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イオンとオゾンによる空気改質 ニューノーマル時代の家電で世界が求める標準機能に(後編)

新型コロナウイルス感染症から身を守るための対策をし、居室空間を安全で過ごしやすい環境へと改善したいと考える消費者が世界中で増えています。そして、空気清浄機やエアコンなどに組み込み、イオンやオゾンの効果で空気を改質する「イオナイザ/オゾナイザ」への期待が高まっています。世界中の消費者に向けて、空気改質機能を盛り込んだ家電製品を届けるためには、扱いやすく、ユースケースに合った濃度のイオンやオゾンを発生できるデバイスが必要になります。ムラタの商品企画に携わる担当者に、イオナイザ/オゾナイザの動作原理とムラタのモジュールならではの強み、さらにはPM2.5の除去のエビデンスなどについて聞きました。

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モジュール事業本部 パワーモジュール事業部 マネージャー 横山

高電圧の印加でイオンやオゾンを生成

――イオナイザとオゾナイザの違いを教えてください。

イオナイザは、空気の分子をイオン化させ、イオン(O2-、OH-、N2+など)を生成、放出します。一部製品では、イオンと一緒に、オゾン(O3)も併せて放出します。一方、オゾナイザは酸素分子(O2)からオゾンを効率よく生成し、放出します。イオンは生成しません。それぞれ発生子の構造が異なり、別の製品として提供しています。

――それぞれ、どのような原理でイオンやオゾンを生成し、空気中の浮遊微粒子の除去や除菌・脱臭などの効果が得られるのでしょうか。

イオナイザでは、針状電極に直流の高電圧を印加することで電荷集中を発生させてコロナ放電させ、これによって周辺の空気分子にエネルギーを与えることで、分子間で電子のやり取りを発生させます(図4)。そして、電子を受け取った分子がマイナスイオンとなります。ムラタでは、独自のイオン発生構造を採用することで、高電圧印加時にオゾンも合わせて発生できるようにしています。

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図4 イオナイザでイオンを発生させる原理と、発生器の構造

イオンは電荷を持っており、そのクーロン力によって浮遊微粒子を引きつけて捕獲し、空気中から除去します。一般的にこの機能で空気中の埃などを清浄しています。

空気清浄機などでは、フィルタを使って微粒子を除去する方法も使われていますが、イオナイザを併せて利用する事で、埃や微粒子の捕獲を促し、効果的にフィルタで埃などを除去することができるわけです。

――では、オゾナイザはどのような原理で動作するのでしょうか。

オゾナイザでは、電極を内部に形成したセラミック基板に交流の高電圧を印加することで、基板表面に放電を発生させます(図5)。すると、放電エネルギーにより、酸素分子が分離して酸素原子となります。この分離した酸素原子が他の酸素分子と結合することで、オゾンを生成します。

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図5 オゾナイザでオゾンを発生させる原理と、発生器の構造

オゾンには酸化力があります。この性質を利用して除菌、抗ウイルスや消臭を可能にしています。

蓄積してきた高電圧技術とセラミック基板技術を応用して開発

――ムラタでは、イオナイザ/オゾナイザを、どのような経緯でいつ頃から開発してきたのでしょうか。

ムラタでは、2000年付近のマイナスイオンブームを踏まえ、2004年頃からイオナイザの開発に着手しました。当初言われていたマイナスイオンの癒しだけではなく、PM2.5など健康に害をもたらす微粒子が社会問題になり、それを除去する手法としてマイナスイオンに対する注目が集まり、様々な家電製品にマイナスイオン発生器が搭載され始めていました。

マイナスイオン発生器を作るためには、高圧電源技術やセラミック基板技術などが必要です。ムラタは、高圧抵抗器や高耐圧コンデンサ、フライバックトランスを前身とする高圧トランスなどの開発を通じて、マイナスイオン発生器に必要な技術の一式が揃っていました。加えて、ムラタの基幹技術であるセラミック焼成や積層技術での長年の経験を生かせば、より高性能なイオン発生器を開発できると考えました。これがイオナイザの開発に着手した経緯です。

