profibus」などが、日本では「CC-Link」や「MECHATROLINK」などが多く使われています。

コントローラ間ネットワークにも、「PROFINET」「EtherNet/IP」「EtherCAT」「Modbus TCP/IP」「CC-Link IE Field」「Sercos III」など多くの規格があります。この分野では、現在、Ethernetをベースとした方式の採用が広がっています。先に挙げた規格はすべてEthernetベースの技術です。Ethernetベースが普及している理由は、情報系ネットワークとの連携を見据えているからです。「OPC UA」と呼ぶデータ交換用標準規格を活用することで、IPアドレスであらゆる接続機器を一気通貫で管理・制御できるようになります。

工場でも活用が広がる無線通信

スマートファクトリーの構築と、企業でのデジタルトランスフォーメーション(DX)の実践が進み、これまで以上に多様な機器・設備がネットワークを介してつながるようになりました。それによって、より多様な機器に適用可能で、より多くの利用シーンに対応できる新たなネットワーク技術が必要になってきました。

こうした要求に応えるため、様々な規格がEthernet環境でのリアルタイム通信を可能にする標準技術が登場しました。それがTSNです(図2)。OAなどに利用するEthernetに、時刻同期、リアルタイム通信が可能な帯域の確保、冗長性を持つことによる信頼性向上、情報漏えいノードの切り離しによるセキュリティ向上など、時代の要請に応える様々な機能を盛り込むことで、産業用への応用を可能にし、Ethernetベースの規格だけでスマートファクトリー内の通信を統一できるようにするための技術です。

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図2 TSNで工場内のネットワークをEthernetベースに統一

さらに、無線LANやBluetooth®など近距離無線通信を使って、工場に置かれた装置や設備をネットワークにつなぐ動きも活発化しています。無線でセンサをつなげば、これまで設置できなかった場所にも設置可能になり、ラインのレイアウト変更も容易になります。ただし、Wi-Fi®やBluetooth®には、産業ネットワークと同等の通信品質や信頼性がありません。そこで、「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」を実現する第5世代移動通信システム(5G)を産業ネットワーク代わりに使う試みが出てきています。日本では、特定の領域内に限定して5G基地局の免許を付与する「ローカル5G」の制度が始まり、スマートファクトリーへの利用が期待されています。5Gでは、TSNの技術も利用可能になる見込みで、工場内でのデータ活用を、より効果的かつ効率的にします。

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