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静電気のトラブルやESD対策、そして意外な活用法 ―静電気を活かした発電―

静電気によるトラブル/静電気を活用した発電に関する研究

国や地域によって、空気が乾燥する冬季にトラブルの種となる「静電気」。静電気は、文字通り静的、すなわち電荷*1が移動せず帯電*2の状態が維持されている電気をいいます。

衣服の摩擦などで帯電した人と帯電していない物体との間には、数kVという高電圧が生じる場合があります。このとき、人がその物体に接触または接近したとき、帯電していた電荷が物体へ瞬時に流れる放電が起こります。このような静電気現象は、ESD:Electro-Static Discharge(静電気放電)*3と呼ばれます。

また、帯電した物体同士の電荷の極性(プラス/マイナス)が同じ場合は反発し合い、異なる場合は引き合います。後者の場合、不要なチリ・ホコリなどが製品に付着する原因にもなります。

ここでは、このような静電気による代表的なトラブル、そして静電気の有効活用に関する例をそれぞれ以下に挙げます。

*1 電荷:電気は物質にもともと備わっている性質のひとつであり、その電気の源を電荷という。プラス(正)とマイナス(負)という2種類の極性があり、この電荷の振る舞い・挙動によって、さまざまな電気現象が引き起こされる。

*2 帯電:たとえば電荷が移動しにくい、電流が流れにくい物質である絶縁体同士を密着させてこすると、片方にプラスの電荷またはマイナスの電荷が多い状態となる場合がある。このように電荷がたまっている状態(電気を帯びている状態)を帯電という。

*3 ESD(静電気放電)に限らず、放電では電荷が移動する、すなわち電流が流れることからESDは静電気現象ではないように思われる。しかしながら、ESDは瞬間的で電流もわずかであることを踏まえ、ここではESDを静電気現象の範囲と考えることにする。 

静電気トラブル1:ESD(静電気放電)とESD破壊

ICなどの電子デバイスにESDが生じることで、電子機器の故障や誤作動の原因となることがあります。高電圧下での瞬間放電が電子デバイスに生じて機能しなくなることを「ESD破壊」といい、電子製品の製造工程はもちろん、製品購買者が使用する際にも、故障や不具合の原因となることがあります。

また、衣類などは摩擦による帯電とESDが特に生じやすく、たとえば製造現場では帯電した作業者が製品に触れることで肌に刺激や痛みといったストレスを受けます。さらには、帯電した作業者によってESD破壊による不良品を発生させてしまうこともあります(写真1)。

特にエレクトロニクス機器を扱う製造現場では、歩留まり率に影響するESD破壊に注意が必要のイメージ画像
写真1:特にエレクトロニクス機器を扱う製造現場では、歩留まり率に影響するESD破壊に注意が必要

静電気トラブル2:帯電によるチリ・ホコリなどの異物付着

空気中のチリ・ホコリや金属粉などの異物とワーク*4や製品が、それぞれプラス/マイナスまたはマイナス/プラスに帯電すると、前述のように双方の間に引き合う力が働き、後者に異物が付着します。

たとえば、金属製(導体)の機器の筐体や車体などに異物付着することで、塗装品質の低下を招くことがあります。また、樹脂製(絶縁体)のフィルムやシート、食品容器といった製品に異物が付着することにより不良品が発生し、また保管時にも細かい異物の付着により汚れることで、品質低下やクレームにつながる場合があります。さらに、薄いフィルム状の製品の製造・加工工程では、基材がヨレたり、隅がめくれたりすることで、塗膜を形成する薬剤や液体材料の塗布工程やロール巻き取り時に不具合が生じることがあります(写真2)。

*4 ワーク:製造工程における加工対象となる物。たとえば、金属製の筐体をプレス成形する工程ではプレス材を、その筐体を塗装する工程では筐体自体をワークと呼ぶ。 

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写真2:静電気による異物付着やヨレ、折れなどでフィルムのロール工程で不良箇所が発生することも

静電気の意外な活用:降雪時の静電気を発電に活用する研究

空気が乾燥する冬季には、さまざまな工業製品や人々の生活において、先に述べたようなトラブルを引き起こす静電気。それ以外でも、寒冷地におけるソーラーパネルへの積雪により、太陽光発電の効率が著しく低下するという、暖房の使用にともなう電力需要の増加と相まって、大きな問題となることがあります。

寒冷地ではソーラーパネルに雪が積もり、太陽光発電の効率が著しく低下のイメージ画像
写真3:寒冷地ではソーラーパネルに雪が積もり、太陽光発電の効率が著しく低下

こうした障害や問題ばかりを起こすと考えられてきた静電気ですが、降雪により生じた静電気を利用したエネルギーハーベスト*5に関する研究も行われています。

*5 エネルギーハーベスト:熱や太陽光・照明光、人の運動・機械の動作で生じる振動など、日常環境のエネルギーを収穫(ハーベスト)して電気エネルギーに変換する発電技術のこと。

たとえば、米国のある研究チームでは、雪との接触や摩擦で生じる静電気から電力を得る装置が研究開発されています。ある温度範囲において、雪はプラスに帯電することが知られています。接触・摩擦により、プラスに帯電する雪とマイナスに帯電する物体とが密着したり滑ったりすることで電圧が生じます。この原理をもとに、研究チームは雪を利用したエネルギーハーベスティングを実現し、このデバイスから電力を得ることに成功しました。このデバイスは薄さ、軽さ、柔軟性に優れているため幅広い用途が期待されています。

その用途例として、機能的な防寒具が挙げられます。衣類の表面や靴の裏にデバイスを装着することで発電し、ヒーターで体をあたためたり、ウィンタースポーツなど降雪中の屋外活動における動きや身体の状態をセンシングしたりといったことが、あらかじめ充電した二次電池などを使うことなく可能となります(写真4)。

