製品技術紹介

自動車用ワイヤレス給電などの共振回路に最適な中高圧低損失積層セラミックコンデンサ

1.はじめに

電波新聞第2部「ハイテクノロジー」2019年8月23日号に掲載された内容を再構成したものです。

掲載誌:電波新聞第2部「ハイテクノロジー」2019年8月23日号

株式会社村田製作所(以下、当社)は定格電圧が630V、1000Vで低損失材料を使用した積層セラミックコンデンサを開発した。自動車用ワイヤレス給電(以下、WPT)、EV・PHV用オンボードチャージャー、LLC電源など大電力用途に内蔵される共振回路を用途としている。

これらの共振回路用コンデンサには10nF以上の大きくかつ安定的な静電容量が必要となるため、かつてはフィルムコンデンサしか選択肢がなかった。しかし、現在ではフィルムコンデンサとの比較において以下のメリットのある積層セラミックコンデンサが主流となっている。

  • 体積が小さい
  • 低発熱(低ESR)である
  • ESLが低い
  • 長期信頼性に優れている
  • 最高使用温度が高い

製品形態としては一般的なチップコンデンサタイプとチップコンデンサに金属端子を付けた2タイプがある(表1参照)。

金属端子タイプは金属端子を付けることにより大型サイズチップ(5750Mサイズ)の2段積みが可能となり、実装面積が削減でき自動車市場で懸念される「はんだクラック」のリスクを減らす効果もある。

表1. 共振回路用コンデンサのスペック

2.市場トレンド:WPTの増加と大型電源における高効率化技術LLC共振回路採用の増加

①WPTを採用する製品の拡大

WPTを搭載する製品はスマートフォン、ウォッチ、タブレットのような小型製品だけでなく、自動車、製造工程用搬送ロボット、ドローンなどの大型製品においても広まっている。

WPTにおいてはLC共振回路を利用して大電力のやり取りを行うため、低損失共振回路用コンデンサが必要となる。

今回開発した定格電圧630V、1000Vの本製品は、このような大電力用途での使用に適した製品設計となっている。

②LLC共振回路を採用する大型電源の増加

EV・PHV用オンボードチャージャー、サーバー用電源、インフラ機器向け電源、大型設備向け電源など100Wを超えるような大型電源において高効率化を実現するLLC共振回路の採用が広まり、特にEV・PHV用オンボードチャージャーにおけるLLC共振回路の採用率は9割以上と見ている。

3.大電力用途共振回路用コンデンサの使用方法の特徴

①印加される電圧が高い

共振回路用コンデンサに印加される電圧V(p-p)は、数100V(p-p)から10000V(p-p)と高い。特に自動車用WPTは大電力であり、10000V(p-p)に達するケースも見られる。本製品の定格電圧は630V、1000Vであるため、使用電圧が高い場合はコンデンサを直列に接続して使用する必要がある。コンデンサは直列に接続すると合成容量が減少するため、並列接続によって必要容量を確保する必要がある。

結果的に共振回路においては積層セラミックコンデンサが多直列・多並列接続で使用されているケースが多い。

②共振周波数が高く、電流が大きい

自動車市場の例では、自動車用WPTにおける共振周波数は国際規格上85kHzで固定されているが、EV・PHV用オンボードチャージャーにおける共振周波数はメーカーによって60kHz~400kHzと幅がある。高周波の高電圧がコンデンサに印加されることにより、コンデンサは自己発熱しやすくなる。

従って共振回路用コンデンサには低損失であること、長期使用における自己発熱上昇が抑制されることが求められる。

③使用期間が長い

共振回路を内蔵する大型製品の中には自動車、産電、インフラ用途も多く、使用期間が長いためコンデンサにも長期信頼性が要求される。本製品の場合、連続使用前提で10年を目標寿命としている。

4.コンデンサ選択における注意事項

大電力用途においてコンデンサ選択を誤ると搭載機器の発煙・発火事故につながるため、コンデンサの特性を考慮した上で選択する必要がある。

当社が特に重要と考える項目である「コンデンサの自己発熱」と「許容電圧曲線」について説明する。

大電力用途で使用されるコンデンサは、電圧印加直後の初期発熱の後、自己発熱の上昇が見られる。大電力用途において自己発熱の上昇は不可避であるが、目標寿命(例えば10年)内で最高使用温度125℃を超えるような電圧・周波数条件は避けるべきである(図1参照)。本製品では、コンデンサの表面温度が最高使用温度125℃に達するまでの時間が目標寿命となる電圧を許容電圧としている。従ってコンデンサ選択の際は、使用電圧V(p-p)が許容電圧内である必要がある。

当社はアイテム毎に、周波数に応じた許容電圧を示す「許容電圧曲線」(図2参照)を設定し、製品仕様書や当社HP内のスペックシートに記載している。

図1. コンデンサ表面温度の推移
図2. 自己発熱評価に基づいて設定された許容電圧曲線

許容電圧と周波数との関係について当社の考え方に触れておく。図2に示す「許容電圧曲線」は、アイテム毎に設定される許容電圧グラフを一般化したものであるが、周波数帯によって3つの領域に分類できる。

領域① 定格電圧による制限領域(~数10kHz)

周波数が数10kHz以下と低い故にコンデンサの自己発熱は小さく、定格電圧が許容電圧となる。
但し、中高圧共振回路用コンデンサがこのような低周波領域で使用されるケースは少ない。

領域② 継続的な温度上昇による制限領域(数10~数100kHz)

電圧印加直後の自己発熱は⊿T20度*1以内であるが、数10k~数100kHzに及ぶ高電圧印加により自己発熱の上昇が見られるエリアである。

この領域においては、コンデンサの表面温度が最高使用温度125℃に達するまでの時間が目標寿命(今回ご紹介する製品の場合、目標寿命を10年としている)となる電圧を許容電圧としている。

中高圧共振回路用コンデンサが使用されるケースの大半がこの領域に属する。

*1 当社では低損失、高誘電率チップコンデンサに関わらず、使用可能条件をコンデンサの自己発熱が⊿T20度以内であること、としている。

領域③ 電圧印加直後の初期発熱による制限領域(数100kHz~)

周波数を更に高くすると、電圧印加直後のコンデンサの自己発熱が⊿T20度を超えるようになる。前述の通り当社では低損失系、高誘電率系チップコンデンサに関わらず使用可能条件をコンデンサの自己発熱が⊿T20度以内としているため、コンデンサの自己発熱が⊿T20度となる電圧が許容電圧となる。但し、中高圧共振回路用コンデンサがこのような高周波領域で使用されるケースは少ない。

5.品番選択ツールを公開予定

共振回路用コンデンサは以下の理由により、選択が困難である。

  • 使用電圧が高くなる傾向があるため、結果的に多直列・多並列接続で使用されているケースが多く、合成容量の計算が必要となる。
  • コンデンサ単体の印加電圧V(p-p)を「許容電圧」以下に収める必要がある。

当社は、お客様の使用条件、つまり使用電圧、使用温度、必要容量を入力するだけで、最適な製品と直並列数が表示されるツールを準備しており、お客様の品番選択及び設計における負荷を軽減していく。本ツールは2020年春に当社HPにて公開予定である。

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