インダクタガイド

インダクタの応用製品(バラン・カプラ)【第2回】 TVチューナ用 超小型バラン

最終更新日:2023/07/11

今回はシリーズ「インダクタの応用製品」からTVチューナ用途・超小型バランをご紹介いたします。
(本記事内で紹介している一部の製品(DXPシリーズ)は、NRND又は生産中止となっています。)

バランとは?

「バラン」は「BALUN」と書きます。「BALANCE to UNBALANCE」をつなげた造語で「平衡(信号)-不平衡(信号)変換器」というものです。一般には「バルン」ということもあります。
ここで言う不平衡とは、信号の行き帰りの経路が明確に区別されている信号の伝送モードを指します。多数の信号ラインは共通のグランドを帰り道として使用します。一方、平衡とは、信号の行き帰りの経路がペアとなっている信号の伝送モードを指し、その行き帰りの信号ラインは電気的に対称な設計となります。

【バラン原理図】

 

バランの働きは、アンテナからつながる不平衡ラインとシリコンチューナに備えられている平衡端子との間で不平衡から平衡に信号変換しインピーダンス整合させてつなぐのが役割です。バランの基本構造は同じ極性で向かい合った2つのコイルで構成されます。
基本的なバランの回路構成は変換比率別では 「1:1] と 「1:4」 が一般的です。例えばインピーダンス変換比で表すと 「50Ω:50Ω」 「50Ω:200Ω」 あるいは 「75Ω:75Ω」 「75Ω:300Ω」と言ったものです。これらはアンテナ入力側とシリコンチューナ側の特性インピーダンスの状態によって適する方を選択します。また 「1:1」 の構成では一般的には「トランス型」と「フロート型」の構成もあります。弊社のバランは後述する特性面と小型化に有利な「フロート型」に合わせたバランの設計になっています。

【チューナ構成図】

 

【バランの主な種類】

 

少し理解が難しいかもしれませんが、このバランの選択がインピーダンス条件に合わなければシリコンチューナの性能を十分に引き出すことができません。具体的には接続部でインピーダンス整合のずれに起因する信号の反射が発生して信号の損失が大きくなって所望の受信感度が得られない、特定のノイズや妨害信号に対して弱くなる、等の障害が現れることがありますので設計の際は充分な確認が必要です。

 

実はシリコンチューナのずっと以前からバランは各種無線通信などの受信回路で使用されていました。昔の一般的なバランは10mm角前後の大きさで、メガネ型のフェライトコアに導線を複雑に"通し巻き"するカスタム仕様のもので、コスト、高周波特性のバラツキが大きく回路設計的には大変扱いにくいものでした。弊社はそれを現在の小型・低背化が進むシリコンチューナに適した仕様で超小型、面実装タイプとして開発し、DXPシリーズ、DXWシリーズ を商品化しました。

 

1. DXPシリーズ、DXWシリーズの紹介

※DXPシリーズはNRND又は生産中止となりました。

弊社では、シリコンチューナに適した超小型バランとして独自の薄膜技術を用いたDXPシリーズと巻線技術を用いたDXWシリーズを商品化しています。対応周波数は、地上放送のフルバンドに対応できる50MHz~870MHzとモバイル用 470MHz~870MHzをカバーしたものがあります。インピーダンス変換比は1:4の内部構成を使って疑似的に1:6に対応したものもあります。また衛星放送(BS/CS)に対応可能なラインナップも準備しています。

【ラインナップ】

※DXPシリーズはNRND又は生産中止となりました。

 

各アイテムとも小型・低背で従来のメガネ型バランより大幅な実装面積削減を達成しています。特にDXP18BNシリーズはさらに省スペースの実装を狙い接続配線が簡単になるように内部配線を設計したものになっています。

【等価回路】

 

バラン選択のポイント

①アンテナ側(入力側)の特性インピーダンスを確認し、50Ω系/75Ω系 を選択して下さい。一般的には、地上波系は75Ω、CATVやモバイル系では50Ωが適用されることが多いです。
②シリコンチューナIC側の回路特性インピーダンスを確認して下さい。あるいはICの応用回路リファレンス情報としてバランの仕様が推奨されていることがありますのでそれを確認して下さい。これによりインピーダンス変換比が 1:1 か1:4あるいは1:6を選択して下さい。
③インピーダンス変換比が1:4、1:6の場合はDXPシリーズ、1:1の場合はDXWシリーズが選択対象となります。

バランの特性を十分に引き出すためには特性インピーダンスマッチングが重要です。上記で選択したアイテムでも実際に回路に組んで評価した場合に所望の特性が出ないこともあります。IC側の実際のインピーダンスが理想とするインピーダンス(50Ω/75Ω/200Ω/300Ω)ピッタリではないためです。その場合はマッチングを取る、あるいはアイテムを再度選択し直す必要がありますので、詳細は遠慮なく解決策を弊社にお問合わせ下さい。

2. チューナ回路におけるバランの必要特性

バランはシリコンチューナICの前段に配置するためバランの挿入損失は直接的に受信感度に影響します。デジタル放送の場合は特に電波の強さ(損失=受信感度のレベル)によって一定の閾値を下回ると突然受信できなくなる性質がありアナログ放送の場合に比べても明確に損失の差が現れます。デジタル放送であるが故に挿入損失は厳密に考える必要があり、そのため出来るだけ広い放送エリアで全てのチャンネルが安定した受信状態を確保するためにもバランは広い周波数帯域にわたって低損失が求められます。

【受信状態のイメージ図】

 

また、CMRR(*1)も重要です。CMRRとは、差動(不平衡)信号に含まれる同相信号成分の比率を表し、平衡端子間の位相誤差と振幅誤差と表現することもあります。例えばCMRRが30dBの場合、位相誤差は180°に対して3°、振幅誤差は0.2dB程度というような表し方です。
DXPシリーズ、DXWシリーズともにより広い周波数帯域において低損失と高CMRRをバラツキなく両立しています。

*1) CMRR:Common mode rejection ratio
CMRRが悪い場合には、その信号をRFアンプで増幅した際に歪成分が発生し、結果としてチューナの感度劣化につながります。そのため、高いCMRRも求められます。

【特性データ例】

 

※DXPシリーズはNRND又は生産中止となりました。

DXPシリーズでは、これまでにフィルムタイプのコモンモードチョークコイルで培った独自のフォトリソ微細加工技術と高結合コイル回路/構造設計技術に加え、新たに小型高性能バラン回路設計技術を確立し、上記のバランの必要特性を小型・低背サイズにて実現しました。

【外形寸法図】

 
 

一方、DXWシリーズは巻線タイプのコモンモードチョークコイルで培った高精度な巻線制御技術を用い小型、高性能のバラン特性を実現しました。構造上の制約で1:4のラインナップはありませんが、巻線の特徴である低損失を活かし、1:1の変換比ではより高性能なバランを実現しています。

 

3. まとめ

デジタル放送の時代に移り代わりテレビ用チューナでは、シリコンチューナへの転換期に入りました。その中でバランの役割は益々重要となっています。村田製作所では、独自のバラン回路設計技術とフォトリソ微細加工技術、巻線制御技術の採用によりさらに様々なご要望に応えるべく新技術、新商品の拡充に努めてまいります。

 

担当: 株式会社村田製作所 コンポーネント事業本部セールスエンジニアリング統括部
地デジおやじ

記事の内容は、記事公開日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。

関連製品

関連記事