インダクタガイド

インダクタ開発秘話【第7回】高周波高速測定技術に悩んだ日々

またまた30年くらい前の話で恐縮ですが、高周波チップインダクタを開発した時のお話です。今やだれでも持ってるスマホですが、当時の移動体通信は自動車電話と言って高級車のセンターコンソールに格納するくらいの大きさでした。あるお客様から「1GHzまでインダクタンスが伸びていて、Qが高く、インダクタンス偏差の小さい高周波チップインダクタはありませんか」のご要求でした。「え!・・・ギ?、ギガヘルツですか?」が正直な最初の感想でした。

会社のパソコンは課に1台だけ、外部記憶装置として8インチフロッピーディスクがガチャガチャと回ってました。文書は手書きでコピーは青焼き、机の上には個人用の灰皿があった時代です。「どうやって高周波で狭偏差インダクタンス値を全数保障するか?」が最大の難関でした。

昔から高周波コイルはあります。メカチューナー(昔のテレビでチャンネンルをガチャガチャ回すやつです)にもバネコイルは使っていて、端子にはんだ付けした後、ヘラでコイルを変形させて周波数を合わせていたバネコイルです。でもそのバネコイルの仕様は、線径・巻数・コイル長さなど物理寸法を定義しているだけで、インダクタンス値が何nH±○%などと保障するものではありませんでした。既に巻線型チップインダクタの量産を開始した直後だったので高周波インダクタ自体を作ることは出来ますが、純粋にインダクタンスとQを高周波で高速自動測定するにはどうしたものかと悩みました。1GHzまで測れるインピーダンスアナライザ(測定器)はあるにはあったのですが当時のそれはスピード的にも測定冶具も高速自動機向きではありませんでした。

試作品性能もお客様仕様を満足し、採用も決まり受注も入ってきました。最初は1個づつ手で測定する人海戦術からスタートです。でもこれから先、受注が増えるのでどうしたものかとあせっていました。

悩みながら出荷検査室で測定していると、ふと横にある古い「Qメータ(*1)」が目に留まりました。学生時代を思い出し「懐かしいなあ」と思いましたが、せいぜい25.2MHzまでで、おまけにアナログ同調操作(ダイヤルグルグル)ではどうしようもありません。
でもここでふと思い直しました。「Qメータってリアクタンス共振ブリッジ(*2)だったよね」と。「そうか!何もインダクタンスそのものを計らなくてもいいか」と思いました。そう思えば後は簡単でした。高安定コンデンサ(さすがに当社はコンデンサメーカーなので)を貰って来て、コルピッツ発振回路(*3)を作りました。電源と周波数カウンタを繋いで実験です。当たり前ですが、発振周波数とインダクタンスは綺麗に相関が取れました。Q値が低い場合は発振が止まるようにも工夫を加えました。後は周波数カウンタの出力をコンパレータ(*4)に繋いで終わりです。高周波チップインダクタの高速自動測定&テーピング機の完成です。これで大量生産の目処がつき、何とか供給できるようになりました。

この測定方式で量産立上げをしたのは最初の2台だけでした。それからしばらくして高速高周波インピーダンスアナライザが発売され3号機からは直接インダクタンスとQを高速測定できるようになったからです。この最初の高周波チップインダクタLQN2Aタイプ:3225[mm]は今では廃番になりましたが多くのお客様に長くご愛玩頂きました。その後の移動体通信の進化はすさまじく、それに応じた多くのラインナップを拡充していき、巻線高周波チップインダクタLQWシリーズに成長していったのです。

<高周波チップインダクタシリーズ>

【ゆるゆる用語解説】

(詳しく知りたい方は専門書を)
*1 「Qメータ」 :
コイルやコンデンサの電気的特性を測る古いアナログ測定器です。
昔の無線技術者の方はこれをよく使った懐かしい記憶があるのではないでしょうか。

*2 「リアクタンス共振ブリッジ」 :
高周波の電気的な天秤の原理です。一方に既に値が分かっている共振器があり、天秤の釣合いが取れると、他方の値が分からないコイルなどが計算出来る仕組みです。

*3 「コルピッツ発振回路」:
高周波の代表的な発振回路です。なぜこの発振回路を選んだかと言うと、新人だった私はこの発振回路しか知らなかったと言うオチです。

*4 「コンパレータ」 :
測定された値を、OKとNGに分けて、機械に送る装置です。旗振り役ですね。

 

EMI事業部/第4セラミック製造部 T.M.

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