スマートハウス&スマートシティの防災対策のイメージ

増加する大規模災害に備えて ――スマートハウス&スマートシティの防災対策

1. 人命にも関わる停電のリスク

2. 防災対策を家づくりに組み込んだ「スマートハウス」とは?

3. 災害に備えた街づくり「スマートシティ」とは?

4. 街全体が支え合い、災害に備える社会へ

1. 人命にも関わる停電のリスク

まずは、興味深いデータをご紹介します。平常時の日本における1軒あたりの年間停電時間は、約20分というものです。イギリスは約70分、アメリカは100分超であることを考えると、日本の電力供給は世界的に見ても安定していることが伺えます(資源エネルギー庁調べ)。

ところが、2018年度に関して、日本の年間停電時間は225分にも及びました。これには、北海道胆振東部地震や台風などの災害によって引き起こされた停電が影響しています。また、2019年も台風15号によって千葉県を中心に最大93万戸が停電し、全面復旧(一部除く)まで2週間以上を要しました。ここ数年の大規模停電によって、災害時の電力供給に大きな注目が集まっています。

こうした大規模停電によって引き起こされるのは、単に電化製品が使えないということにとどまりません。冷蔵庫が停止することで中身の食糧が腐敗し、トイレの水が流せなくなることで室内の衛生環境が悪化するなど、二次的な被害が発生します。さらに、真夏や真冬にエアコンが止まることで熱中症・低体温のリスクが高まるなど、人命に関わるリスクも生じます。事実、2019年の台風15号では、千葉県内で救急搬送された熱中症患者数が全国最多を記録しました。

一方、ビジネスにおいても、電話やメールが通じないばかりか、パソコン内のデータ消失、生産ラインの停止、物流の麻痺など、その経済的損失は計り知れません。災害時でもビジネスを継続し、被害を最小限に抑える対策=BCP(事業継続計画)に注目が集まっているのも、ここ数年の傾向だと言えます。

災害による停電は人々の不安感を煽り、物資の需要が増すと同時に物流が麻痺するため、深刻な品薄状態に陥ります。東日本大震災時にコンビニエンスストアから食糧が消えたように、停電が日常生活に及ぼす影響は計り知れません。

2. 防災対策を家づくりに組み込んだ「スマートハウス」とは?

2018~2019年の一連の停電を受けて、資源エネルギー庁は検証チームを設置しました。見えてきたのは、日本の電力供給システムの脆弱性です。

大規模な発電所が広域の電力を一手に担う「一極集中型」であることや、電力会社の人員不足など、さまざまな問題が浮き彫りになりました。しかし、これらの全面的な改善は、一朝一夕でできることではありません。そして、日本が災害大国であることも紛れもない事実。だからこそ、停電に対する備えは必要不可欠なのです。

そこで注目を集めているのが「スマートハウス」です。スマートハウスとは、IoTを活用してエネルギーマネジメントを行い、「創エネ」「蓄エネ」「省エネ」を実現する住宅のこと。ちなみに、IoTを駆使して安全で快適な住宅を実現するスマートホームとは異なるものです。

スマートハウスの核となるのは、エネルギーを管理・最適化する「HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)」です。HEMSが住宅内の電化製品のエネルギー使用量を“見える化”し、効率的にコントロールすることで省エネを実現。さらに、ソーラーパネルなどを使って太陽光からエネルギーを創り出し、それを家庭用蓄電池に蓄えることで、非常時にも電力を使用できる防災対策になります。創り出したエネルギーを使うのではなく、災害時に備えて“備蓄する”発想が広がりつつあるのです。

上記に加え、耐震性に優れ、雨水をタンクに貯水して非常時のトイレ用水に使うなど、スマートハウスはあらゆる面で災害に強い家だと言えるでしょう。

ソーラーパネルでエネルギーを創り、蓄電池に蓄えるとともに、電化製品などに使用するスマートハウスの概念図。非常時の電力供給はもちろん、電気料金の高い夜間に蓄電池の電力を使うことで、電気代の節約にもつながります。

3. 災害に備えた街づくり「スマートシティ」とは?

