コンデンサ(キャパシタ)

製品技術紹介
電波新聞第2部「ハイテクノロジー」2017年6月1日号に掲載された内容を再構成したものです。
掲載誌:電波新聞第2部「ハイテクノロジー」2017年6月1日号
株式会社村田製作所(以下当社)は、主に薄型が必要とされる機器の電源向けとして、表面実装に対応したIEC60384-14 X1/Y1クラス認定品であるセラミックコンデンサ DKシリーズ タイプEAを商品化した。当製品の外観を図1に示す。また、構造寸法と内部構造を図2と図3に示す。
フラットパネルテレビなどのAV機器やLED照明機器の電源部、データセンタなどの1uラックに搭載される電源機器類は、例えば、ラックに収容するサーバ容量拡大などの観点から、小型化・薄型化が求められる傾向にある。
これらの電源機器には、ノイズ対策を目的として、商用電源ラインとグランドを接続するYコンデンサや1次側と2次側を接続するカップリングコンデンサが用いられる。これらのコンデンサは、高い耐電圧性能や難燃性などを備える必要がある。しかも、ULや,CQCなどの機関が定める安全規格の認定を取得した製品が使用される。また、これらのコンデンサには安全規格認定のほかサイズの小さなものが求められ、従来は当社DEシリーズ タイプKXなどのラジアルリード円板型セラミックコンデンサがこの要求に応える形で電源機器の小型化に貢献してきた。しかし、ラジアルリード付き部品では基板面からの実装高さが高く、電源部のさらなる薄型化を進めるうえで制約となる場合があった。
また、ラジアルリード付き部品の場合、基板に挿入したリード線の先端部が基板の裏側に飛び出る。このリード線の先端部からシャーシなど電源機器の金属部分までの間には、電源機器に適用される安全規格の要求により一定の距離(絶縁距離)を確保する必要がある。これも電源機器の薄型化を進めるうえでの制約となる場合もあった。
DKシリーズ タイプEAは、コンデンサ素子である円板型セラミック誘電体に平型の金属端子をはんだ付けし、これを角型に樹脂モールドする構造によりYコンデンサの表面実装対応を可能とした。表面実装化により部品の低背化が可能になると同時に、基板裏側へのリード端子の飛び出しもなくなるのでリード端子先端部と機器のシャーシなどとの絶縁距離への配慮も不要となる。これらにより、当DKシリーズは電源機器の薄型化の進展に大きく貢献できると考える。図4 にYコンデンサの表面実装化による薄型化への貢献例を示す。
DKシリーズ タイプEAの主な製品仕様を表1に示す。
DKシリーズ タイプEAは、コンデンサ素子である円板型セラミックスに金属端子をはんだ付けしてから角型に樹脂モールドする構造により、IEC60384-14 X1/Y1クラス要求の高耐圧性能を確保しながら、基板面からの部品の高さ2.5mm以下という薄さを実現している。
セラミック素子と金属端子を接合するはんだ種の選定や取り付けはんだ量の制御に配慮することで、高温雰囲気下に比較的長い時間さらされるリフローはんだ付け工法への対応を可能とした。また、金属端子の表面にはSnめっきを施しており、良好なはんだ付性を確保している。
当社では、以前からラジアルリード円板型セラミックコンデンサ DEシリーズにおいて安全規格認定品を商品化してきた。たとえば、本DKシリーズ タイプEAと同じIEC60384-14 X1/Y1クラス認定品としては、DEシリーズ タイプKXが広く採用されてきた。タイプEAのコンデンサ素子にもDEシリーズと同様の円板型セラミックスを用い、DEシリーズで蓄積してきたセラミック技術を当DKシリーズにも展開している。それにより小型低背ながら、端子間耐電圧:AC4kVr.m.s,60秒間に代表されるIEC60384-14 Y1クラス品に要求される高耐電圧性能を満たしている。
高耐圧性能を示す一例として、DKシリーズ タイプEAとDEシリーズ タイプKX の端子間絶縁破壊電圧の比較結果を図5に示す。DKシリーズの絶縁破壊電圧の最小値はDEシリーズのそれと同等であり、安全規格要求の端子間耐電圧値(AC4kV)に対して十分に大きいといえる。
セラミックスと樹脂の複合部品の場合、それらの熱膨張係数やセラミックスと樹脂の密着性などをどのようにマッチングさせるかがセラミックコンデンサとしての信頼性を確保する際のポイントのひとつである。たとえば、セラミックスと樹脂の密着性が十分でない場合には、耐電圧性能や耐湿性能の低下を招く恐れがある。また、セラミックスと外装樹脂の線膨張係数が大きく異なる場合、温度サイクル時の膨張収縮量の差で生じる機械的ストレスにより、外装樹脂やセラミック素子にクラックが生じる場合もある。
参考までに、当DKシリーズとこれに相当するDEシリーズ タイプKXの耐湿負荷試験(60℃,95%RH,AC440V, 1000h)前後における絶縁抵抗値の変化を図6に示す。本DKシリーズとDEシリーズともに試験前後における絶縁抵抗値の著しい低下など耐湿性能の劣化を示す変化はなく、DKシリーズはDEシリーズと同等の耐湿性能を有している。また、DKシリーズは、構造上、大型サイズのチップ積層セラミックコンデンサを用いる際に生じる基板たわみによるチップクラックや冷熱サイクルにおける実装はんだクラックなどの懸念はない。これも当製品の信頼性を示す一端として触れておく。
商用電源ラインとグランド間を接続するYコンデンサに対する安全規格の要求事項は、端子間の耐電圧性能のほか、電極間の距離(沿面距離)や難燃性能などにも及ぶ。耐電圧性能は前述②の通りである。沿面距離については、製品本体の沿面距離や実使用の際に沿面距離が最も短くなると考えられるコンデンサを搭載するランド間の距離についても安全規格要求の8mm以上を確保できるようコンデンサ本体や端子形状に配慮した構造設計としている。
コンデンサ本体部をモールドする樹脂には難燃性試験条件で最もきびしいとされるUL94 V-0に対応するものを採用して安全規格の要求性能を満足している。加えて安全規格要求の端子外装間耐圧性能が確保できるように、外装樹脂の厚みも制御し生産している。これらにより、ULやCQC,KTCなど欧米およびアジアの主要な安全規格の認定を取得するにいたっている。認定を取得した安全規格の詳細については、表1に示す。
図4に示す通りDKシリーズ タイプEAを用いることで基板面からの実装高さを従来のラジアルリード付き部品と比較して大幅に抑えることができ、機器のさらなる薄型化を実現できる。また、表面実装対応により、基板実装方法や機器の設計の自由度が広がることも期待できる。
当DKシリーズ タイプEAは、2017年5月から、Murata Electronics (Thailand), Ltd.にて量産を開始した。以降、生産規模を順次拡大していく予定である。