ノイズ対策ガイド

チップフェライトビーズの誕生秘話(前編)

【 「フェライトってなんですか?」 】

1985年5月。私は本社(村田製作所)への出張で、福井から京都に向かう雷鳥(特急列車)に乗っていた。その出張が入社1ケ月目のはじめての出張だった。列車の中で部長から「フェライトの面実装部品が出来そうなのでその話を聞きに行くんだよ」と出張の目的を聞いた。私は「フェライトってなんですか?」と、今では恥ずかしい質問をしたのを覚えている。部長の「鉄の錆びたやつだよ」との回答に「そうなんですか」と素直に納得した。
それが、私とフェライトとの出会いだったのかもしれない。

【Qが低い積層フェライトを何に使うのか?】

巻き線タイプのQ値を目指して開発をスタートした積層フェライトであったが、Q特性が高いものが出来ず何か利用できるものがないか模索しているところであった。Qが低いのはノイズフィルタとしては逆に優位なことであり、ノイズフィルタとして商品化を検討していくことが決まった。
当時の村田製作所本社(現在の長岡事業所)で開発試作を行い、福井村田製作所で商品開発(構造設計、各種評価)を行うことになった。
 

【試行錯誤の商品開発】

当時のEMIグループ(現在のEMI事業部)はコンデンサ事業部傘下から1つの課として独立したばかりのわずか20人弱の組織だった。そこに新人として配属された私が商品開発を行うことになった。EMIでは初めてのチップ部品の商品開発であり、その当時、村田製作所での面実装部品と言えば積層コンデンサ(GRシリーズ)、チップコイル(LQHシリーズ)の2種類しかなかった。

「どんな特性が必要なのか?」「外観寸法は?」「内部構造は?」「信頼性評価はどんな評価をすればいいの?」「面実装ってどんな評価をすればいいの?」「そもそも面実装ってどんな検討が必要なの?」と、わからないことばかりだった。
「ノイズフィルタってなに?」という初歩的な質問についても形振り構っていられない状況であり、とにかく、怖いもの知らずに、いろんな部門・人に聞き回ったのを覚えている。今思うと新人の特権だったとつくづく思う。

特性面ではリード付きフェライトビーズ(BL01/02シリーズ)の特性を目指した。サイズは、ターゲットとなるアプリケーションのシリアルI/Fラインに並べて実装された時に使いやすいことを意識した。その結果、外形寸法の幅を狭くする4516サイズという細長い寸法に決まった。
設計面では、その頃の積層フェライトは、現在より焼成温度が高く内部電極をAg100%で試すと焼成時に拡散・蒸発してオープン不良が多発した。このため、Agの拡散・蒸発を抑えるためにAg/Pd品で試作をすすめた。導通を安定させるためにPd100%で進めたかったが、価格的に安くするため構造面で対策も加えることでAg/Pd品での量産化目処をたてることが出来た。外部電極はNi/Snめっきでの信頼性の不安もあり、Ag/Pd厚膜での商品化とした。これがあとでクレームに結び付くのである。

このころには、評価用サンプルが出来たが、「特性保証はどうするのか?」が課題として残っていた。当時のリード付きフェライトビーズは外形寸法の保証しかしていなかったので参考になるものはない。ノイズフィルタなのでインピーダンス保証はすぐに決まったが、どの周波数で保証するのか?は悩みどころであった。公規格は無いし、先行するメーカーも無かったので何も参考に出来なかった。最終的に当時ノイズが問題になる30~300MHz帯域に入っている100MHZでのインピーダンス(Z)と直流抵抗(RDC)を保証する形に自分たちで決めて、各種信頼性評価を開始することが出来た。

商品化の終盤にエンボステープの設計も終わり、小松村田製作所の実装機を借りて実装評価を行わせてもらうことになった。しかし、4516サイズの寸法は細く、その当時の位置決め方式であるメカニカルセンタリング方式*に問題があることが分かった。この部分をどのように使っていただくかを多くの方々に協力してもらいクリアして、実装方法も含めてお客様に提供する形になった。
このように多くの人たちに協力していただきながら、商品開発も終わり(終わったと言って本社での試作ラインでの試作が終わった程度)、1986年秋頃に初めてのBLM41/31シリーズの社内の設計審査を受審した。

*メカニカルセンタリング(Mechanical centering method)方式・・・部品の中心を外形から機械的に規制し、位置決めする方式。

当時のBLM31シリーズ(写真左)とBLM41シリーズ(写真右)

~後編(2012/12/14号)へ続く~

 

執筆:村田製作所 EMI事業部 H.T.

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