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製造業DXをかたちにする、スマートファクトリー

仮想空間に工場を再現、工場の潜在能力を引き出すデジタルツインとは

科学技術の研究や工業製品の開発において、コンピュータ・シミュレーションが広く活用されています。半導体チップから電子回路、機械部品やエンジンのように複雑な機械システム、さらには材料や化学製品まで、様々な工業製品をデジタルモデルで表現することで、現実世界で起きる電気的・機械的・物性的・化学的な現象をコンピュータ上で正確に再現可能になりました。そして実際に手間と時間とコストを掛けて試作や実験を繰り返さなくても、効果的で効率的な設計や生産工程の開発ができるようになりました。

仮想空間に工場を再現するデジタルツインとは

IoT技術とデジタルモデルの作成技術、高度な解析技術を融合することで、シミュレーション技術は、「デジタルツイン」と呼ぶ新しい価値を持つ技術へと発展しつつあります(図1)。デジタルツインとは、現場が抱える課題の解決や生産性や品質の向上を図るための、工場の機能と状態を丸写ししたコンピュータ上のデジタルモデルです。スマートファクトリーの中核情報システム「CPS(Cyber Physical System)」の構築に欠かせない要素技術です。

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図1 従来のシミュレーションとデジタルツインの違い

これまでのシミュレーションでは、設計データなどを基にしてデジタルモデルを作成。様々な解析条件を当てはめて、製品の特性や挙動を予測するために使われていました。これに対し、デジタルツインを使った解析では、設計データに基づくデジタルモデルに、センサなどで検知した実際に存在するモノの性質や振る舞いのデータをリアルタイムで反映させます。現実世界にあるモノは、経年劣化や使用環境の変化によって性質や振る舞いが変わります。デジタルツインならば、こうしたリアルな変化を加味した解析が可能になります。

従来のシミュレーションは、主に、設計時の材料や構造などの様々な選択肢の中から、要求項目に合った最適な条件を絞り込むために使われていました。これに対し、デジタルツインは、既に存在するモノの少し先の未来を見通すために利用されます。製品をより効果的に活用するための運用条件の発見、最適で効率的なメンテナンスの実践などに活用します。

工場の少し先の未来を見通すことで得られるメリット

スマートファクトリーでは、どのような場面でデジタルツインを活用することができるのでしょうか。

例えば、変種変量生産ラインでの生産スケジュール作りに活用できます。変種変量生産ラインでは、「段取替え」と呼ばれる生産品目を切り替える準備が必要になり、ラインの流れが乱れたり、一時的にストップして生産性が低下しがちです。複数製品を同時生産する混流ラインになると、こうした段取替えを考慮して工場全体の生産性を最大化できる生産スケジュールを見つけ出すのは極めて難しい作業になります。

従来、生産スケジュールの作成は、経験豊かなベテラン監督者の経験頼りでした。デジタルツインを使った解析を導入すれば、コンピュータ上で、ラインの様々な運用条件を迅速に試行錯誤し、効率的に段取替えするための方法、生産性が最大化する生産スケジュールなどを見つけ出すことができます。

また、ライン上の装置や設備の挙動を常にデジタルツインに反映できていれば、コンピュータ上で時間を早回しして、先々に起きることを予見できるようになります。例えば、工程間の連携不足が蓄積して起きる「チョコ停」と呼ばれるライン停止や、消耗品である工作機の工具の交換時期、疲労による故障の時期などを予知して、未然に対処できます。

デジタルツインを実現し、活用するための技術

デジタルツインを効果的に活用するためには、現実のモノにより近い性質・挙動を正確に写し取った高精度なデジタルツインを作る必要があります。

そのためには、まず物理や化学の知見を生かしたモデリング技術に加え、現場にあるモノの状態を正確に映したデータを収集できるセンサ技術が欠かせません(図2)。ただし、この用途で利用するセンサには、高温環境や大きな振動がある環境、電磁波ノイズが飛び交う環境の中でも、高精度なデータを収集できる、耐環境性と高信頼性が求められます。

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図2 デジタルツインの実現に向けた要素技術

また、デジタルツインを解析して、最適な生産条件やラインの運用条件を探し出す際には、高度な情報処理技術が必要です。ビッグデータ解析やAI、さらに将来的には量子コンピュータも活用することになるかもしれません。今では想像しにくいかもしれませんが、中小規模の工場でもAIや量子コンピュータをクラウドサービスで活用し、デジタルツインを解析し工場運用に役立てる時代が目前に迫っています。

デジタルツインの応用は、スマートファクトリーだけではありません。会社全体の事業活動、サプライチェーン全体の物流の様子、さらには都市全体の社会活動をデジタルツインで写し取り、最適運用に役立てようとする試みが進められています。

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