そして、信頼性が高く小型のモジュールを実現するイオナイザの開発に成功しました。その後、セラミック基板を用いたイオン発生子の構造にさらなる改良を加えることで、オゾンのみを発生させるオゾナイザの商品開発にも成功しました。

――現在、どのくらいの規模で生産しているのでしょうか。

現在では新型コロナウイルス対策に向けて引き合いが増し、日本市場のみならず海外市場も含めて月産40万~50万台のモジュールを出荷しています。今後、生活様式がニューノーマルへと変貌する中で、エアコンなどの標準機能としてイオナイザ/オゾナイザが搭載されれば、さらに増えていくとみています。

複合的効果が得られ、信頼性が高いムラタのモジュール

――多くの企業が、イオンやオゾンなどを使って除菌や消臭などに向けた技術を開発に取り組み、家電製品に搭載するようになりました。ムラタのイオナイザ/オゾナイザのそれらの技術に対する優位性をお聞かせください。

1台のイオナイザ・モジュールで、イオンとオゾンの両方を発生させる点は、ムラタのイオナイザの特長です。これによって、空気清浄機やエアコンに組み込んだ際に、空気清浄だけでなく、除菌や消臭など複合的な効果が期待できる応用製品を作り出すことができます。

また、ムラタの発生子は、低い電圧でイオンやオゾンを生成できます。低電圧化を実現することで故障率が低く、発生子への異物の付着や放電針腐食が抑制されて長寿命化しています。

――ユーザからすれば、空気清浄機などを稼働させたら、すぐに効果を実感したいと考えると思いますから、ありがたい特長です。

ただし、オゾンについては人体に影響を及ぼす恐れがある気体ですから、常時利用する機器などでむやみに高濃度化してしまうのは危険です。ムラタの製品では、人が関わらないシーンでは高濃度のオゾンを発生させ、それ以外はオゾンの発生を抑えるといった制御が可能です。イオナイザには、オゾン発生量を極力抑えたモデルも準備しています。

使用する国や地域によっては、オゾンの発生量に対して規制が課せられるところもありますから、仕向地の法令に適合した応用機器を作るためには、こうしたオゾン濃度の制御が重要になります。

――むやみに高濃度化すればよいというわけではないのですね。

発生子と電源を分離して、応用機器の設計自由度を向上

さらに、発生子と高圧電源を分離した構造を採用しているため、組み込む際に応用機器のメカ設計の自由度が高い点も優位性として挙げることができます。高電圧を発生させていますので、実装位置が制限される可能性がありますが、分離構造とすることで、搭載時の自由度が高まります。また、発生させたイオンやオゾンは、ファンなどを用いて対象物に照射もしくは拡散させる必要がありますが、発生子と高圧電源を同じ場所に配置すると、風の流れを妨げてしまう可能性があります。ムラタのモジュールならば、それぞれを別の場所に配置して、理想的な環境を作りやすくなります。

――信頼性が高く、応用機器に組み込みやすい点は、これから応用機器を広げる上で大きなメリットになりそうですね。

ムラタのイオナイザ/オゾナイザ・モジュールは、発生子と高圧電源の仕様を擦り合わせて、ベストな性能が得られる形で提供しています。それぞれを別の企業から調達して応用機器を構成しているユーザ企業も多いのですが、電源の電圧が高すぎたりすると、オゾン発生量が高くなりすぎたり、発生子にダメージを与える可能性がありますし、低すぎるとイオンやオゾンの放出量が行われない可能性が出てきます。両者を合わせて設計することで、効果的で信頼性の高い製品を調整し提供しています。

ユースケースに合わせて仕様を最適化した製品を用意

――現在提供しているイオナイザ/オゾナイザのラインナップをご紹介ください。

空気清浄機やエアコンなど、常時利用のマイナスイオンによる空気清浄機能が必要な場合に向けて4種類のイオナイザを用意しています。その中には、オゾンを発生させるタイプと逆に極力抑制しているタイプを揃えており、必要な機能に応じて選択できるようにしています。イオナイザには、直流電源を入力するタイプと交流電源を入力するタイプがあり、これまで交流入力の製品はAC220~240Vに対応した製品を投入していたのですが、2021年春にはAC100~120V入力の製品も投入予定です。さらに、お客様の使い勝手を考慮して、発生子と高圧電源を結ぶ出力線長の異なる製品もあります。

