1on1ミーティングで部下の満足度を上げるには?(前編) ――対話の「見える化」で最適なスタイルを模索する

最終更新日:2024/03/31

1on1(ワンオンワン)ミーティングとは、上司と部下の間などで行われる面談型の1対1の対面コミュケーションのことです。一般的な人事評価面談とは異なり、週1回など短いサイクルで、30分程度の短時間で定常的に行うところが特徴的です。上司が一方的に業務の指導や指示を行うのではなく、部下に寄り添いつつ話を聞き、アクティブヒアリング的に質問と対話を重ねながら、時にはアドバイスを行い、自らの成長を促進していくという点が注目されています。

人材の獲得はもちろん維持していくことも難しい米国のシリコンバレーにて、1 on 1 meeting (one on one, 1-on-1)が企業文化としても行われており、同様の問題や課題を抱える日本企業にも導入と実施そして活用が進んできています。その目的やメリットとして、相互理解と信頼関係の構築、モチベーションの向上、自律的な成長支援からの人材育成、さらにはキャリアアップと定着率向上といった効果があげられます。

しかし、1対1で行うためミーティングであるために、その実態が当事者同士にしか分からず、質の良し悪しが客観視しづらいという課題も。実際、定期的に1on1ミーティングを開催しているにも関わらず、思うように効果が出ずミーティングが雑談化してしまったり、進め方を誤るとモチベーションが低下し信頼関係が失われてしまったりと、弊害がでてしまうこともあるようです。

今回、1on1ミーティングに課題を感じていた村田製作所(以下、ムラタ)のデジタルマーケティングやサービスに取り組む部署において、改善プロジェクトを発足しました。

1on1ミーティングにおける課題

まずは、「1on1ミーティング改善プロジェクト」について、推進者の室伏に話を聞きました。

――今回、1on1ミーティング改善プロジェクトの発足に至った経緯について教えてください。

元々私の所属する課では、上司の原田が「人材育成」や「従業員満足」を目的にコーチングを意識した1on1ミーティングを、コミュニケーションあるいはマネジメントの一つとして取り入れていました。そこでは、部下の話したいことを注意深く、共感しながら聞く、傾聴に重きを置いたスタイルの進め方で行われていました。傾聴を繰り返し行うことで、部下自身の考えの整理が進み、気づきが生まれる、自ら解決策を見出し、リーダーシップをもって、チームビルディングをしながら業務遂行してもらえるような効果を生むのでは、という目的を持っての、組織的と言うよりも個人レベルでの取り組みだったようです。もちろん人事評価につながるようなものとして行っていたわけではありません。

傾聴という対話スタイルは、担当業務についてある程度経験のある部下の場合はうまくいっていたようです。しかし、まだ経験の少ない若手などの場合、知識やスキルに乏しいため、原田からの問いかけに対して対話が行き詰まってしまうことで、追い詰められたりするような印象を与え、結果的にはデメリットの方が大きくでてしまったこともあったようです。目的達成はおろか弊害がでているという状況です。
また、対話というコミュニケーション手法は、目に見えないので実態が掴みにくく、うまくいかない要因を見出しづらいことも、1on1ミーティングの問題となっていました。

そこで、部下にとって最適な1on1ミーティングの対話スタイルを模索すべく、今回の改善プロジェクトを発足することとなりました。

プロジェクト推進者:室伏

対話スタイルの「見える化」×部下へのアンケートで検証

――1on1ミーティングを導入するだけでは必ずしも成果に繋がるとは限らないのですね。プロジェクトはどのようなことを実施したのでしょうか?

1on1ミーティングにおける最適な対話スタイルを探るべく、約3か月間、10名ほどの部下を対象に行いました。1人あたり1か月ほどの間隔を空けながら、合計3~4回ずつ開催しました。そこでは、原田が研修で学んできたコーチングを意識した[傾聴]だけでなく、[雑談]・[議論]・[指導]の4つの対話スタイルを意図的に使い分けてもらいながら最適な対話スタイル・進め方を検証しました。その際、まず対話を「見える化」する必要があると考え、ムラタで開発した対話の状況をセンシングするツールを使用することにしました。

このツールを使用すると、上司・部下ともに発言時間の短い対話ラリーは[雑談]、中程度から長めの対話ラリーは[議論]、部下の発言時間が長く上司の発言時間が短い対話ラリーは[傾聴]、その逆で上司の発言時間が長く部下の発言時間が短い対話ラリーは[指導]としてデータ抽出されます。

上司・部下の発言テンポの長短とその組み合わせによって、対話タイプがどう分類されるのかを表した図

こうして「見える化」した対話スタイルと部下の満足度にどのような相関関係があるのかを検証するために、1on1ミーティング参加者にアンケートを実施しました。いくら上司が対話スタイルを試行錯誤しても、それを部下がどう感じるかが把握できない限り1on1ミーティングの良し悪しは判断できないと思ったからです。

アンケートは、悩みや課題を上司に話ができたかどうかを表す「悩みや課題の開示度」、悩みや課題に対して解決に向けてのイメージが持てたかどうかの「解決策の明確度」、他の課でも1on1ミーティングを行うべきと思うかの「満足度」の3項目を用意し、それぞれ10段階で回答してもらいました。

こうして、対話の「見える化」×部下へのアンケートを組み合わせて客観的に探っていきました。

1on1ミーティングという2人きりの対話は、なかなか実態が掴めないもの。それを「見える化」することで効果の改善の糸口を探ることができそうです。はたして最適な対話スタイルは見つけられたのでしょうか。

後編では、検証結果やその後1on1ミーティングにどのような変化があったのか、上司の原田と部下の立場で1on1ミーティングを行った増山に話を聞きました。