エネルギーを効率的にマネジメントするスマートハウスに対し、その考え方を街や地域にまで広げたものを「スマートシティ(またはスマートコミュニティ)」と呼びます。先進的技術を活用することで街や地域の機能・サービスを効率化、高度化するという考えに基づき、街全体のエネルギーマネジメント、交通システムの整備、行政サービスの円滑利用、防犯をはじめとする安全性の向上など、その取り組みは多岐にわたります。

電力供給に焦点を当てて、先進的な取り組みを行う自治体の事例を見てみましょう。

地産地消型の電力供給網「マイクログリッド」

2019年の台風15号で、千葉県睦沢町が“停電を免れた街”として注目を集めました。睦沢町は地元で産出される天然ガスを利用した発電設備と自営の送電線を構築し、大手電力会社の送電線から独立した、地産地消型のシステムを所有していました。このシステムによって、停電時でも道の駅と周辺の町営住宅に電力を供給することができたのです。

このように、地域の電力需要を小規模な発電施設が担う電力供給網のことを「マイクログリッド」と呼びます。睦沢町では主に天然ガスを利用していますが、マイクログリッドには太陽光や風力などの再生可能エネルギーも利用できます。大規模な発電所に比べて導入コストが安く、送電時のエネルギーロスが少ないことも特徴です。

 

街中の発電・蓄電設備をIoTでつなぐ「仮想発電所」

マイクログリッドと同様に注目を集めているのが「VPP(ヴァーチャル・パワー・プラント)」です。各地に分散する小規模な発電・蓄電設備をIoT技術でつなぎ、ひとつの発電所のように機能させる考え方で、「仮想発電所」とも訳されます。エネファームなどの家庭用燃料電池もIoT技術でつなぐことができるため、個人住宅や事業所、工場などにある、“あらゆる発電・蓄電設備が活用の対象”になるのです。

ひとつひとつが扱える電力は微量でも、多くの発電・蓄電設備をつなぐことで大規模な電力となります。さらに、IoT技術で需給状況をモニタリングすることで、需要が少ないタイミングに供給を制限したり、需要のピークに備えて複数の蓄電池に電力を分散したりと、効率的な電力供給を行うことができます。災害によって主要な電力供給がストップしても、街全体で支え合うことが可能になるのです。

神奈川県横浜市では、防災力向上を目的としたVPP構想事業として、2016年度から小中学校などに蓄電池を設置。また、福島県郡山市や宮城県仙台市などの東北地域も電力会社と連携し、公共施設に太陽光発電設備や蓄電池を設置して実証実験を進めています。

 

4. 街全体が支え合い、災害に備える社会へ

 

スマートシティ構想において、マイクログリッドやVPPを導入した実証実験・実用化は世界各国で進んでいます。スマートシティ化で先頭を走るシンガポールは、2016〜2020年の5ヵ年計画として、エネルギー部門を含む研究開発に莫大な予算を割り当てました。また、2019年には、風力発電よりも安定しているとされる、潮流発電の実証事業も開始。日本を含むアジア海域での商用化を見据え、約1年をかけて検証を進めるとしています。

日本では、大手ハウスメーカーが新しい電力供給システムの活用に積極的に取り組んでいます。これまでに開発してきたスマートハウスを、マイクログリッドなどの仕組みでつないだ大規模な戸建街区の計画を進めています。主流になっているのは、それぞれの住宅に太陽光発電設備などを備え付け、創出されたエネルギーをエリア全体で共有していくもの。戸建街区で小規模なスマートシティを作る構想で、環境にもやさしく、災害時に街全体が支え合うことができます。

大型発電所による一極集中型から、住宅で「創エネ」「蓄エネ」「省エネ」を実現するスマートハウス、さらには、街全体で支え合うスマートシティへ。停電時のリスクを軽減する電力供給のあり方は、私たちが暮らす街の未来の姿でもあるのです。

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