それら4種類以外にも、プラスイオンを発生させる機種、ドライヤなどに組み込む事で効率よく除電を行える機種も用意しています。

一方、除菌・消臭のみの機能を求められる場合に向けて、オゾナイザを用意しています。オオゾナイザは、現在オゾンの発生量が異なる4種類を用意しています。外部信号によるオン/オフ機能を有しており、ユーザ企業が装置に適したオゾン濃度を設定することが可能です。さらに、ヒーターを備えて高湿度環境でも利用できる製品もあります。これは、食洗器や洗濯機など湿度が高い環境で利用することを想定した製品です。今後はオゾンの発生量を高めた製品リリースを予定しています。

――ユースケースを熟慮して、必要な仕様の製品を揃えているのですね。

今後、さらにユースケースを詳細に考えながら、ラインナップを拡充していく予定です。グローバル展開を考えた際には、欧州やアジア向けでAC入力のモジュールが扱いやすいという声が出てきています。従来採用されていたデジタル機器の場合、機器内部のDC入力があった為、その電圧を利用して、DC入力タイプの製品を採用してもらえたのですが、ニューノーマルでの除菌機能をあらゆる機器の標準搭載機能とするためにはAC入力が必要になると考えています。

――想定される応用で得られる効果のエビデンスを紹介してください。

イオナイザで発生させたマイナスイオンによって、空間内でのPM2.5の清浄効果をムラタで社内評価した結果を紹介します(図6)。粒子径が2.5μm以下のものをPM2.5と呼んでいるわけですが、試験対象となった空間に浮遊していた微粒子のうち、粒子径が0.3μm~0.5μmのものが約85%、0.5μm~0.7μmのものが約10%、0.7μm以上のものが約5%でした。

このうち、0.3μm~0.5μmの微粒子は、そのまま放置すると空気中に漂い続けてしまいます。これがイオナイザを稼働させることで捕獲が促進され、60分後には同サイズの微粒子を40%以上削減できたことを確認しています。

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図6 ムラタのイオナイザによるPM2.5の除去効果

――PM2.5は、中国や韓国など東アジア全体で問題になっている大気汚染です。この結果を見ると、健康を維持するためには手放せませんね。

加えて、イオナイザ・オゾナイザには除菌・抗ウイルス効果があります。

新型コロナウイルス感染症は、世界的に沈静化すると思いきや第二波、第三波とより大規模な流行が続きました。何らかの対策を継続的にとり続けていくことが必須になると考えます。ニューノーマルな生活の中で、ムラタのイオナイザ/オゾナイザで少しでも社会貢献できればと思っています。

見えない脅威を人知れず取り除くイオナイザ/オゾナイザ

コロナ禍によって、世界中の人々が、見えない脅威が身の回りに確実にあることを意識しながら生きることを強いられました。ただし私たちは、コロナウイルスだけでなく、PM2.5や細菌、アレルゲンなど多くの目に見えない脅威の中で生きています。それらをコロナウイルスと同様にハッキリと意識し、確実に対策を施せば、より安全で健康、質の高い生活を送ることができます。

ムラタは、居室空間の衛生・清浄化に目覚めた世界の消費者のニーズに応えて、これからもより効果的な特性を持つイオナイザ/オゾナイザを開発し続け、提供していくと語っています。ただし、目に見えない脅威への対策をサポートするツールであるため、その効果はともすれば実感しにくいものになりがちです。そこでムラタは、イオナイザ/オゾナイザの効能を明確に示すため、大学や評価機関と共に様々なユースケースを想定した試験を実施し、エビデンスを得る取り組みを続けています。記事中では、PM2.5に対する効能のエビデンスを紹介しました。その他にも消臭、防カビ、など、多様な効能の試験結果を保有しています。

健康維持や衛生管理に対する消費者の意識の高まりによって、見えない脅威を取り除く機能は、エアコンなど家電製品に当然搭載されるべき必須機能になりつつあります。ムラタのイオナイザ/オゾナイザは、人知れず私たちの健康をサポートする頼れる存在になりそうです。

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