ノイズ対策ガイド

チップフェライトビーズ BLM_Eシリーズの誕生 - BLMの未踏領域に挑む -

【大電流高周波対応フェライトビーズBLM_Eシリーズの開発着手へ:担当者Y】

「さっさと次の仕事を考えんと失業しますよ!」

当社が業界に先駆けてチップ化に成功したチップフェライトビーズBLMシリーズですが、1990年代後半のBLMシリーズは、順調に商品展開が進み、セットの高機能化に貢献すべく小型化/高性能化が進んでいました。

小型化に必須な高精度な加工プロセスを最小のコストで達成すべく積層型コイルのビアホールを高速で形成する開発を成功させるなど、「これぞ世紀の大発明!!」と自負していた我々に当時のN課長から、ありがたくも頂戴した言葉が上記でした。今の我々なら「何たる非情な上司か!!」と思うところですが、15年近く昔の血気盛んな技術者であった私には、素直に「世の中にない高性能で誰もついてこれない新商品を作り上げるぞ!!」と、これまでにない高揚感をもった意気込みが芽生えていました。

しかし、気持ちは高くとも、何をやるのかさっぱり見当がつかず、得意技のビアホール形成を担ぎ、同業を含めたBLM相当品の特性を睨み、社内のどこかでいつの間にか受けた研修のノートをベースに、まずは特性のポート・フォリオを暇にあかして作成していました。BLM相当の分類を作ると、一般的な100MHzあたりにインピーダンス特性のピークを持ち、コイルの抵抗値がそれなりの汎用的?なもの、インピーダンスは低めだが定格電流値の高いもの、そして前述のBLM-Hシリーズでの高周波でのインピーダンス特性に優れたものの3つに分類されました。このポート・フォリオをじっくりと眺めてみると、みごとに一つの象限である、高周波で定格電流の高い領域が空白でした。そうだここだ!!と目をつけ得意技であるビアホールを沢山作使って、BLM-Hタイプ同様の高周波に適したコイル配置でより太いコイルパターンを実現した構造がBLM-Eタイプです。BLM-Hタイプはコイルを部品の長手方向に積み重ねていたのであまり太いコイルパターンは作れませんでしたが、BLM-Eの構造ではビアホールがコイルパターンの主要部分を構成するため、太いコイルパターンを形成することができます。

<BLMシリーズのカバーエリアのポートフォリオ>
 

【生みの苦しみとお客様の言葉:担当者Y】

ところが世間の諺の、「言うは易し行なうは難し」の典型で試作は紆余曲折や七転八倒、試行錯誤などの連続でした。やっとでき上った試作品の特性は、我々の狙い通りの高周波特性に優れかつ大電流に対応できる、高性能なBLMで、これで将来の飯の種ができたぞとひと安心しました。

でき上った完成品を手に当時の開発部長だったK部長と私は、さまざまなお客様の設計部門にお邪魔を繰り返しました。当時はDVDレコーダの黎明期であり、特に書き込み型の光ピックアップには、使ってもらえそうな感触が出ていましたが、実際に使っていただけるお客様にはなかなか出会えませんでした。そしてある日にお邪魔したお客様のご担当からついに「このサンプルを評価してくるので、ちょっと待っていてください。」とチャンスを頂くことができました。

長くお待ちした記憶はなく、戻ってこられたお客様から頂いたのは「これは、ノイズがこれまでに見たことがなく除去できる凄い高性能です。すぐに検討したい!!」との涙が出るほど感激したお言葉を頂戴しました。この時の光景は10年以上たった私の脳裏に今でも鮮明な記憶です。

【BLM_Eシリーズの商品化取組み:担当者I】

BLM-Eタイプの設計が固まってきた2002年から、私はBLM-Eタイプ商品開発チームの一員となりました。それまでは別商品の開発を行っていましたが、当時からフェライトビーズの主流であるシート積層工法をやってみたいという思いがあったので、この商品の開発チームに参画できたことをとても嬉しく思ったことを記憶しています。

しかし現実は厳しいもので、この商品が持つ独特の構造ゆえに立ち上げ段階において印刷、積層、カットといった工程で次々と課題が出てきました。「こんな不良、初めて見た。」当時よく耳にした台詞です。独特の構造に起因するトラブルであるためこれまでの一般的な積層フェライト商品のトラブル対策事例がそのまま使えないことも多く、その都度製造部門をはじめとする関係部門のメンバーと協力して原因を調べ、対策アイデアを出し合い解決していきました。苦しい時期でしたが、今思えば、ここで苦労して得られた知見と経験が、その後の安定生産だけでなく、後に商品化される小型品の設計の礎にもなりました。

そして多くの方々のサポートを受け1608(mm)サイズのBLM18Eを商品化し、さらに翌年には1005(mm)サイズのBLM15Eを世の中に送り出すことが出来ました。

【独自商品へのこだわり】

BLM-Eタイプは、従来の高周波対応BLM-Hシリーズよりも定格電流の高い領域を狙うという着想とそれに対するお客様の声を皮切りに、開発・製造・販売部門が一丸となって商品化した独自商品です。今後も独自技術を追求した新しいBLMシリーズを提案していきますのでご期待下さい。

 

担当:村田製作所 コンポーネント事業本部 EMI事業部 Y.T. & I.Y.

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