また、電力供給が困難な場所への気象観測機器の設置と運用が、デバイス自体でのセンシングを可能とするこの仕組みを採り入れることで、容易化できると考えられます。

雪との接触で発電するデバイスを衣類に使用することで、ウェアラブルなヒーターやセンサなどに必要な電力をまかなうのイメージ画像
写真4:雪との接触で発電するデバイスを衣類に使用することで、ウェアラブルなヒーターやセンサなどに必要な電力をまかなう(写真はイメージ)

このように新しい発想のもと、エネルギーハーベストに関する研究開発が多様化・進展していくことで、エネルギー獲得の新しい選択肢が増える未来に期待が膨らみます。

製造現場でも設計段階でも必須―静電気対策とESD対策―

静電気は、上記のようなエネルギーハーベストなどの利活用のほか、プリンターやコピー機、集塵機器、各種製造・加工機器などにも利用されています。しかし、こうした有益な面よりも、冒頭で挙げたようなESD破壊や異物付着など、トラブル面の方の印象が強いといえます。そして、これを避けるには、これからもさまざまな対策を徹底するほかありません。ここでは、その具体的な対策例をいくつか紹介します。

製造工程での不良発生を防ぐための静電気対策

帯電した電気、すなわち静電気が生じる原因として、物体を動かしたり人が動いたりすることによる摩擦で生じる帯電(摩擦帯電)がよく知られています。製品の製造工程においても、このような帯電は頻繁に起こります。これらが原因となる静電気トラブルへの代表的な対策として、対象物にエアでイオンを吹き付けるなどして帯電した電荷を中和する「除電器」の使用が挙げられます。

除電器には、搬送ラインなどで帯電するワークの静電気を中和して除去するバータイプや、手作業での組立工程などで生じる静電気を中和するファン搭載のブロワータイプ、狙ったスポットに集中的にエアを吹き付けながら除電して静電気で付着した異物を取り除くガンタイプなど、さまざまな形態があります。
 
また、作業者の手からESDが生じないよう、リストバンドを装着して静電気をグラウンド(GND)に逃がすことも、人によるESD破壊での不良品発生を防止する基本的な対策といえます(写真5)。

作業者がリストバンドを装着し、帯電した静電気を外部へ放電することでESD破壊を防止のイメージ画像
写真5:作業者がリストバンドを装着し、帯電した静電気を外部へ放電することでESD破壊を防止

電子機器は使用時のESD対策も重要。「ESD保護デバイス」での静電気対策

電子機器におけるESDなどの静電気障害は、製造工程だけでなく購入者の使用時にも起こりえます。たとえば、スイッチの操作などで、電子機器内のICなどの電子デバイスにESDが生じると、誤作動やESD破壊による故障を招きます。そのため、設計段階での静電気障害対策・ESD対策が求められます。
 
使用時の電子機器において、ボタンやUSBなどのプラグをコネクタに抜き差しする各種外部インターフェースなど、人が手で操作する箇所が特にESDが発生しやすくなります。別の言い方をすれば、操作によってICに高電圧が瞬間的に印加されてESDが生じると、電子機器の故障や不具合が起こるリスクが高くなります(図1)。したがって、電子機器でESD対策が必要となる箇所は、使用者が接触・接近する箇所すべてといっても過言ではありません。

ESD対策なしの場合、静電気により生じたESDが直接ICに到達することになり、ICが損傷する原因にのイメージ画像
図1:ESD対策なしの場合、静電気により生じたESDが直接ICに到達することになり、ICが損傷する原因に

このようにして生じるESDの障害を防ぐためには、帯電している電荷をグラウンド(GND)へ逃がす必要があります。これを実現するデバイスを「ESD保護デバイス」といい、突発的な故障などを防止し、電子機器の安定動作のために欠かせないデバイスといえます。

ESD保護デバイス「TVSダイオード」とその働きについて

電子機器に用いられる代表的なESD保護デバイスのひとつが「TVSダイオード(TVS Diode)」です。その接続例や働きを図2に示します。 

外部インターフェース(I/O)とICの間にTVSダイオードを並列設置した例のイメージ画像
図2:外部インターフェース(I/O)とICの間にTVSダイオードを並列設置した例

図2において、TVSダイオードは外部インターフェース(I/O)とICを結ぶ信号ラインとグラウンド(GND)の間に設置されています。この通常動作のときTVSダイオードのスイッチ作用はOFFの状態であり、信号ラインとGNDは絶縁されています。

一方、I/Oが何らかの原因で帯電し、I/O-GND間が高電圧となったとき、ESDが生じやすくなります。もしESDが生じて侵入してきた場合、TVSダイオードはONの状態となり、ESDは信号ラインからTVSダイオードを経由してGNDに流れます。

TVSダイオードは、このような働きをすることでICをESDから保護します。

特に近年の情報機器は、小型化とともに、たとえば高速データ伝送のI/OであるUSB4も対応する、より高い電圧・大きな電流に対応した電源入出力機能(USB PD:USB Power Delivery)が普及し始めたことにより、情報機器でのESD対策はより重要になったといえます(写真6)。

データ伝送と電源入出力を兼ねるインターフェースの普及で、ESDおよびサージへの対策はより重要にのイメージ画像
写真6:データ伝送と電源入出力を兼ねるインターフェースの普及で、ESDおよびサージへの対策はより重要に

なお、村田製作所では、電子機器の小型化とデバイス実装の高密度化といった要求に応えるESD保護デバイスとして、小型化したTVSダイオードなどを各種取り揃えています。TVSダイオードに関する詳細は下のリンクよりご覧いただけます。

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